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徒然ファンタジー71

『N市と言えば立派な『城跡』と『ちょうちん祭り』である』と言ったのは大城氏。シェリーと違ってしっかり地元民と言える人の意見なので参考になるが、一行が城跡に着いた時に少し得意げに言ったので他の者は頼もしいと感じた。けれど城跡の案内が始まったとき、突っ込んだ質問が来ると「え~と」を繰り返していたようにそこまで詳しいというわけではないようだ。もっともここに来たのが二回目であるジェシカやリリアンが、

「あの銅像は何なの?」

とか、

「この石に書かれてある事ってどういう意味?」


といった地元の人も正確に知っているわけではない知識が必要な質問もあったので仕方ないのかも知れない。彼の説明によると、


「え~とあの銅像は、ここに製糸会社を創った人だったような…」


及び、


「え~と、江戸時代に武士の戒めを説いたものだと思います」


であるそうである。少し不安になったシェリーは自らググって確かめて、


「合ってるみたいよ」


と保証した。


「う~ん、見てみるとやっぱり同じなんだよなぁ…」


朝河氏は困ったようなどこか嬉しそうな表情で言った。


「何が同じなんですか?」


望が不思議そうに訊ねた。朝河氏は彼女に笑いかけ、


「こちらのN市も僕の居る『N市』も微妙な違いはあるけれど地形とか建造物とかは同じでさ、やっぱり城があったんだなって」


と説明した。大城氏はこれに興味津々だったようで、


「じゃあやっぱり江戸末期の戦争の事も?少年達が戦ったというのも?」


朝河氏はどこか重々しく、


「うん。戦で散ってしまった子達の名前や年齢は違うみたいだけど、同じような悲劇みたいだよ」


と述べた。リリアンは前日賑わったというこの場所で過去の痛ましい話を聞くと時代が今とは全然違うんだなと思うのだが、こうして自分が知ることで何か浮かばれる事もあるのかも知れないと自分に言い聞かせてみる。朝河氏の話によると、彼の世界でもこの悲劇は知っている人は知っているけれどという状況らしい。そういえば『怪獣』ガララについても全国的に取り上げられる話題ではないとの事で、小さい町の悲哀が見え隠れするようにも思えた。



城跡の次にそこそこ有名であるという観光施設の『ふるさと村』に向かった。車から出て洒落たトンネルのような通路を歩いて出たのは広々とした公園のような場所である。


「なんか敷地が広いですね」


望が印象を述べた。最近子供の遊び場が整備されたらしく、地元の人と思われる幼稚園くらいの子供がお父さん、お母さんと一緒に歩いているのが見られる。城跡とは違って人が多いけれど『大宮望』に気付いているような素振りを見せている人は居ないようだった。


「ここまで来ると、独特の光景よね」


彼等が奥の方の開けた場所に出ると至る所に『和』の雰囲気が広がっていた。武家屋敷や昔の日本で人々が暮らしていたような古民家がそのまま再現されていたり、和紙をメインとする土産物屋がある。だが建物に比べてとにかく芝生の面積が広い。名前通りこの施設全体が『村』なのかも知れないが、シェリーが評するようにテーマパーク的な要素と公園の要素が混ざって独特の様子になっている。


「ここもそちらの世界にあるんですか?」


リリアンが朝河氏に確認した。


「うん。こちらの世界よりも人が少ない気がするけど、殆ど同じだね」


「さっきから同じという事で気になっていたのだけれど、やっぱりそちらの世界でもあの災害があったんですか?」


シェリーが言っているのは数年前から続いているF県、東北、日本全体にとって重大な被害をもたらしたあの出来事である。朝河氏が痛ましい表情になって、


「ああ、そのことか…。実は僕の世界では同じ日にそれが起ったんだけど規模が比較的小さくてね、幸い大した被害がなかったんだよ」


と言った。リリアン達にはそれがとても意外な事のように思われた。朝河氏は「ふう」と溜息をついた。


「だからこそかな、僕は研究に没頭できたし、N市はまだ地方の目立たない過疎化が進みそうな場所だというのは」


その口調は自嘲のようにも安堵のようにも聞こえた。


「そうなんですか…。異世界の人から見て、その辺りの事で私達はどう見えます?」


大城氏の質問はとても難しいものだった。それでも彼は朝河氏の口から聞きたかったようである。異世界ではなくとも異国の人からも本当に思っている事はなかなか届かないという実情がある。朝河氏はある意味で一番客観的に見れるのかも知れなかった。朝河氏は悩んでいたようだが、


「これが答えじゃないでしょうか?」


と言って、笑顔で歩いている人々を手振りで示した。そう結局そこに暮らしていたりそこを訪れた人が、笑顔になるような場所であるなら、そんなに間違ってもいないと彼は言いたいのである。


「不安はあるかも知れません。でも着実に動き出している事があります。それを見て、『凄いな』とどこかで思っているような気がします」


ジェシカは全ての事が分るわけではないが、だからこそ思うのである。


「みんな、本当に楽しそうだよね」


大城氏は深く頷いていた。その時、望はずっと遠くを見てぼんやり呟いた。


「なんか、詞が浮かびそうです」


少しばかり『アーティストモード』になってメモを取り始めている望を見て朝河氏は微笑していた。その後そんな望のテンションが一段と上がるような展開になった。彼等は再び移動して、とある女性の生家に向かったのである。


「ああ!!知ってる!!」


リリアンと大城氏によって少しばかりその女性の説明を受けたリリアンはそれに聞き覚えがあったので思わず叫んでいた。望については感動すらしていたようである。


「そういえばN市といえば、『ほんとうの空』って有名ですよね!詩は『純愛』っていうイメージがあります」


一方で不思議そうな顔をしていたのが朝河氏であった。


「僕の世界には…こういう女性は居なかったなぁ…」


「え…?そうなんですか。あ、でも考えてみれば人が違うんですものね」


すっかり異世界の事を受け入れている大城氏。とにかく入場料を払って記念館に入ってみる事にする。


「う~ん…難しかった…切り絵は綺麗だったけど…」


やはり芸術的な話になるとリリアンにはハードルが高いようだった。対して望は観覧中「うんうん」と頷いていたように、かなり楽しんでいた。


だが案内人の大城氏の表情は何故か浮かない。というのも、


「あとN市の神社に行ったら、大体目ぼしいところは廻ってしまってですね、あとはマニアックな場所になってしまうのですよ…」


という事情があるからである。


「まあ、そうよね…」


シェリーも同意する。さらに朝河氏も、


「僕の方のN市も同じですよ…自然は豊かですけれどもね」


と付け加えた。これにはリリアンも望も苦笑するしかない。
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