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N市観光

N市観光については自分は役に立ったのかどうなのかちょっと判断に困る。

「N市と言えば「城跡」と「ちょうちん祭り」でしょう!」

と力強く語ったはいいが「ちょうちん祭り」については秋だし、「城跡」も前日はイベントで人がごった返していたわりに何もない日は週末でもひっそりとしている。なによりそこを紹介してしまうとN市といえばN市だけれど、中心からは少し離れている「ふるさと村」と他数ヶ所くらいしか浮かばなかった。自分自身「ふるさと村」に行った記憶があるのは小中の頃で、当時はマスコットキャラもいたけれど「ゆるキャラ」が流行る大分前だったような気がする。案の定様変わりしていて、子供が室内で遊ぶための無料の遊び場が整備されていたのはニュースでちらっと聞いたくらいだったので、実際に子連れの親が続々と入ってくるのを見ると何だか感慨深いものがあった。


立華さんが「独特の光景」と評したように、広々とした敷地の隅の方にポツポツと屋敷があるのを見ると『タイムスリップ』とまではいかないけれど、どこかに迷いこんでしまったような感覚になる。


「ここもそちらの世界にあるんですか?」


リリアンさんが朝河さんに訊ねた。


「うん。こちらの世界よりも人が少ない気がするけど、殆ど同じだね」


と答えた朝河さん。違うのは数年前の大きな災害が朝河さんの世界では規模が小さく被害がほとんど無かったという事である。『IF』ではないけれど、こちらの世界でもあの災害がなければそれはそれでN市は過疎化の進む一『地方城下町』という評価だったかも知れない。そう考えると、悪い事ばかりではない…と言えるのかも知れない。もっとも、災害など無いに越したことはない。



その後、地元の人に言ったら典型的すぎて笑われるかもしれないが、ふるさと村からそれほど離れていない「ほんとうの空」という言葉の由来になった女性の生家に案内する。記念館が同設してあり、過去に入ったかどうか記憶が曖昧である。アーティストである『大宮望』さんはその女性を知っていたようで、記念館の中で見た切り絵に見入っていた。リリアンさんの話によると、望さんは美術館などに行くのが好きだという。喜ばれたようなのでなによりである。


だがここで問題が生じる。


「あとN市の神社に行ったら、大体目ぼしいところは廻ってしまってですね、あとはマニアックな場所になってしまうのですよ…」


私はこう説明した。神社については他にも有名な所を知っているのだが車で行っても大変な山道で今回の観光では少し大変であった為、候補から外していた。そもそもN市は平成に4つの地域が合併したので全部を廻ろうとすると広範囲になり過ぎるきらいがあるのである。なるべく近いところから観光地を選んでゆくと、どうしても今のルートになる。観光バスも基本的には同じである。その事は朝河さんの知る『N市』でも共通するようで、


「僕の方のN市も同じですよ…自然は豊かですけれどもね」


とため息交じりに言っていた。でも『自然が豊か』なら都会の人にその自然を満喫してもらうというのは逆転の発想かも知れない。昼食が自宅からそれほど離れていない洋食屋だったのもあって立華さんが、


「大城さんの家は?」


と提案してくれたので了承して、一旦家に来てもらう事にした。有名人を家に招ける光栄を受けたわけである。ただ期待されると辛いものがあるので、「なんにもありませんよ」と強調する。望さんは「そら」に会えるという事が嬉しいそうである。そんな彼女は家の庭で、



「本当に、自然が豊かですね…」



と『絶景』と言っていいかもしれない大きな山が見える光景を見て言葉を失っていたようであった。地元民にとっては見慣れていて当たり前にあるので意識しないかも知れないが、写真にとって見てみると意外と映えるのである。リリアンさんがデジカメで写真を何枚か撮っていたのが印象的だった。家に入ると玄関で「そら」が出迎えてくれた。最初は私に向かって「にゃ~」と一鳴きしたのだが、大勢の客に吃驚したのか奥に逃げて行った。すると望さんは上がるや否や「そら」を追い掛けて行った。少し我を忘れているようにも見える。奥から「そら~」という猫なで声は聞こえた。



他の人をリビングに案内する。前から朝河さんが泊まる用意をしていたので比較的綺麗だと思う。『そら』を抱きかかえた望さんがやって来た。


「めっちゃカワイイですね!毛も綺麗だし」


褒められた。するとリリアンさんが、


「ジェシカ、どう?」


とジェシカ君に訊ねた。彼は「そら」をじーっと見つめている。そして、


「カワイイね」


と言ってくれた。そして少しばかりリリアンさん、望さんと猫飼いのトーク『猫あるある』が始まった。リリアンさんはジェシカ君を完全に猫として語っていたが、『猫あるある』は私も納得していたしよく観察している事が分る語りだった。立華さんもそれを聞いて羨ましいそうに、


「やっぱり猫飼おうかしら」


と言った。朝河氏も悩ましげに、


「そうですね、僕も飼わなきゃいけないような気がしてきました」


と呟いた。そういう話をしたまではいいけれど、悲しい事に家にあるもので話題にできるようなものが他にはないという事が判明し、一時間程度でまた立華さんの『店』に戻る事にした。10分程で『店』に到着すると朝河さんが車を降りて、


「僕は多分この近くにあると思いますが、図書館と歴史資料館に行ってきたいと思います」


と言った。こういう発言を聞いているとやはり『地元民』という感じがする。立華さんはその辺りで下水道の工事が行われていると注意した。そういう事については異世界ではこの世界と同じではないらしいので朝河さんは僅かに戸惑っていた。必然的に歩いて行った方が良いという事になるが、立華さんを除くリリアンさん達は商店街を歩いてみるそうなので丁度良かった。


『こじんまりとした』という表現はあまりしたくはないのだがそれほど大きくない図書館に着いた。リリアンさん達は何と言ったものか迷っているらしい。そのまま入館して各々興味のある本を探す。熱心だったのは朝河さんで、あまり借りられる事が無いであろう歴史のコーナーで随分読みふけっていた。そんな朝河さんにリリアンさんが近づいてきて「朝河さん」と声を掛けた。


「はい、何でしょう?」


朝河さんは本からリリアンさんの顔に目を移した。彼女は続ける。


「その…『秘術』とか載っている本ってどうやって手に入れたんですか?」


これは興味深い話であった。朝河氏はやや躊躇いつつもこう話す。


「実はですね、『秘術』というのはこちでも歴史上の話なのですが錬金術に由来するものなのです。なので原点はアラビア語なし、ラテン語なんです。集めるのも読むのも大変でしたが、運良くラテン語の塾を地元で開いている女性がいまして、2年前程からは原典も解読できるようになったのです」


「へぇ…で、その書いてある『秘術』で道具とかを作るのはどうやるんですか?」


リリアンさんが突っ込んだ質問をする。


「基本的には『秘術』を込める物は何でも良いんです。魔法と科学を半分づつ使うように、大まかなところは魔法で細かい部分は科学で設計するので、道具の形を製作するのは知り合いに頼んでですね」


「魔法って使えるんですか…?」


これは望さんが訊いた。人によって少し注目する部分が違うようだ。


「魔法と言いましたがこれも語弊がありまして、要するに自然界の物理的な必然を少し捻じ曲げるようにする不可知のエネルギーを用いているのではないかと思っています」


「え…?それってどういう事ですか?」


「『怪獣』の話をしましたよね。僕等の世界ではある時以来『怪獣』が突然出現するようになったのですが、『怪獣』のエネルギーもこちらの世界の物理現象では起こり得ません。が、何らかの理由によって僕等の世界はそれまで知られていなかった次元とか、別の法則に従うエネルギーが存在するのではないかと言われ始めています」


「まあ単純に言ってしまうと『不思議パワー』って事ですね。それを科学で補うとそういう道具が出来ると…昨日朝河さんが言ってました。でもその『不思議パワー』は普通の仕方では使えなくて、錬金術時代の『秘術』の一部には偶然そういう力にアクセスしコントロールするようなものがあるらしいです」


少し難しくなってきたので私が補足した。昨日コンサートからN市に帰ってくる時に、『怪獣』の事も含め概要は簡単には聞いていたのである。一方で朝河氏は少し難しい顔をして、


「僕は『猫の置物』の事が今一番気になっています。本当はそういうものの由来などが分るような書籍があればと思うのですが、まあ多分、ここでは見つからないでしょうね」


と言って穏やかに笑った。そんな書籍はここではないだろうけれど、そもそもこの世界に存在しないようにも思える。朝河氏は切り替えたように、


「だから、僕はここで歴史の本の見定めをしているんです。こちらの世界で買って持ち帰れそうなものをちょっと探していて…」


と説明した。


「ああ、それなら」


と私は近くの棚からある本を持ってきた。分厚い本で大分手垢もついているが貴重な本だと思う。


「N市の『市史』ですよ。歴史が書かれてあるのは1と2だったと思います」


「おお!やっぱりこういうのが良いですよね…う~ん、悩ましい」


お勧めなのだが入手するのは一般的に困難である。悩ませてしまっただろうか。
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