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徒然ファンタジー エピローグ

翌日の日曜日。シェリーは朝早く帰って行った。「さすがに店を開けないと商売にならないわ」と言っていたようにこの一週間は実際仕事どころではなかったのかも知れない。玄関で、


「また来てね」


とジェシカが言うとシェリーは、


「勿論よ!ジェシカも電話してね!」


と念を押すように言った。ジェシカは既に何回かタブレットで通話していたのだがすっかりタブレットを使いこなしていた。昨日の朝河氏の帰還の瞬間の動画もリリアンに手伝ってもらってそれぞれの人に送ってある。望の反応については、

『見送りしたかったですね』

と残念そうだったのだが大城氏については、


『凄い…』


と一言だった。


「大城さんにもよろしくね!あと、何か分ったらその時は教えてね」


リリアンも念を押すように言う。


「分ったわ。じゃあ、行くね」


そう言って手を振りながらシェリーが出てゆくと、いつものようにリリアンとジェシカだけになる。朝の8時半、これから何をしようか少し悩むところだった。


「一段落したけど、ジェシカはどこか行きたい?」


するとジェシカの表情が明らかに輝いた。どうやら行きたいところがあったようである。


「俺、先週からずっとカラオケ行きたかったんだ」


「ああ、コンサート聴いたからね。何だかんだで私も行きたかったのよ」


これで今日の予定は決定した。リリアンが身支度を始めるとジェシカが「あのね…」と何かして欲しいようである。


「どうしたの?」


「一度、元の姿に戻してほしいの。それで、すぐに人間の姿にしてくれない?」


「え…?いいけど、意味あるの?それ?」


「うん」


奇妙に思ったが、どうしてもそうしてほしいようなので言われた通りに道具を使って一度猫に戻す。元の姿になってもジェシカはじっとしていた。待っているらしい。


「じゃあ、はい」


そしてもう一度人間の姿にする。すると先ほどと少し違うところが見られた。


「あ、服の事!?へぇ~今日はそういう服にするんだ」


ジェシカはジーンズに半袖のTシャツという出で立ちで現れた。凝っているのは白の生地で胸の所に猫のプリントがしてある事である。ジェシカがこういう服装をした事はない。理由を聞いてみると、


「『ロック』ってこういうことなんでしょ?」


と述べた。どうやらロックバンドの格好を意識しているらしい。その辺りの事を深く考えた事が無いリリアンには答えようがない。ただ『若者』っぽくて悪くなかったので、


「いいんじゃないかな」


とだけ言った。ジェシカがそういう格好で出掛けるならと、リリアンもお揃いになるように着替える。そして何となく髪を後ろでまとめて留めてポニーテールのようにして見る。


「どう?」


ジェシカに聞いてみると、


「うん。かわいい…かっこういいね」


と上々の反応である。リリアン自身もこういう格好はもう殆どしないのだが学生時代にはスポーツをする時にこの髪型にしていた。何だか昔に戻ったような気分である。


「よし、じゃあいこっか!」


何となく勇み足で進んでしまったので店の開店時間である9時きっかりに到着して、どうやら一番乗りのようである。これでは格好といい店員から<気合が入っている>と思われるかも知れないが、逆に言えば店員しかないのでそんなに恥ずかしくもない。入室してからは思う存分唄っていた。この前と違うのはリリアンが望の歌を唄い始めたという事である。『徒然ファンタジー』を唄いながら<なんか新鮮だな>と思った。高校時代は新しい曲が出ればすぐに覚えて練習していたが、今でもやろうと思えば意外と出来る。それを見ているジェシカも何だか嬉しそうである。


そのジェシカはキーボードを練習し始めているせいか音程がより安定してきたような気がする。<練習の成果が出てるな>と感心していたリリアンにも実は成果が出てきはじめている。先週N市に行った際にコンサートやN市観光などで色んな写真を撮っていたのである。あまり使っていなかった高性能なデジカメも最近では毎日持ち歩いては、季節の花、今でいうと色とりどりの薔薇や、そろそろ見られるようになってきた紫陽花などを撮っていたりする。でもリリアンの写真には一緒に人が映っている事が多かった。特に色んな景色の中でジェシカが見せてくれるどこかしら惹かれてしまう表情がしっかり残っているのが最近の喜びなのである。


「あ、そうだ!」


そしてリリアンは今、必死に唄っているジェシカを撮影する。撮ったものを確認してみて<このジェシカは格好いいな>と思ったりした。これは望やシェリーには何となく秘密にしておきたい。



結局、その日はいつもより長く唄っていた。すっかり喉がガラガラになってしまったので終了になったのだが、両者ともまだ唄い足りないような表情だった。だがアパートに帰りつくとちょっとした疲れなのか、急に眠くなってしまったので昼寝をする事にした。


「昼寝なんて猫みたいだね」


とリリアンが言うと、


「あ、猫の姿で昼寝した方が気持ちいいんだよね」


というジェシカの発言。つまり猫の姿に戻してほしいという事である。要望通りにすると猫ジェシカはさっさと眠ってしまった。リリアンはそんなジェシカを抱きかかえて居間で横になる。疲れているのか、慣れてしまったのかこれくらいスキンシップをしてもジェシカはそんなに嫌がらなかった。その時「あっ」と思って静かにデジカメを起動させて自撮りのように一緒に眠っている姿を撮ってみた。


「うん!これは最高傑作かも知れない!」


するとジェシカが猫なのにカラスのように枯れた声で「ふぅにゃ~」と小さく鳴いた。思わず吹き出してしまうリリアン。その時の写真がプリントアウトされて木製のフォトフレームに入ってテレビの横に飾ってある。ジェシカがそれを見る度に、


「これは強く抱きかかえすぎだよ!」


と文句を言う。けれどスキンシップ自体の抗議ではないようである。それも何てことはない日常だが、最初の日を覚えているから全てがとても愛おしく思えている。もしかしていつか異世界の事が世界に知れわたって、とんでもない大騒ぎになるかも知れない。


でもリリアンは思うのである。<どんなことになっても、ジェシカと一緒に居たいこの気持ちだけは変わらない>と。そして今日もジェシカは一人思うのである。


「ああ、ご主人さま早く帰ってこないかなぁ」




(終わり)
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