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徒然ファンタジー75

月曜日、有休だったリリアンはジェシカと一緒にアパートで過ごしていた。楽しかったり驚いたりする出来事が一杯あったが、まだ何となく過去にはなっていないような余韻が残っている。言葉少なにそれに浸るように、音楽などを聴いている。そんな時、ジェシカが何気なく言った。

「今ここには居ないんだけど」


「うん」


「みんな離れていても、きっと一緒にいるように思ってるんじゃないかな」


それはジェシカがとかリリアンとかがではなく、おそらく「みんな」がきっと同じことを思って過ごしているのだというどこか不思議な言葉だった。だがリリアンにもそれがよく分かるような気がする。コンサートの後の一体感ではないけれど、時間を共有した人々はお互いが自分と同じ事を感じているのだという確信のようなものがある。ジェシカの「みんな」は少しはっきりしないものの、それほど間違ってもいない様に思えるのである。


「そうだね。きっとそうだよ」


リリアンもそう思いたくなっていた。そんな気分でそのままいつものように散歩に出掛ける。今日は公園までで、天気は少し曇っているけれどそれがまた穏やかで良いような気がするのである。ベンチに座り語らい合う。


「やっぱりここも落ち着くね」


リリアンが言う。自然豊かな町も素敵だけれど、自分がずっと住んでいる場所と言うのは特別なのである。


「そうだね。いつもここに来るから安心する」


ジェシカも同じ気持ちだった。そして前よりもしっかり自分の気持ちを表現できるようになっている。だからこそお互いの気持ちがもっと伝わり、絆は深まっているようにも感じるのである。


「リ…リリアン、、、さん」


ジェシカは他の人と同じように呼ぼうとした。しかしやはり「さん」を付けないと変な気持ちになっている。そこには目を瞑る。もともとは自分の『キラキラネーム』が嫌で『ご主人さま』と呼ばせるようにしていたが、親愛の情とか相手を大切に思う気持ちから名前で呼んでくれるというのは全く嫌な気がしない。むしろ。


「どうしたの?ジェシカ『君』?」


リリアンはジェシカの呼び方に合わせた。こうすると何となくいつもと違った風に意識しているような気がするのだが、具体的にどう云う風に意識しているのかは確かめなければ分からなそうである。


「うんとね…」


話そうとするがその先が出てこない。リリアンは何も言わずゆっくりそれを見守っていた。やがて涼しげな風が公園を吹き抜けてジェシカが言葉の続きを言った。


「もしさ、俺が普通の人間だったら…」


それは意外な言葉だった。ジェシカはいつになく真剣な表情をしている。リリアンは少し緊張気味に、


「だったら?」


と添える。ジェシカはリリアンを見つめて、


「それでも俺と一緒に居てくれる?」


なんだかそれはとても大人びているような言葉にも聞こえるし、一瞬だけ本当に人間のように見えた瞬間であった。リリアンも真剣な表情で、


「貴方だったら、私はずっと傍に居たいよ」


と静かにだが確かな口調で言った。ジェシカはそれを聞いて満足だったのかまたいつもの穏やかな表情に戻って、


「うん!ありがとう!でも、この感じは疲れるね、ご主人さま!!」


と元気良く言った。色々考えたリリアンもいつもの調子に戻って、


「そうね、いいのよそれでも!でもありがとうね、ジェシカ」


と言った。ただ、リリアンはまたしても一瞬ときめいてしまった自分に対して、


<あ~あー、これじゃ京子や望のこと言えないじゃない>


と思うのだった。その時、遠い雲間から光の筋が射し込んできているのが見えた。しばらくそれに見入ったまま、再び雰囲気に浸っていた。



午後からはリリアンはネットで朝河氏からのメールで来たような分類の書籍を探していた。朝河氏からのメールは初めてなのだがやはり望から転送されたものと同じ文面で、現在県立の図書館に居るという朝河氏は、午前中からずっとそこに居るらしい。


<凄まじい集中力だなぁ>


と思ったりする。もともと研究者なので図書館にはあたりまえの様に行くのかも知れないが、学生時代はレポートの提出前とかは利用していたけれど、長時間居座るのが何だか躊躇われた思い出がある。本を探す事についてはネットでもデーターベースは豊富にあるし便利なツールもある。あまり自分の読んだことのない分野の本ではないので、書籍を確認するだけでも大変だが、何となく期待に応えたいし、リリアン自身の気持ちで朝河氏にもこの世界の事を沢山知ってもらいたいと思うようになっていたので熱心に取り組んでいた。



一方ジェシカは望が『魔女の宅急便』の感想と聞きたいという事を知ったので必死に活字を追って文章を読む。半分以上は読んでいたので、何とかその日のうちに一巻を読みおえた。気が付くと既に夕食の時間で、両者とも集中し過ぎていたため少しふらふらしていた。


「あぁ…明日からまた仕事だぁ…」


リリアンは気付いたようである。書籍については既にリストアップして大型の書店にあるものをここから選んで来ればいいのだが、それもまた一苦労である。ただ書店にある端末を使えば何とかなる量ではあった。週末まで時間があるので時間のある時に行って来ればいいと思った。ところでリリアンにはもう一つ調べていたことがあり、それも出来れば今週中に済ませておきたい事だった。
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