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絵をめぐって

月曜日から朝河氏は県立の図書館に通い詰めるようになった。と言ってもお昼過ぎには帰ってきているようで、仕事から戻ってくるまで「そら」の面倒も見てくれている。「何の本を探しているんですか?」と訊いたところ、

「ちょっと本業に関係する本と歴史の本ですかね」


という答え。水曜日辺りには数冊ピックアップが終わったようで県内でそれを探す方法もあるのだが、週末に立華さんとリリアンさんの所に行きたいという本人の希望もあるので時間的には難しかった。本についてはリリアンさんに任せることにして、その代わりに金曜日の夜、どこかいい店で外食をする事に決めた。水曜日以降、朝河さんは立華さんの『店』に出掛け一緒に調べ物をしていたので金曜日も私の仕事が終わり次第、合流する予定である。食事する店と言ってもこの頃は飲み屋くらいしか行っていないので、どういう店にしたらいいだろうかと立華さんに相談してみたところ、


「一応市内でちょっと良い割烹の店があるみたいよ」


と意外な情報。ネットでの評判も確認してみて良さそうだったので予約する。それは良いとして、私が自分が微力ながらも協力している例の絵の作者について関係していそうな情報を得た。知り合いから聞いた話だが何でも現在では存命ではないのだが、昔N市内の色んな場所を描いていた人が居たとこの事である。作品自体は基本的に欲しいという友人に譲っていた為、作品として正確に記録されているわけではないようで、立華さんが絵を譲り受けた時に詳しいことが分らなかったという事情とも整合性がある。知り合いからは描いた人の名前をうかがったので、自分なりに調べてその人の息子さんが現在も市内に住んでいると知ったので、


「とある『絵』の事でお聞きしたい事があって」


と連絡してみると息子さんはすぐ何のことか分ったらしく土曜日の午後なら会ってもらえるとの事だった。朝河さんは惜しくもその頃には少なくとも立華さんと供にN市を発っているので行けないので、私の仕事だと思って立華さんから絵を与り一人でその人の家を訪れる事にした。


「大城さんには本当にお世話になってばかりで、何とお礼を申し上げたものか…」


朝河さんはそんな風に畏まってしまったので、


「いえ、私自身も興味がある事なので」


と添えておく。木曜日の夕方帰ってくると朝河さんが絵を預かってきていた。それを見ているうちに私も実際その場所を確かめたくなって朝河さんに案内してもらってみて来ようと思った。「そら」に夕食を上げてから車で移動する。15分ほどで現地に到着するが、その光景を見てまさしく絵と同じ場所であることを確信する。夕方なので光の色が違うけれど、その光景もまたどこか幻想的で牧歌的だった。朝河さんは、


「なんだかこういう事を言うのも変なんですが」


と前置きをして言った。


「さすがに家が恋しくなってきましたよ…いやあちらの世界でしょうか?」


「そういう風になるかも知れませんね。朝河さんだから大丈夫ですけど、普通なら混乱しますよね」


「混乱するのは確かです。実際、自分が住んでいる町のように見えた瞬間が何度もありました。この家も…」


「今はだれも住んでいないようですね」


この時間でも灯りがついていないし人は住んでいないのだろう。だが、それほど荒れている様子はない。


「色んな事を考えてしまいますね。ふふ」


朝河さんは穏やかに笑ったけれど、彼が今どんな気持ちなのか分るような気もするし分らないとも言える。しっかり確認したので満足して家に戻る。満足ではないようなのは家で待っていた「そら」で、この一週間ほど朝河さんが相手をしてくれていて彼にも懐いているので、二人から置いてけぼりを食らった文句を「に”ゃ~」というようなダミ声で訴えていた。


金曜日である次の日残業などはしないようになるべく時間通りに退社する。一旦家に戻って「そら」に餌をあげてから『店』に直行する。朝河さんは午前中から『店』に居たようで調査の成果を訊くと、


「まあこんなもんでしょうね」


という事だった。やはり本来は時間が掛かる事だしそう簡単には成果はではないのだろう。だが朝河さんは明るい表情で、


「何も僕があちらに戻ったら全く調べられなくなるわけではないですし、機会を待ちつつゆっくり調べてゆくつもりです」


と言った。確かに現状それが一番良いようである。「とにかく今日は食事を楽しみましょう」という立華さんの言葉もあって、予約した時間より少し早めにお店に向かう。と言っても車で10分と掛からず到着する。店の雰囲気は落ち着いているし上品で、二階席はゆっくり話しながら食事をするのに丁度良い造りである。ぞくそくと運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら今日までの事とこれからの事で話が盛り上がる。話題の一つであった『猫の置物』について、朝河さんが


「もし大城さんが『白の猫の置物』を立華さんに返したらどうなるのでしょう?」


という質問をした時に、<確かにそろそろ返してみてもいいのかな>と思うようになった。問題は『いつ返すか』という事である。


「折角だから、朝河さんがあちらの世界に戻ったのを確認してからでいいんじゃないかしら」


私もそれが良いような気がした。という事は二日後の日曜日、立華さんがN市に帰ってきたらで良いだろう。


「それで何かが起るんですかね?」


明確に答えられる人は居ないかも知れないが訊ねたくなる。


「う~ん」


さすがに二人とも苦笑いである。こんな具合にこの夜は更けていった。
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