徒然ファンタジー74
大城氏が望を送ってゆくと店はリリアン達と朝河氏だけになった。今日もシェリーのところに泊まってゆく予定のリリアンは店番を手伝う事にしてカウンター立っている。シェリーは窓や床を磨いたりしていて、ジェシカと朝河氏は店の中を周りながら話をしていた。そもそも朝河氏の今回の滞在はジェシカの一言によって決まったと言ってもよく、ジェシカなりに彼に話したい事があったようである。
「俺、『マイケル』さんに聞きたいことがあるんです」
「うん」
マイケルさんと呼ばれた朝河氏はジェシカの言う言葉を静かに待っていた。
「マイケルさんは、俺の事どう思います?」
それは少し漠然としていたが、こうして人間の姿で居る自分はどう見えるかという事を問うている。朝河氏は、
「そうだね。ジェシカ君は一生懸命だと思うよ。僕がジェシカ君の所に来た時には正直、どうなるかあまり考えてなかったかも知れない。でも、君はきちんと自分の意思を見せたよね」
「マイケルさんが来てくれて良かったと思ってます。この前も、今回も」
「嬉しいね。ありがとう」
「シェリーのおばあちゃんが言ってたんだけど、」
とジェシカは少し躊躇うように言う。
「ご主人さま達を大切に思う自分の気持ちから素直に出てくる事をそのままやってきて、今回のはマイケルさんの事を思って出て来た事だったんです」
「そうか。僕のことを考えてくれたんだね。じゃあ逆に質問なんだけれど、」
朝河氏はそこで何かを言いかけたのだが、自分の言おうとしている事が可笑しいと思ったのか言う前に笑ってしまっていた。
「ふふ…こんな質問はどうかと思うけど、ジェシカ君は僕のことをどう思う?」
それもまた漠然としていたし、何よりジェシカにする質問ではないようにも感じられるだろう。だがジェシカはまた一生懸命それに応えようとしていた。
「俺は…」
ジェシカはゆっくりと語り出す。
「マイケルさんは凄い人なんだなってことは分かります。でも俺と似ているところがあるような気がします」
「似ている?」
意外な表現だったので思わず訊き返していまう朝河氏。
「ええ。どうしたら良いのか分ってない、そんな気がするんです」
朝河氏はその言葉を聞いて目を大きく見開いていた。どうやら驚いたらしい。彼はこう言った。
「確かに僕等は似ているのかも知れない。どうしたら求めるものに辿り着くのか、何が求めるものなのか…」
「でも、」
その時、ジェシカは自信に満ちた言葉を述べた。
「自分が何かを本当にしたいって思った時に、求めるものが分ったんだと思います」
「…そうだね。そうかも知れない。単純なことだけれど、したいって思えてないうちは求めていないとも言えるよね…」
朝河氏は言葉を確かめながらこんな風に問うた。
「でも求めるものじゃなかったって分った場合には?」
「本当にしたいと思っている強さだけ、求めていたんだと思います。その時は多分それ以上に求めていたものがあったんじゃないでしょうか?」
ジェシカは雄弁に語った。朝河氏は再び驚きながら、
「ふふ…ジェシカ君は猫の時も人間の時も素直だから、ある意味シンプルに分ってるのかも知れないね」
と言った。実際、それは猫だからこそ分る事なのかも知れない。朝河氏は最後に訊いた。
「じゃあ、君が今一番求めている事は?」
「ご主人さまと一緒に皆でまた今日みたいに会う事です!」
それは明快な答えだった。そうジェシカはただ朝河氏に会いたかったのである。皆で一緒に過ごしたかったのである。
「そうか…考えてみればそういう事が一番楽しいよね」
そう言った彼の目は少し潤んでいたようにも見えた。会話を聞いていたリリアンとシェリーもにこやかにほほ笑んでいた。ところでその後、朝河氏がジェシカに店に飾ってあった一つの絵を紹介されて衝撃を受けていた。
「こ…これは…し…信じられない…」
それはジェシカが以前ここに来たときに見入っていた風景画である。広々とした草原に小さな木造の家がポツンと存在している光景。シェリーの話によると謎多き絵なのだが、これを見ていた朝河氏は見る見るうちに驚愕の表情に変わっていった。
「どうなされました?その絵になにか?」
シェリーが近寄って窺う。朝河氏は慌てながら説明する。
「この絵の、光景は、僕が良く見慣れているものです…というか、あちらの世界の僕の家が描かれています」
「え…そうなんですか!?でもそれだったらこちらのN市にもこういう所があるかも知れないですよね」
「ええ、まあそうなんですが…。そうか…こちらの世界の僕の家にあたる場所に行けばこれと同じ光景が見られるかも知れません!!」
「まあ!そういう事だったら、ちょっと行ってみましょうか!」
少し急だがリリアン達は車に乗って皆でそちらに向かう事にした。車を運転していたシェリーは、
「ああ、念のため大城さんにメールで連絡してもらえるかしら」
「じゃあ私がこれで連絡します」
と言って望に借りたタブレットを操作する朝河氏。それは後でリリアンから望に返す事になっている。
「送りました」
すぐに大城氏の方からも連絡があった。
『分りました。こちらは今望さんをF市の駅に送り届けたので『店』に向かうところです』
「朝河さんの家まではここからだとどのくらいの所なんですか?」
リリアンが訊ねた。朝河氏は、
「山の方なので車だと15分程度ですね」
「へぇ~そんなところにこんな光景が広がってるんですね」
そして確かに車は山をどんどん登って行って中腹くらいのところで、
「ここを曲がってください!」
と朝河氏が言った。確かにその辺りは山だけれど『高原』であり、しかもロッジのような建物が他にも見られる場所だった。冬にはスキーが出来るとの事であるが、確かに市内の様子からすると雪はないが別世界だった。
「あ…ここよ!!」
シェリーが声をあげた。目の前に広がる光景は絵と同じである。草原…は高原の比較的平らになっているところで、家はまさに絵と同じく外国にあるような木造の建物である。
「すごい…なんか外国みたい…」
車を降りてリリアンが開口一番に言った。
「絵と同じだね…」
ジェシカも驚いているようである。
「家には誰か住んでいるのかしら?」
シェリーはそう言って家の方に歩き出した。だが、家に近付くにつれてそれが最近使われている形跡がないという事に気付いた。
「無人ですね…多分誰も住んでいないと思います」
「とすると、あの絵は前に描かれたものね…。こちらの世界の風景ならばの話ですけど」
「奇妙な偶然よね…。風景として美しいから、あり得ない事ではないけれど…」
リリアンはそう言って自分を納得させようとしているようだが、様々な事が絡み合って偶然の一言で片付けるには惜しいような気もする。朝河氏は少し呆然としてその光景を見つめている。しばらくして、
「絵を描いた人に訊いてみたいですよね…どうしてここを選んだのか」
シェリーと朝河氏で調べたい事がもう一つ増えたようである。一同が再び店に集まったのは17時半だった。リリアン達が戻ってきた丁度その時、大城氏の白い自動車も駐車場に停まったところでグッドタイミングであった。店の中で大城氏に詳しい事情を説明すると例の絵の前で大城氏が驚きながらも何かを納得するように頷いていた。大城氏によると、
「ええ幻想的な絵だと思ってましたが、確かに高原の方を知っていればN市にもありそうな光景だと思ったかも知れないですね」
「やっぱりそうなのね。私はあっちの方そんなに行ってなかったからね」
シェリーは知らなかった事について少し後悔をしているようだった。ただ、「ここに住んでいる時間を考えると仕方ない事だ」という大城氏からのフォローがあった。何にせよ、謎だった絵について分ったのだから素直に喜んでもいいだろう。
「でも、そうなると描いた人を調べられるかも知れない。あの辺りに縁がある人を調べてみればいいんだもんね」
すぐさま前向きに考え始めるシェリー。大城氏もネットや知り合いなどに訊いたりして調べてみるそうである。
「じゃあ、今日はとりあえず解散ね。明日以降は調べるのがメインだし、リリアンとジェシカは早めに戻ってもいいわよ」
「そうね。もし朝河さんがこっちに来るんだったら準備とかしておいた方がいいしね」
「本当に色んなことがあったね」
ジェシカが感慨深そうに言う。他の者も同意していた。
「明日以降の事ですが、とりあえず僕はF市の県立図書館に行ってみたいと思います」
他にも調べたい事もあるようだが、当面こちらの世界の事や書籍を調べてみたい朝河氏にとってはそれが最適であろう。そこでリリアンは、
「じゃあ何か欲しい本があったらメールしてみて下さい。私の住んでいる所の書店にないか調べてみます。ネット通販は、ちょっと間に合わないかも知れませんけど」
と朝河氏に告げた。
「分りました。ありがとうございます」
彼が深々と礼をするものだから少し恐縮してしまった。ここで朝河氏と大城氏が帰宅する。7時まで店を開け何だかんだで忙しそうなシェリーの代わりに夕食をリリアンが作る事にして二階に移動した。とりあえずテレビを付けることにしてチャンネルを日曜夕方のニュースを放送している国営放送に合せる。ジェシカは寛いで見ていたが、18時の後半でF県のニュースになると一つのトピックに驚いた。
「ねぇ!望の事がニュースになってるよ!!」
「え…どれどれ!!」
ジェシカの言うとおり昨日の望のコンサートの事が少し紹介されていた。コンサート前に短いインタービューを録画していたようで『F県に対して何かをしたい』という望の言葉の後に、F市の体育館で開催されたコンサートのワンシーンが流れた。ニュース自体は短いものだった。後でシェリーに報告すると、
「地元のニュースだから望だからというわけではなくて、多分望がそういう発言をした事が大きく取り上げられたのだと思うわ。実際に実行したわけだしね」
「なるほど…。でも改めてニュースになっているのを見ると凄い人だなって思うよね」
そこでリリアンは望にその事をメールをしてみる事にした。丁度食事中だったのでそのまま夕食を食べていると、
『私が伝えたいものは伝えられたかなって思います。でも今後も続けてゆく事が必要だと思ってるのでこれからですね』
というメールが届いた。文面はそれで終わりではなく、
『今日はありがとうございました。本当に楽しかったです!!』
と続いていた。日が変わって次の朝、リリアンとジェシカは自分の家に戻った。帰りの新幹線の中でシェリーからメールが届いた。それによると今度の土日を利用して朝河さんを連れてリリアンのアパートに行くということに決まったらしい。そして予定ではそこで朝河さんが異世界に戻るそうである。どうやら最初にこの世界で最初に降り立った場所から戻るのが『縁起いい』との事であった。
「それもそうよね」
とリリアンは何となく頷いていた。
「俺、『マイケル』さんに聞きたいことがあるんです」
「うん」
マイケルさんと呼ばれた朝河氏はジェシカの言う言葉を静かに待っていた。
「マイケルさんは、俺の事どう思います?」
それは少し漠然としていたが、こうして人間の姿で居る自分はどう見えるかという事を問うている。朝河氏は、
「そうだね。ジェシカ君は一生懸命だと思うよ。僕がジェシカ君の所に来た時には正直、どうなるかあまり考えてなかったかも知れない。でも、君はきちんと自分の意思を見せたよね」
「マイケルさんが来てくれて良かったと思ってます。この前も、今回も」
「嬉しいね。ありがとう」
「シェリーのおばあちゃんが言ってたんだけど、」
とジェシカは少し躊躇うように言う。
「ご主人さま達を大切に思う自分の気持ちから素直に出てくる事をそのままやってきて、今回のはマイケルさんの事を思って出て来た事だったんです」
「そうか。僕のことを考えてくれたんだね。じゃあ逆に質問なんだけれど、」
朝河氏はそこで何かを言いかけたのだが、自分の言おうとしている事が可笑しいと思ったのか言う前に笑ってしまっていた。
「ふふ…こんな質問はどうかと思うけど、ジェシカ君は僕のことをどう思う?」
それもまた漠然としていたし、何よりジェシカにする質問ではないようにも感じられるだろう。だがジェシカはまた一生懸命それに応えようとしていた。
「俺は…」
ジェシカはゆっくりと語り出す。
「マイケルさんは凄い人なんだなってことは分かります。でも俺と似ているところがあるような気がします」
「似ている?」
意外な表現だったので思わず訊き返していまう朝河氏。
「ええ。どうしたら良いのか分ってない、そんな気がするんです」
朝河氏はその言葉を聞いて目を大きく見開いていた。どうやら驚いたらしい。彼はこう言った。
「確かに僕等は似ているのかも知れない。どうしたら求めるものに辿り着くのか、何が求めるものなのか…」
「でも、」
その時、ジェシカは自信に満ちた言葉を述べた。
「自分が何かを本当にしたいって思った時に、求めるものが分ったんだと思います」
「…そうだね。そうかも知れない。単純なことだけれど、したいって思えてないうちは求めていないとも言えるよね…」
朝河氏は言葉を確かめながらこんな風に問うた。
「でも求めるものじゃなかったって分った場合には?」
「本当にしたいと思っている強さだけ、求めていたんだと思います。その時は多分それ以上に求めていたものがあったんじゃないでしょうか?」
ジェシカは雄弁に語った。朝河氏は再び驚きながら、
「ふふ…ジェシカ君は猫の時も人間の時も素直だから、ある意味シンプルに分ってるのかも知れないね」
と言った。実際、それは猫だからこそ分る事なのかも知れない。朝河氏は最後に訊いた。
「じゃあ、君が今一番求めている事は?」
「ご主人さまと一緒に皆でまた今日みたいに会う事です!」
それは明快な答えだった。そうジェシカはただ朝河氏に会いたかったのである。皆で一緒に過ごしたかったのである。
「そうか…考えてみればそういう事が一番楽しいよね」
そう言った彼の目は少し潤んでいたようにも見えた。会話を聞いていたリリアンとシェリーもにこやかにほほ笑んでいた。ところでその後、朝河氏がジェシカに店に飾ってあった一つの絵を紹介されて衝撃を受けていた。
「こ…これは…し…信じられない…」
それはジェシカが以前ここに来たときに見入っていた風景画である。広々とした草原に小さな木造の家がポツンと存在している光景。シェリーの話によると謎多き絵なのだが、これを見ていた朝河氏は見る見るうちに驚愕の表情に変わっていった。
「どうなされました?その絵になにか?」
シェリーが近寄って窺う。朝河氏は慌てながら説明する。
「この絵の、光景は、僕が良く見慣れているものです…というか、あちらの世界の僕の家が描かれています」
「え…そうなんですか!?でもそれだったらこちらのN市にもこういう所があるかも知れないですよね」
「ええ、まあそうなんですが…。そうか…こちらの世界の僕の家にあたる場所に行けばこれと同じ光景が見られるかも知れません!!」
「まあ!そういう事だったら、ちょっと行ってみましょうか!」
少し急だがリリアン達は車に乗って皆でそちらに向かう事にした。車を運転していたシェリーは、
「ああ、念のため大城さんにメールで連絡してもらえるかしら」
「じゃあ私がこれで連絡します」
と言って望に借りたタブレットを操作する朝河氏。それは後でリリアンから望に返す事になっている。
「送りました」
すぐに大城氏の方からも連絡があった。
『分りました。こちらは今望さんをF市の駅に送り届けたので『店』に向かうところです』
「朝河さんの家まではここからだとどのくらいの所なんですか?」
リリアンが訊ねた。朝河氏は、
「山の方なので車だと15分程度ですね」
「へぇ~そんなところにこんな光景が広がってるんですね」
そして確かに車は山をどんどん登って行って中腹くらいのところで、
「ここを曲がってください!」
と朝河氏が言った。確かにその辺りは山だけれど『高原』であり、しかもロッジのような建物が他にも見られる場所だった。冬にはスキーが出来るとの事であるが、確かに市内の様子からすると雪はないが別世界だった。
「あ…ここよ!!」
シェリーが声をあげた。目の前に広がる光景は絵と同じである。草原…は高原の比較的平らになっているところで、家はまさに絵と同じく外国にあるような木造の建物である。
「すごい…なんか外国みたい…」
車を降りてリリアンが開口一番に言った。
「絵と同じだね…」
ジェシカも驚いているようである。
「家には誰か住んでいるのかしら?」
シェリーはそう言って家の方に歩き出した。だが、家に近付くにつれてそれが最近使われている形跡がないという事に気付いた。
「無人ですね…多分誰も住んでいないと思います」
「とすると、あの絵は前に描かれたものね…。こちらの世界の風景ならばの話ですけど」
「奇妙な偶然よね…。風景として美しいから、あり得ない事ではないけれど…」
リリアンはそう言って自分を納得させようとしているようだが、様々な事が絡み合って偶然の一言で片付けるには惜しいような気もする。朝河氏は少し呆然としてその光景を見つめている。しばらくして、
「絵を描いた人に訊いてみたいですよね…どうしてここを選んだのか」
シェリーと朝河氏で調べたい事がもう一つ増えたようである。一同が再び店に集まったのは17時半だった。リリアン達が戻ってきた丁度その時、大城氏の白い自動車も駐車場に停まったところでグッドタイミングであった。店の中で大城氏に詳しい事情を説明すると例の絵の前で大城氏が驚きながらも何かを納得するように頷いていた。大城氏によると、
「ええ幻想的な絵だと思ってましたが、確かに高原の方を知っていればN市にもありそうな光景だと思ったかも知れないですね」
「やっぱりそうなのね。私はあっちの方そんなに行ってなかったからね」
シェリーは知らなかった事について少し後悔をしているようだった。ただ、「ここに住んでいる時間を考えると仕方ない事だ」という大城氏からのフォローがあった。何にせよ、謎だった絵について分ったのだから素直に喜んでもいいだろう。
「でも、そうなると描いた人を調べられるかも知れない。あの辺りに縁がある人を調べてみればいいんだもんね」
すぐさま前向きに考え始めるシェリー。大城氏もネットや知り合いなどに訊いたりして調べてみるそうである。
「じゃあ、今日はとりあえず解散ね。明日以降は調べるのがメインだし、リリアンとジェシカは早めに戻ってもいいわよ」
「そうね。もし朝河さんがこっちに来るんだったら準備とかしておいた方がいいしね」
「本当に色んなことがあったね」
ジェシカが感慨深そうに言う。他の者も同意していた。
「明日以降の事ですが、とりあえず僕はF市の県立図書館に行ってみたいと思います」
他にも調べたい事もあるようだが、当面こちらの世界の事や書籍を調べてみたい朝河氏にとってはそれが最適であろう。そこでリリアンは、
「じゃあ何か欲しい本があったらメールしてみて下さい。私の住んでいる所の書店にないか調べてみます。ネット通販は、ちょっと間に合わないかも知れませんけど」
と朝河氏に告げた。
「分りました。ありがとうございます」
彼が深々と礼をするものだから少し恐縮してしまった。ここで朝河氏と大城氏が帰宅する。7時まで店を開け何だかんだで忙しそうなシェリーの代わりに夕食をリリアンが作る事にして二階に移動した。とりあえずテレビを付けることにしてチャンネルを日曜夕方のニュースを放送している国営放送に合せる。ジェシカは寛いで見ていたが、18時の後半でF県のニュースになると一つのトピックに驚いた。
「ねぇ!望の事がニュースになってるよ!!」
「え…どれどれ!!」
ジェシカの言うとおり昨日の望のコンサートの事が少し紹介されていた。コンサート前に短いインタービューを録画していたようで『F県に対して何かをしたい』という望の言葉の後に、F市の体育館で開催されたコンサートのワンシーンが流れた。ニュース自体は短いものだった。後でシェリーに報告すると、
「地元のニュースだから望だからというわけではなくて、多分望がそういう発言をした事が大きく取り上げられたのだと思うわ。実際に実行したわけだしね」
「なるほど…。でも改めてニュースになっているのを見ると凄い人だなって思うよね」
そこでリリアンは望にその事をメールをしてみる事にした。丁度食事中だったのでそのまま夕食を食べていると、
『私が伝えたいものは伝えられたかなって思います。でも今後も続けてゆく事が必要だと思ってるのでこれからですね』
というメールが届いた。文面はそれで終わりではなく、
『今日はありがとうございました。本当に楽しかったです!!』
と続いていた。日が変わって次の朝、リリアンとジェシカは自分の家に戻った。帰りの新幹線の中でシェリーからメールが届いた。それによると今度の土日を利用して朝河さんを連れてリリアンのアパートに行くということに決まったらしい。そして予定ではそこで朝河さんが異世界に戻るそうである。どうやら最初にこの世界で最初に降り立った場所から戻るのが『縁起いい』との事であった。
「それもそうよね」
とリリアンは何となく頷いていた。
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