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朝河氏

『店』で立華さん達と少しこれからの事について話し合う。ジェシカ君は眠いそうで、先に『店』の二階の立華さんの住居で休むそうである。いつものようにカウンターの奥で集まると既に『関係者』として数えいれられている感じがする。実感はそれほどないのだが、誰にでも話せる内容ではないのは確かであろう。


「先ず当面の事で、明日はどうするかよね。私はとりあえず明後日月曜日も有休だから明日はこっちに居られるよ」


最初にリリアンが話し始める。私も明日が大丈夫だという事とそれ以降は仕事が終わった後ならばという事を伝えた。それに加えて朝河氏の滞在中、家に居てもいいとこちらから申し出た。朝河さんと話してみたけれど、特に問題はないように思えたのである。朝河氏は、


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただこうと思います」


と言ってくれた。大まかな事はそれで決まったと思ったのだが立華さんは、


「肝心なのは朝河さんがこちらで何をしたいという事ですよね」


という発言をした。皆一瞬黙り込んでしまったが、よくよく考えてみるとただの観光ではないとすればそこが重要になると気付いた。朝河氏の言葉を待っていると、彼は少し口調を変えてこう言った。


「もし僕が、「異世界から来た」という事を公にするという希望を言ったら…」


この時立華さんが、


「私はそこまでの協力は出来ない…私が協力するのは『置物』と『秘術』の関係についての調査よ」


ときっぱりと言った。朝河氏の表情は変わらず落ち着いたものだった。


「ええ。勿論、これは途方もないという事も分ってます。と言うかこの一年ほど一生懸命やって来た結果として今があるわけですから、ある意味でこれ以上のアクションというのは難しいと思っています。それに…」


「それに?」


これはリリアンさん。


「僕はある意味で、リリアンさんとジェシカ君の日常に…触れ過ぎました」


「え…?私とジェシカの?」


リリアンさんは意外な言葉に驚いていたが、私にとってそれは謎の表現だった。朝河氏は満足げな穏やかな表情で説明する。


「リリアンさんにとってもジェシカさんにとっても…立華さんや多分大城さんにとってもだと思いますが、僕やあちらの世界の存在は大きな謎だったと思います。そういう事を抱えつつもそのまま続いてゆく『日常』をより良く、答えのない答えに必死に答えようとしてきた一年近い時間があった筈です」


確かに朝河さんの言うとおり、私にとって『異世界』の事は大き過ぎてどうしようもない謎だった。ここ数ヶ月、気になっていた事は否定できない。特に立華さんと話してきたことで、立華さんが必死に考えて来た事は私にも分っている。


「僕はそれを見てきたように知っています」


確かに何らかの手段によって朝河さんはリリアンさんや立華さんの事を知っている。異世界の事を置いておくにしても、それは本当だ。そしてそれは決して悪い意味ではないという気がするのである。朝河さんは続ける。


「途中で思いました。僕が見たいもの知りたいものは、大いなる何かではなく、本当に素敵な物語なのではないかと」


随分ロマンチックだとも思ったが彼の本心なのだろう。


「ふふ…要するに、今この瞬間が楽しいって事よね」


立華さんの言葉に朝河氏もにこやかな表情で答える。


「ええ。望さんの歌声も素敵でしたしね。それだけだってこちらの世界に来た甲斐がありますよ!逆に…」


「逆に?」


今度は私がその先が気になって言った。


「この世界…というか僕の地元のようなこの町を一旅行者として純粋に見て回りたいなって思いました」


先ほど立華さんが肝心だと言った事はここで答えられているように思う。私はこの人を『地元』の仲間として迎い入れたいと思い始めた。その後、和気あいあいとした雰囲気で朝河氏がこちらの歴史について興味があるという事が分った。私も異世界の歴史は調べられるものなら調べたいところだが可能なのだろうか?



この日の会合は一時間程で『この世界』を『観光』するにあたって、明日は望さんも加えてN市の観光をする事に決まり、以降は立華さんが希望していた『猫の置物』と『秘術』の関係を調べるという事、そして可能ならば朝河さんがリリアンさんの所にゆくという事で決まった。『店』を出て朝河さんと家に帰宅する。不思議だったのは地元の人のようにN市の道を知っていた事である。


「ああ、ここですか」


家に着いた時、朝河さんは感慨深そうに言った。11時を越えているので外は真っ暗だが家の周りは開けているので場所は大体分かるのかも知れない。ところで家に着いた時、私は猫の事が妙に心配になってしまった。こんなに遅くなったことはないし、寂しがっていないだろうかお腹を空かせていないだろうか、考え出したら止まらなくなって急いでドアの鍵を開けて家の中に入る。


「にゃ~」


一瞬にして安心した。暗がりでもしっかり分る白い毛。「そら」が待っていてくれたのである。まるで抗議するように何度も鳴いくところを見ると<これは餌だな>と思った。朝河氏に、


「とりあえず、上がってください」


とだけ言って「そら」に餌をあげる。やはりお腹が空いていたようで必死で噛り付いている。「そら」の事が済むと、今度は朝河さんに対して失礼ではなかったかとちょっと焦って、灯りをつけ、朝河さんをリビングに招く。朝河氏は私に、


「大城さんともじっくり話がしたいところですが、今日はちょっとすぐに眠りたいですね」


と告げた。私もそれに賛成して、


「じゃあ、今布団を用意しますので、明日起きてから話しましょう」


と提案した。朝河氏は笑顔で頷いた。準備をして私も眠る事にした。次の日、目覚めたのは朝の7時。朝河さんも同じ頃に目覚めたようで、私が朝食の準備を始めると朝河さんが現れた。


「おはようございます。今日は宜しくお願いしますね!」


「はい!」


二人ともしっかり休めているようだった。それからゆっくり食事を摂りながら、昨日の事や「そら」の事、家に置いてある『白い猫の置物』などの話をする。食後のコーヒーを飲み終わった辺りでこちらから基本的な事は話せたので今度は朝河さんから話すのを待っていた。「ふぅ」と息をつくと朝河さんは私に身の上話を始めた。


「異世界の事ですが、まあこちらのN市生まれの男の話だと思ってくださっても構いません」


と最初に断った。「ええ」と答えるとこんな具合に話し始めた。


「将来外国で活躍できるようにと「マイケル」と読ませる洋風の名前を与えられた僕は、そこそこ良い教育を与えてもらい考古学の方面ですが研究職に就くことが出来ました。けれど外国で活躍するようにはならなかったというか、もともと国内でする研究でしたので地元の大学の比較的地味な位置に留まっていました。50位になって、第二の人生というものを考え始めた時でした…」


朝河氏はそこで言葉を切って、どこか遠い方を見るような目つきになった。


「偶然、ある書籍に出会いました。かなり古い本でしたが、その本には僕がこれまで聞いたこともないような事が載っていました。異世界…つまりこちらの世界の事、そこに移動したという情報。信憑性は疑わしかったのですが、その本の参考文献を当たってみるとそれは洋書の古い和訳もので、少し骨を折って探したところ何とか入手する事ができて、そこに和訳で『秘術』という言葉が出てきました」


「なるほど…興味深いですね」



「そこから『秘術』に関係していそうなものを調べるようになり、いつの間にかそちらが主になってしまって、研究の方も講師のような立場にしてもらって『半隠居』と言ったような生活が始まりました。幸い独り身なので、咎められる事も無く比較的自由にやれて段々大胆になって来た所で、決定的な書籍を見つけました。その記述によれば今では失われているとされている『秘術』の幾つかは再現可能なのです」


「そして実際に再現したという事ですね」


「ええ。信じられないかも知れませんが…再現できた時、そして異世界を実際に確認できた時の驚きは凄まじいものでした。そしてその時、僕の想像は異世界を飛び越えて、その彼方にあるものに向かい始めていたのです」



「それが、異世界とこちらの世界の関係で分ると…いう事でしたよね」



「あくまで仮説に過ぎないのですが、研究者の端くれとして可能ならば確かめてみたいと思っているのは確かです。が、実際にこちらの世界の事を知るにつれて気持ちが変わっていったのは昨日述べた通りです」



「分りました。本当に興味深いです。ただジェシカ君の変身も見れてないし、まだ自分で確認して無い事があるものですから…」



ある意味で話が少しややこしくなっていた。間接的な証拠でどこまで信用できるかという問題である。すると朝河氏はこんな事を言った。


「僕はこの『白い猫の置物』について、なんだか違和感を感じるのです。何といったらいいのか、ちょっと伝えにくいものがあるのですが」


朝河氏は棚に安置してある『白い猫の置物』を見て言う。その時、同じく白猫である「そら」がこちらに近づいてきて、「にゃ~」と鳴いた。そして朝河さんの方に向かって行ったので、彼は「そら」を膝の上に乗せて、


「こんにちは。「そら」くん」


と言った。雌猫も「くん」付けで呼ぶのが研究者っぽいなと思ったりした。人懐っこさ全開の「そら」は朝河さんにもさっそく甘えた声で鳴いている。
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