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徒然ファンタジー78

二時までに家に戻ってくるとして車で移動できる範囲となると隣接する町までが該当するが、地図アプリを使ってその辺りで近いところから書店をピックアップすると、以前リリアンがジェシカを連れて行った中規模の書店が一番近いのだが、

「そこよく行くところだけど、難しめのは置いてないと思うよ」


とリリアンが言った。そこは車だと10分以内で行けるのだが、次に近い西の方の隣町の書店から探す事にした。移動は15分程度でネットで調べると専門書が多いという話だった。手分けして探してみるが、


「残念ながら無いようですね…」


という朝河氏の発言の通り少し古めの本だからなのか置いていないようだ。探す時間が10分程必要だという事を考えると、移動時間も考えてあと数軒になってしまうようである。


「じゃあ次に移動しましょう」


そこから近いところを回ったのだがやはり見つからない。西の方で一時間程経過してしまったし慣れない道を運転するのも楽ではないのでなるべく早く見つけたいところだった。そこから反時計回りで南の方に行けば比較的書店が多いらしいので、そちらに向かう事にした。


だが結局もう一時間程探しても目的の物は見つからなかった。


「ここらへんが潮時ですね。お昼も過ぎてしまったですし、リリアンさんの住んでいる近くで最後に食事する方がいいのかも知れません」


少し残念そうだが、そう言ってくれるのは嬉しかった。


「朝河さんがそう言うのなら…ああそう!」


シェリーは何か思いついたことがあったようである。


「私がジェシカと最初に行ったファミレスで食べてみるというのはどうでしょう?」


「あ、それ良いわね!」


「うん。あそこのオムライスが美味しいんです!食べてみて下さいマイケルさん!!」


その笑顔を見ているとジェシカにとってもそれが良いように思われる。


「ええ、そこにしましょう!僕もファミレス自体が久しぶりなので、ちょっと興味があります」


10分程でファミレスに到着した。入店してシェリーが店員に「奥の方の禁煙席は空いてますか?」と訊ねた。店員は「ええ大丈夫ですよ」と答えた。リリアンが「何故そこなの?」と訊くとシェリーは、


「前もジェシカとそこで食べたのよ」


と言ったので納得した。ジェシカはワクワクしながらメニューを開いて、やはりオムライスとメロンソーダを指さす。シェリーも前に来たときと同じようにパスタを注文し、リリアンは何となくご飯もの。ちょっと悩んだ朝河氏は、


「こういう所でしか食べないものですし、何か記憶に残りそうなもので…」


という理由で、ジェシカと同じオムライスとメロンソーダを注文した。15分ほどでそれぞれの食事が順次運ばれて来た。その間、皆で好きな食べ物を教え合ったりしたお陰で朝河氏の好物が意外にも「パンと紅茶」であるという事が分った。何でもいつか外国に行くかもしれないと思って洋食に慣れようとしたからだという。そんな朝河氏は運ばれてきたオムライスをスプーンですくって一口食すと、


「ああ、確かに良い味だ!!」


と感激した。


「N市で食べたところもオムライスが美味しいんですよ」


「ああ、そうなんですか。ハンバーグ定食も美味しかったですね。…僕の住んでる『N市』にもあそこに洋食屋あるのかな?あったら今度食べに行ってみよう」


「俺も行ってみたいなぁ…マイケルさんの住んでいるところ」


「う~ん…移動する場合は大変ですし…というか方法が知られていないんですよねぇ」


「そうなんですか。残念だなぁ…」


賑やかな会食になった。1時半頃には各々間食してしまったので少し時間が余った。するとリリアンが、


「そういえばここからだと私がよく行くって言った書店、そんなに遠くないんです。本は無いかも知れませんがダメもとで行ってみませんか?」


と提案したのでそうする事にした。そしてこれはある意味で運命の様な偶然とも言えるだろう、


「あ…ありました!」


朝河氏が叫んだのである。そう探していた本がその店に置いてあったのである。リリアンにとって漫画本が多いという印象だったその店は二階部分はあまり人が入らないのだが専門書のコーナーで、あまり商品の入れ替えをしないからだろう少し古めの本がそのまま置いてあったのだ。


「なんという盲点…」


「こういう時にぴったりな言葉があるわ」


シェリーはいやらしい表情でリリアンに言う。


「何よ」


「『灯台もと暗し』」


「…」


何にせよ目的の物を見つけられたのは幸運だった。そこからアパートに戻ったのが1時50分。忘れ物が無いかしっかりチェックして、朝河氏を送り出す心構えをするリリアン達。


「そういえば、移動の瞬間を目撃するのも大切よね…」


シェリーが気付いた。朝河氏がこちらに来た瞬間は見れなかったけれど帰る瞬間は見届ける事ができる。


「そうよ、動画にすればいいんだわ」


「じゃあ、俺、これで撮ってみる!!」


ジェシカが名乗り出た。タブレットで撮れば他の人に送信も出来る。朝河氏も感心している。


「そうですね!確かにこれは証拠ですよね…。ただ…」


だが何か気になる事があるようである。


「例えばですが怪獣の動画にしても…まあ動画の形式が違うからアップロードは出来ないんですが、そういう事を置いておくとしても今はパソコンとかでそういう編集は出来るようですしね…」


「まあ…確かに…技術があるっていうのはちょっと残念な事もあるのかもね」


リリアンは苦笑していた。ただ朝河氏の姿を録画したりするのは良い事だし、一応N市で記念撮影はしているが動画なら声も残しておける。こちらに来たことがずっと残るのである。


「じゃあジェシカ、頼んだわよ!!」


「分った!!」


朝河氏はリュックを背負って部屋の中で立ちあがった。ジェシカは録画を始める。


「では名残惜しいですが、お別れです。もしまた機会がありましたら、またお会いしましょう!」


「マイケルさん、また会いましょう!!」


ジェシカが大きな声で叫んだ。


「朝河さん、無事着いたら望さんに連絡してくださいね!」


「ええ、リリアンさん。これからもジェシカ君の事よろしくお願いします。遠くで見守ってますよ!」


そしてシェリーは一礼した。それを窺って朝河氏も深く一礼する。


「では!!」


すると突然部屋がキラキラ輝きだした。光の中に包まれると朝河氏がにっこり笑ったような気がした。次の瞬間には光も消え、部屋にはリリアン達だけが残った。一同は少しの間、呆然としていた。そして「はっ」としたリリアンが、


「あ、ジェシカ、録画終わっていいよ」


と静かに言った。「うん」と言って録画を完了する。一応確認してみると先ほどの光景がしっかり記録されていて、「あ、ジェシカ、録画終わっていいよ」と最後にリリアンが言っているところまで撮影されていた。


「なんか、ちょっと寂しいね…」


ジェシカが言った。確かに朝河氏はもうこの世界には居ない。リリアンも頷いたが気持ちを切り替えて、


「ところでさ、」


とシェリーに話しかける。彼女は沈黙していて、少しボーっとしているようだった。やがてリリアンの視線に気づいて、


「うん、なに?」


と言った。


「『猫の置物』の事って結局、分ったの?」


リリアンの言葉でシェリーは大切なことを思い出したようで、


「そうだった。私はこれからそれを調べなきゃならないのよ。これからじっくり、世界は違うけど朝河さんの知恵も借りて研究、って感じかしら」


「へぇ~そうだったの!なんか面白そうね!!」


その時、ジェシカのタブレットやリリアンやシェリーのスマホに望からのメールがあった。一斉送信したものらしく、


『おじさまから無事あちらの世界に到着したと連絡がありました!ちょっと寂しいですけど、ちゃんとこうして連絡が来ますね!!』


それを見てジェシカは、


「そうなんだ!マイケルさんとは繋がってるんだ!!」


と元気よく言った。その言葉を聞いた二人の女性はゆっくり、しかし確信に満ちた表情で頷いている。
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