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一日の終わり

続いて図書館に隣接している歴史資料館に入館する。入館してすぐに見える『ちょうちん祭り』関連の展示が意外にも女性陣に好評で、出る際にもお祭りの事を訊ねられた。地元民として祭りの宣伝はしなくてはと思うので朝河さんと声を揃えて「是非来てください!」と言ったりもした。肝心の歴史的な展示物については、その朝河さんが興味津々といった様子。もっとも歴史資料館自体は異世界の方の『N市』で研究家という性からか既に何度も行っているらしく、基本的には詳しいようだった。

ただ、

「まるで間違い探しをしているようだよ」

とも言ったように、全てが同じと言うわけではなく実際に資料を見てみての印象は思っていたよりも興味深いといった感じ。資料館自体がそれほど大きくはないので一通り見て回ってもそれほど時間が経過していない。『ちょうちん祭り』で手応えがあったので、それ関連でこの近くにあるN市の神社に行ってみる事にした。道中リリアンさんが、


「私、最近パワースポット巡りにハマってて、ジェシカもつれて神社とかよく行くのでお任せください!」


と意気込んだ。ジェシカ君は神社を見た途端、


「うわ~ここにもあったんだね、神社!」


と喜んだ。リリアンさんが言うには以前来たときにはここを通り過ぎたらしい。


私はここぞとばかりに知識を披露する。


「ここは『ちょうちん祭り』とも関係するんですが、地元の人にとってはやっぱり除夜の鐘がなる頃に集まるイメージですね」


今年も初詣に行っていたしそのイメージが強い。


「神社の場所も同じだね。あっちの方ではしばらく行ってないから丁度良いかな」


これは朝河さんが言った事である。それに対して意外にもリリアンさんが、


「え…それじゃ駄目ですよ!」


と注意した。彼女はこう力説する。


「神社と言うのは祀られている場所に行くことに意味があるんですし、そちらの世界の神社とは祀られてる神さまが違うかも知れませんよ?」


「え…?そうかな…?」


戸惑っている様子が見られる朝河さん。実際に祀ってある神さまの名前が朝河さんが知っているそれと微妙に違うという事を確認して、


「なんだろうね、この違和感は…でも親戚みたいなもので良いんじゃないかな?」


と少し大雑把にまとめる朝河氏さん。けれどリリアンさんは納得が行かない様子。


「ダメですよ!そもそも『世界』とか日本を見守ってくれているのが神さまなんだから、異世界の事までは面倒見切れませんよ!」


これには思わず吹き出してしまった。他の人もそうだったようである。


「何がおかしいの!?」


リリアンさんの憤りを望が宥める。


「いえ、神さまと異世界の関係を考える事って滅多にないと思ったので…でも確かにそうかも知れませんね、ふふふ」


私はそれに続ける。


「リリアンさんって結構ユーモアがある人なんですね!」


この言葉も納得がいかないようで、ジョークとかではなくリリアンさんは真面目にそう思っているらしい。拘りがあるという事は理解した。リリアンさんとジェシカ君の先導でしっかり拝礼を済ませて、望さんや朝河さんは記念におみくじを引いていた。神社の方に来るともう商店街の端っこで、駅が近いのでそこから引き返す事にした。帰り道に老舗でテレビでも良く取り上げられる和菓子屋に入店し、各々お土産などを買う。接客が素晴らしいところで『玉羊羹』という名物はウケが良い。若い女性の店員なのだが望さんに気付く人は居ないようで店を出て苦笑いをしながら、


「う~んまだまだ頑張らないとですね…」


と呟いていた。『店』に戻ったのは15時半。扉には「OPEN」の文字盤が掛けてあった。立華さんは商品を陳列している最中で私達が戻って来た事に気付くと、


「お帰りなさい」


と言った。ジェシカ君と望さんが、


「「ただいま!」」


と声を合わせたのが印象的だった。望さんは17時にはF市に戻ってなくてはならないそうで荷物自体はマネージャやスタッフに持って行ってもらったらしい。ただF市の駅の近くのホテルに私物があるそうなので一旦そちらに行かなければならないようである。その後新幹線で戻るそうだ。立華さんが『店』を開けているのでF市までは電車で行くつもりだと言ったのだが、それならばと私が名乗り出た。


「じゃあ、私が送ってゆくというのはどうでしょうか?」


望さんはすぐに、


「よろしくお願いしますね!大城さん!」


と言ってくれた。これはある意味で幸運かも知れない。一瞬、年頃の女の子を乗せるのは…という考えが脳裏を過ぎったが、どちらかというとVIPの送迎という気がする。となると、

「自分の車に乗ってもらうのもなんかちょっと気恥ずかしいですね…」


と思わず声に出してしまう。すると立華さんが意地悪そうな表情で、


「あら、良かったじゃないの!朝、残念そうにしてたもんね!」


と言ってくる。


「立華さん、勘弁してくださいよ~」


図星の部分があるので少し情けない声で言うしかなかった。その後、頃合いを見計らって望さんと『店』を出る。


「では、F市まで宜しくお願いしますね!」


車に乗るなり礼儀正しい望さん。話し易いようになのか望さんは助手席に座った。


「分りました!」


と返事するが私は微妙に緊張している。時間には余裕をもって出たので万が一渋滞でも遅れる事はないのだが、<安全運転を心がけねば>と言い聞かせた。移動中の会話は大分打ち解けたものだった。


「どうでしたか?N市観光は?」


これは最初に訊いてみたい事だった。


「うん、良かったですよ。N市でしか出来ない体験だったような気がします」


上々のようで悦ばしい限り。その日の話から次第に朝河さんの話に変わってゆく。


「昨日、朝河さんが家に泊まったんですが…」


と朝河さんの名前が出てきた時に、


「私もおじさまに会ったのは昨日が初めてでした」


という風に望さんが言うので昨日から彼とそれぞれどんな話をしたのか確認し合ったのである。望さんが朝河さんに最初に会ったのがコンサートの4時間程前。既にリハーサルは終えていて控え室で声だしをしながら待機していたところだった。望さんが言うには、


「ずっとメールでやり取りしてたからでしょうか、イメージした通りの人で初めて会ったという気がしませんでした」


だったそうである。私は自分の事情を話しつつこういうことを訊ねてみた。


「朝河さんが異世界の人だって、望さんは信じてるんですよね?」


「ええ。大城さんは?」


訊き返されたので私は正直に言った。


「やはり話や動画だけだと実感には至らないですよね。少し長く生きていると、常識に縛られてしまう事が多くなって」


「私は子供の頃から想像して遊ぶことが多いというのか、もちろんそういう経験が作詞にも活かされることがあるので悪いことではないんですが」


「そういえば作詞をなさっているんですものね。あーあの曲です、猫の…」


「『猫になって』ですね。覚えて下さって嬉しいです」


タイトルがちょっと曖昧だったけれど歌自体はしっかり覚えていた。


「あの曲って、そうか…」


そこで私は望さんが猫になれるという事を思い出して曲と結びついた。


「本当に猫になった時の気持ちをそのまま歌詞にしたんですよ。ふふふ」


望さんは微笑んでいるようだが、運転に集中しているのもあって肯定されたので単純に「そうなのか」と思ってしまう。よく考えてみると凄いことなのだが。そこから再び家でしていたいような『猫トーク』が始まる。望さんは家で猫を2匹飼っているようだが、「2匹だと大変ですか?」とか「ブログとかで写真見れるんですか?」とか、望さんと言うより猫飼い同士の普通の話になってしまった。


「是非ブログも見て下さいね!」と言われた辺りでF市の駅が近づいてきた。駅に到着して駐車場の停車場で望さんを降ろす。さすがに有名人にメアドを訊くのが憚られたので車内でもそれについては触れなかったのだが、なんと降りる際望さんの方から、


「メールアドレス交換しませんか?」


という申し出があった。


「ええ、良いんですか?」


「勿論ですよ。猫になったところを今度、ちゃんと見てもらわないと!それに私達、関係者ですよ」


有名人という事で気が引けていた部分があったのだが、彼女はそういう事は全く気にしていないようだった。よく考えてみれば望さんにとっては朝河さんの存在の方が凄いと感じるのかも知れない。それは話していて気付く事だった。『関係者』という響きは悪くない。


「そうですね。じゃあこちらが私のメールです」


何だかんだで結局交換してしまった。まあ『関係者』としての領分を守って、あまりプライベートな事は訊かない様にしようと自分を戒める。もしかすると朝河さんの事を任されたのかも知れない。少し責任感が出てくる。とりあえずそこで彼女とは別れ、「リリアンさん達によろしくお願いしますね」と言伝を預かる。駅の方からどこかに歩き出す望さんを車中で見送る。するとその時、スマホにメールが届く。送り主は朝河さんだった。


『立華さんの店にあった絵について確認したい事があるので皆さんで出掛けています。実はあの絵が、私が住んでいる家の風景にとてもよく似ているのです』


確かに『店』にはいくつか絵が掛けてあった。<どの絵の事だろう>と思いつつも、

『分りました。こちらは今望さんをF市の駅に送り届けたので『店』に向かうところです』


とメールする。あまり長い時間停車は出来ないので、そこで車を出す。『店』には17時半頃に着いたのだが、立華さんの赤い車も同時に戻ってきたところだったようである。朝河さん達から詳しい話を聞くと、異世界の『N市』で朝河さんが住んでいるのは山の方の木造の家だそうで、確かに『店』の中にはそういう光景の絵が飾ってある。私はこれを以前に見た時は幻想的だとか思ったのだが、普通に地元にもこういう所があるのは知っていた。高原がそうである。立華さんはその絵の事についてよく知らなかったらしく改めて今判明して悔しそうにしていたが、もともと地元の人ではない事を考えると「仕方ないことですよ」とフォローせざるを得ない。その絵についてもこれから描いた人を調べたりすれば、何か興味深いことが分るかも知れないというので、その調査の協力に名乗り出る。


その辺りでその日は解散という事になった。その時、朝河氏が今後の事について、


「明日以降の事ですが、とりあえず僕はF市の県立図書館に行ってみたいと思います」


と述べた。やはりというか朝河さんはF市の事もしっかりしっているのだなと実感する。そこは確かにF市の駅から歩いてゆける距離であり、F市までは電車で移動すればいいので彼の自力で行けるところだった。明日には帰るというリリアンさんやジェシカ君とも仕事の関係で多分これでお別れになるのでしっかり握手をしておく。


『店』を出て家までの帰路、朝河さんが、


「今日は本当にご苦労様でした。明日以降もお手を煩わせるかもしれませんが、宜しくお願いします」


と丁寧に言ってくれた。個人的にはとてもいい経験だったような気がする。
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