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徒然ファンタジー77

土曜。シェリーが朝河氏を連れてリリアンのアパートにやって来た。待ち受けていたところ赤い車が駐車場に停まったのが分って、少しそわそわした。既に会っているし、そもそも自分の家から事が始まっているので今更という感じだが出来るだけ丁寧にもてなしたい。ジェシカも同じような気持ちらしく、車を確認すると急いで玄関に向かった。

「こんにちは、来たわよ!」

ドアが開くとシェリーがそこに居た。後ろには朝河氏もこの前と同じ格好で立っている。


「どうも、こんにちは!」


朝河氏がにこやかに挨拶をする。リリアン達もそれに応える。


「いらっしゃいませ。朝河さんも家は初めてではないんですよね?」


「ええ、確かにこのアパートにやって来た記憶があります」


部屋に上がってもらいながら自然と朝河氏が最初にやって来たときの話になる。


「ああ、僕が来たときにはあの座卓はありませんでしたけど、家具の配置は同じですね」


「うん。確かにそうですね。これは去年の冬頃に買ったものです。8月の終わりの事でしたよね」


「ええ、その時ジェシカ君はここで転寝をしていましたよ」


既に居間に集まっていた。流石に4人と考えると少し狭い。


「そうですか、ところで今日の予定はどうなっているんですか?」


リリアンが訊ねる。すると朝河氏はゆっくり何かを確認するように言った。


「そうですね、名残惜しいですがそろそろ来て一週間ですし、どうせなので午後2時にはここから帰りたいと思います」


「ぴったり一週間って事ね。そう言えば、戻る時には何処に飛ぶの?」


今度はシェリーが訊ねる。地味に気になる事だった。


「帰る時は基本的によほどの事が無い限り安全です。ランダムであっても自分の家…こちらのN市でも行った場所の付近に移動できるので、そこからは何とかなるんです」


「なるほどね。それなら安心ね」


「じゃあ…今が10時だから、あと4時間ってことだよね」


ジェシカはきちんと計算したようである。それを聞いて朝河氏は嬉しそうに目を細める。


「ジェシカ君がしっかりやれている事が分ったので、僕も安心しました。そうだ、少し猫の姿になってくれませんか?」


「ええ、いいですよ。じゃあこれで…」


頼まれたリリアンはいつものように箪笥の上に置いてあるあの道具を持って、ルービックキューブのように捻る。すると一瞬にしてキジトラの猫がそこに現れる。ジェシカは元気よく「にゃ~」と鳴いた。


「うん。最初に見た時の姿ですね。それにしても変身する時の服装の事をああいうカタチで応用するとは思いませんでしたよ」


ジェシカの背中や喉を撫でて満足したのか「いいですよ」と言った。リリアンの操作で再び人間の姿になるジェシカ。


「ああ、ハロウィーンの時の事ですね。知ってたんですか?」


朝河氏はうっかりしていたという事が分るようなアクションをして「そうでしたそうでした」と言ってから、


「詳しく説明して無かったんですが、ジェシカ君達の事は全てではないですけれど『この本』に挿絵入りの物語として記録されるんです」


という風に説明した。それと同時に、大きなリュックから一冊のハードカバーの厚い本を取り出す。古ぼけていて表紙には何も書いていない。リリアンとシェリーがそれを借りてぱらぱらとめくると朝河氏の言うとおり、時々挿絵が入っている物語が途中のページまで書かれていた。


「最初のページは…猫…これはジェシカのようにも見えますね。そこに誰かが現れて…うわ、凄い、ちゃんと物語になってる!!」


「よく見ると、私も登場人物のようですね、ここでは「『店』の店主」という呼び方になってますけど」


物語の主人公はどうやらジェシカとリリアンらしい。だが『リリアン』とも『ジェシカ』とも出ていない。代わりに『彼』とか『彼女』という三人称が用いられていて、だからなのか何処となくお伽噺のようにも読めるのである。朝河氏はさらに続ける。


「これも通信の『秘術』の一種で、どうしても具体的な文章にはならないという欠点があるもののちゃんと読めばジェシカ君達に概ねどのような事があったのか知ることが出来ます。そして詳しい部分は望さんのメールで知らせてもらっていました」


シェリーは感心して言う。


「これだけでも凄い代物ですね」


「問題は使い方ですよね。悪用も出来てしまうというのが便利な物の性とでもいうのでしょうか、それは直接的に害悪になるものではありませんが、猫に変身できるというのも場合によっては悪事に用いられるという可能性もありますし、だからリリアンさんにアプローチしてくれる人を探した時に望さんが選ばれたのです」


「確かに望さんは適任だったわよね」


リリアンは頷いた。すると朝河氏は何かを思いだすようにゆっくり話し始めた。


「そもそもこの世界に来る時に望さんを選んだように、僕の目的の条件に合う最適な人の中でランダムにリリアンさんが選ばれたのです。


語られたことが意外だったので「え…」と戸惑うリリアン。てっきりジェシカが選ばれたのだと思ったのである。朝河氏は続ける。


「僕が移動する先の条件として指定したのは「『猫が人間になれる』という秘術を見せる事ができる人の家」でした」


「…」


それを聞いたシェリーは無言で何かを考えているようだった。そして何か気付いたのか口を開く。


「つまり、そういう人ならば誰でも良かったって事ね。でもどうして?」


「僕の当初の目的を覚えていますか?」


「異世界をこの世界の人に知ってもらう…だったわよね」


「そう。明らかに違う世界から来たという証拠をその人に見せる必要があったのです。『猫が人間になれる』という秘術は僕がその家に突然現れた場合、その二つの事実を合わせれば『異世界』について信憑性を持たせることが出来ると考えました」


「なるほど!!」


リリアンはポンと手を打った。


「勿論、他の秘術も念のため用意しておいたのですが、まず一番インパクトのある『突然見知らぬ男性が現れる』という事と『猫が人間になる』という事がある意味で肝だったわけで、本来ならば道具のこちらの世界に置いてゆくという考えはなかったんです」


「そうか…私がその時居なかったから目撃したのがジェシカで、ジェシカを人間にしたままにすれば目撃しているから…」


リリアンは合点が行ったようである。そして彼女は当時の事を少しずつ思い出していた。


「そういえば、最初は『異世界』っていう考えは無かったわね。もし朝河さんが現れた場面に立ち合っていた場合は話が早かったかも」


しかしシェリーは全く別な風に捉えていた。


「いえ、ある意味ギャンブルよ。貴方がジェシカを不審者としてすぐに通報していたりしたら…」


そういう想像をするとリリアンはゾッとする部分があった。


「っていうか実際に警察呼ぼうとしたのよね…」


「うん…ご主人さまはあの時俺の事疑ってた」


ジェシカもちゃんと覚えているようである。すると朝河氏は、


「だから冊子にメモを残しておいて良かったんですよね。本当ならリリアンさんが帰ってくるまで待っていても良かったのかも知れませんが、最初の移動だったし僕もちょっと不安なところがあって」


「まあ、結局リリアンが素直に信じたのが良かったって事よね」


「その後の事は既に話した通りです。本来なら大々的にアピールする手もあったんですが、マスコミに取り上げられる可能性もそんなに多くないわけですし、人と言うのは不思議な事があっても気にしない場合があるというのはあちらの世界でも同じです」


「『気のせい』にして片付ける事もある。」


シェリーが付け加えた。


「あ…!」


その時ジェシカが声をあげた。話を聞いている間、何気なしにタブレットを見ていたのだが気付いたことがあるらしい。


「もう11時だよ!!」


ゆっくり話していたせいか時間の経過を忘れていたのである。残り3時間。今から出掛けるとなると少し急ぐ必要がある。リリアンもある事を思い出した。


「あ、朝河さん。頼まれていた本、三冊はここにあります。どうも残りの一冊だけ大きな書店には無いようなんです」


「ああ、これはありがとうございます!じゃあ最後にまだ行ってないところで探して、それでも無ければ諦めます」


「そうですか。何とかしてそちらの世界に送る方法は無いんですかね?」


朝河氏は「う~ん」と言って難しい表情をしている。


「あちらからこちらへの転送は出来るんですが、その逆は聞いたことが無いんですよね…」


「そうですか…じゃあ本、頑張って探さないとですね!」


「ええ、ご協力感謝いたします」


「車で移動すれば何件か回れるんじゃない?」


シェリーが提案する。


「じゃあ京子、宜しく!!」


こうして最後の書籍を求めて移動が始まった。
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