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徒然ファンタジー72

自然が豊かだという朝河氏の発言は正しかった。市民なら当たり前のようにあるものなので特に誇れるものではないと思ってしまうけれど、都会の方から来たリリアン達にとってはしかしながらそれが魅力にも映る。昼食にリリアンとジェシカが前に来た洋食屋でランチを食べ終わってから行先に迷っていると、

「大城さんの家は?」

とシェリーが提案する。大城氏の家がそこからそれほど離れていないというのが理由だった。


「かまいませんけど、本当に何もありませんよ」


大城氏は強調する。望は猫を見れるという事で喜んでいたが家に着いた時周辺が田園風景に近いのを見て、


「本当に、自然が豊かですね…」


と言葉を失っているようにも見えた。比較的広い一戸建ての庭からは絶景とも言える大きな山が見える。


「あの山がね、毎日表情を変えて見ていて飽きないんですよ」


と大城氏が紹介したように、この日も快晴だった為山の輪郭が遠くからでも良く見える。遮るものがほとんどない為と、1700メートル級の山であるがゆえに見ていると遠近感が混乱してきそうになる。


「うわ~あれが山なのか…」


「綺麗」


リリアンとジェシカが以前来たときには市内だった為、そこまではっきり見えなかったのだが立ち止まってじっくり『山』を見るのは両者とも初めてだった。家の中に入れてもらうと、さっそく白い猫が出迎えてくれた。人懐っこいそうだが、流石に大勢が来たのは初めてだという事で少し驚いて奥に隠れてしまった。


「今の写真の猫だよね」


リリアンが訊ねた。


「ええ、『そら』って言います」


「へぇ~カワイイ名前ですね!よし!」


言うや否や望はさっそく猫を追い掛けて家に上がった。猫の事になると我を忘れるらしい。奥の方から望の甘ったるい「そら~!」という声が聞こえる。望が昨日の様子と違うのが面白いので皆でニヤニヤしている。取り敢えず他の一同もお邪魔させてもらう事にして、広めのリビングに案内された。一人暮らしと言う事だが、整理は行き届いている。どちらかというと物が少ないようにも見える。するとリビングに『そら』を抱きかかえた望がやって来た。


「めっちゃカワイイですね!毛も綺麗だし」


「ジェシカ、どう?」


リリアンがジェシカに『そら』について訊ねた。ジェシカは『そら』をじーっと見つめている。そして、


「カワイイね」


と一言。シェリーは「ふ~ん」と頷いた。その後少しばかり猫好きによる猫談義が始まった。『猫あるある』を始めるとお互いに頷きあってシェリーが思わず、


「やっぱり猫飼おうかしら」


と言った。朝河氏も悩ましげに、


「そうですね、僕も飼わなきゃいけないような気がしてきました」


と呟いた。結果的に一時間程そこに滞在したのだが、特にする事もないので再びシェリーの店に戻ろうという話になった。リリアンとジェシカも店から市内の商店街辺りを歩いていたが、望や朝河氏も一緒に歩けば何か発見があるかも知れないという事も考えていた。



10分ほどで店に到着する。車を降りた朝河氏が言う。


「僕は多分この近くにあると思いますが、図書館と歴史資料館に行ってきたいと思います」


異世界と同じ立地関係だという判断でそう言ったのだがシェリーは一つだけ注意する必要があった。


「あ、あのあたり今下水道の工事があったような気がするから、歩いて行った方がいいかも」


「え、そうなんですか…さすがにそこまでは同じではないですね」


「まあ当然と言えば当然ですよね」


シェリーと朝河氏は顔を見合わせて苦笑していた。ついでなので望やリリアン達も着いてゆく事にする。シェリーは店の整理でもしていると言って、大城氏が付き添いというカタチになった。歩くと結構距離があるのだが昭和レトロとも言える商店街を歩いて、ある所で右に曲がり急な坂を登り始めると、シェリーの忠告通り道路の一車線を塞ぐように工事が行われていた。すこし登ったところに図書館と歴史資料館が隣接しており、一帯には何となく文化の香りが漂っていた。


まず図書館に入った一向。図書館についてリリアンだけでなく望も<小さい>と思ったであろうが、こじんまりとした建物の中に、本がぎっしりとあるのは間違いなかった。


「そういえば望ってどういう本を読むの?」


リリアンが小声で訊いた。望は、


「えっと、猫の出てくる小説とか集めてますよ」


「え、じゃあ『魔女の宅急便』と…」


言いかけたところで望のテンションが上がって、


「あー、そうです!!あれ凄く好きで…」


と途中まで大きい声を出してしまった事に気付いて、語尾は段々小さくなっていった。


「ジェシカに読ませてるのよ。まだ一冊目だけどね」


「えーそうなんですか!読み終わったら感想聞いてみたいですね」


二人で話していると朝河氏が立ち止まって本を選び静かに読み出した。リリアンには縁遠そうなタイトルなので<さすがだな>と思ったりした。彼は歴史の本を読み漁っていた。そういえばリリアンには本について一つ気になっていた事があった。迷うが訊いてみる事にする。


「朝河さん」


「はい、何でしょう?」


朝河氏は本からリリアンの顔に目を移した。


「その…『秘術』とか載っている本ってどうやって手に入れたんですか?」


すると朝河氏はやや躊躇いつつも、


「実はですね、『秘術』というのはこちでも歴史上の話なのですが錬金術に由来するものなのです。なので原点はアラビア語ないし、ラテン語なんです。集めるのも読むのも大変でしたが、運良くラテン語の塾を地元で開いている女性がいまして、2年前程からは原典も解読できるようになったのです」


「へぇ…で、その書いてある『秘術』で道具とかを作るのはどうやるんですか?」


「基本的には『秘術』を込める物は何でも良いんです。魔法と科学を半分づつ使うように、大まかなところは魔法で細かい部分は科学で設計するので、道具の形を製作するのは知り合いに頼んでですね」


「魔法って使えるんですか…?」


これは望が訊いたことである。望自身の変身も既に魔法のようなものだから今更と言う感じもするが、朝河氏から聞くのは意義があった。


「魔法と言いましたがこれも語弊がありまして、要するに自然界の物理的な必然を少し捻じ曲げるようにする不可知のエネルギーを用いているのではないかと思っています」


「え…?それってどういう事ですか?」


「『怪獣』の話をしましたよね。僕等の世界ではある時以来『怪獣』が突然出現するようになったのですが、『怪獣』のエネルギーもこちらの世界の物理現象では起こり得ません。が、何らかの理由によって僕等の世界はそれまで知られていなかった次元とか、別の法則に従うエネルギーが存在するのではないかと言われ始めています」


とても難しい話だったので大城氏が補足する。昨日朝河氏から既に聞いていたようである。


「まあ単純に言ってしまうと『不思議パワー』って事ですね。それを科学で補うとそういう道具が出来ると…昨日朝河さんが言ってました。でもその『不思議パワー』は普通の仕方では使えなくて、錬金術時代の『秘術』の一部には偶然そういう力にアクセスしコントロールするようなものがあるらしいです」


「多分、当時の人がまぐれで辿り着いたんでしょうな」


「へぇ…凄いですね。なんか思っていたものと少し違います」


望は感心するように言った。だが朝河氏は少し難しい顔をして、


「僕は『猫の置物』の事が今一番気になっています。本当はそういうものの由来などが分るような書籍があればと思うのですが、まあ多分、ここでは見つからないでしょうね」


と言って穏やかに笑った。実際そういう書籍があるという保証もないし急いで探すものではない。


「だから、僕はここで歴史の本の見定めをしているんです。こちらの世界で買って持ち帰れそうなものをちょっと探していて…」


「ああ、それなら」


と大城氏が何かを思いだして、近くの棚から分厚い本を持ってきた。


「N市の『市史』ですよ。歴史が書かれてあるのは1と2だったと思います」


「おお!やっぱりこういうのが良いですよね…う~ん、悩ましい」


朝河氏が悩んでいた時、ジェシカはふらふらと本棚を巡っていた。


「う~ん…」


ジェシカは、ぼんやり<ここにある本を全部読んだ人は居るんだろうか?>などと考えていた。
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