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そらまちたび ⑫

マリアさんは白猫の事で誰かに電話している。最初に『ラテン語』という単語が聞こえたので塾の関係の人だろうか。

「ええ、そうなの白い猫が『県民の森』に突然現れたと思ったら、またすぐ消えちゃって」


マリアさんは興奮した様子で話しているが普通だったら受け入れにくい話だと思う。片山さんもその勢いに苦笑気味で、

「マリアさんって思い立ったらすぐ行動しちゃう人だから…」


と補足してくれた。伝えるならばこの情報も教えた方が良いと思い電話をしているマリアさんに、


「マリアさん、猫の首輪に「そら」という文字が入っていたと伝えて下さい」


と言った。ここからすぐに何かが分るわけではいだろうが話に具体性を持たせるためには必要かなと判断した。電話の向こうの人にそのまま伝えるマリアさん。すると、


「え…?「そら」ですけど?はい?ええ、白い猫ですよ?雌かどうかは分かりませんが…」


と何やら相手の方が喰い気味に話しているのが伝わる。片山さんと顔を見合わせ不思議に思っていると彼女が、


「はい?今からですか?ええ、大丈夫ですけど今他の人と行動していて。ええ、一人は旅行で来た人です。大丈夫ですか?」


と何かを確認している様子が窺われる。最後に「分りました」と言って電話が終わった。マリアさんはこちらの方を向いて、


「これからその人の所に行く事になったんだけど、時間大丈夫よね?」


と確認してくる。急な話だがマリアさんが続けて、


「その人何か知ってるみたいよ」


と言ったので興味深いと感じられ僕は行ってみたいと思った。片山さんは冷静に、


「誰なんです?」


と質問した。


「『朝河マイケル』さんっていう地元の人よ。山の方に住んでるからここから近いの」


という答え。片山さんは「あ~名前は聞いたことがあります」と頷いていた。「有名なんですか?」と訊ねると、


「少し変わり者…というか、もともとは県内の大学で考古学の研究をしていた先生だけど、最近は講師、まあ臨時職になっているそうだね。そうかマリアさんと知り合いだったのか」


と教えてくれた。マリアさんが言うには、


「ええ研究に必要だからって、個人的にラテン語を教えていたの。熱心な生徒だったわよ」


という事らしい。話がまとまるとすぐに移動が始まった。今度はマリアさんが車でその人の家まで先導してくれる。10分以内に家に到着した。道中は山の中だが高原になっていて、片山さんの話によると冬場はスキー客が通るとの事。草原のような広々とした場所の中に木造の家がポツンと建っていて、まるで小説の世界のよう。車を降りて玄関に向かうマリアさんに着いてゆく。


「ごめんくださ~い」


マリアさんが呼び鈴を鳴らしながら言った。家主は既に待ち構えていたようで、優しい人柄がにじみ出るような笑顔の男性が出迎えてくれた。


「ようこそ。お久しぶりですマリアさん。それとお二方もよくいらしてくれました。ささ、どうぞ上がってください」


家に上がるとまるで雰囲気が何処か外国の家のようだった。家の様子や「マイケル」という名前からするともしかするとハーフの人なのかもなと思ったりした。リビングに案内され木目調の色が素晴らしいテーブルに着席する一同。そこで僕と片山さんの自己紹介が始まった。手短に紹介を済ませると、


「そうでしたか。N市はどうですか?」


と笑顔で訊ねられた。「いい町ですね」と答えると更に嬉しそうな表情になった。片山さんは、


「お噂は窺っていましたよ。お招きいただきありがとうございます」


と礼儀正しく言った。それに対して丁寧に礼を返す朝河さん。


「マイケルさん、最近はどうですか?」


マリアさんが訊ねる。朝河さんは少し複雑な表情で、


「ええ、実は色々とありましてね…ちょっとした観光旅行に行ってきました」


「え、そうなんですか?何処ですか?」


「う~ん…それについては説明しにくいですね。まあ知り合いが住んでいるところですかね」


「なるほど」


すると朝河さんがキリっとした表情になって、


「その時の事も関係するのですが、何でも白い猫が突然現れて、それが「そら」という名前だったという事ですが」


と話を切り出し始めた。真面目な表情なので少し緊張してくる。僕は素直に伝える事にした。


「そうです。名前については首輪を見たんですけど、白く「そら」と刺繍してありました」


その言葉を聞いた朝河さんは沈黙して何か難しい事を考えているようだった。しばらくして、


「一つ思い当たる事があるのですが、僕もちょっと半信半疑で…」


と断ってこんな話をした。


「ある人が「そら」という白い猫を飼っていて僕も会った事があるのですが、その猫の可能性があるような気がするんです」


そうは言うものの飼主が分ったとしても、一瞬にして現れたり消えたりする現象は説明できていない。片山さんがその事を指摘した。すると朝河さんはまた少し考えてから、


「その白猫の事で何か他に分っている事はありませんか?特徴とか…」


白猫が現れたのはいつも一瞬だったので特徴を調べる余裕も無かったが、そういえば僕には話せる事があった。猫が咥えていた『緑の石』である。財布に入れてあったのを思い出し、取り出てみる。


「これを猫が咥えていたんです。まあ普通の石みたいですけど」


すると朝河さんの表情が一変した。何か思い当たる事があるらしい「すいません!」と少し席を外して何かを探しに行ったらしい。数分後戻ってきた彼の手にはそれと同じ緑の石が握られていた。


「これと…同じものですよね…」


朝河さんは何故か興奮している。冷静に考えれば、その飼主と朝河さんが同じものを持っていていたという事なのだが、朝河さんの表情を見ているとどうもそれだけではないようにも見える。


「白猫の飼主が持ってたんじゃないですか?」


マリアさんも同じ考えになったようだがそれに対して朝河さんはなんとも言えない表情で「いや…そんな…」と呟いた。そしてじっくり、


「その石は、ある店の女主人から『記念』に頂いたものです。よくあるパワーストーンで「幸運をもたらすか知れない石」と彼女は言っていました。確かにそうかも知れません…」


何かを確信しているような朝河さんを三人で見守る。それが本当だとしてどういう事が分るのだろう。僕には謎だった。するとその時、家の外でまた先ほどと同じような「にゃ~」という猫の声がした。


「あ…もしかして!!」


気付いた時には僕は駆けだしていた。すると家の玄関の前に先ほどの白い猫が気持ちよさそうに寝転んでいた。


「あ…何という事だ、やっぱり「そら」くんじゃないか!!」


続いてやってきた朝河さんは興奮を隠しきれていない。すると何かを思い立ったのかポケットから手帳を取り出してそこに何かをペンで書きこんで、そのページをビリリと破いた。それを細長く折りたたんだと思いきや、「そら」の首輪にそれを
結び付けた。


「「そら」の飼主に手紙を書いたんです。もし移動しているなら飼主が気付いて連絡してくれるかも知れません」


「なるほど!!」


僕は唸った。「そら」と呼ばれた猫は朝河さんを知っているのか大分懐いていて、彼が身体を撫でると喉をゴロゴロと鳴らした。そのうちに身体が半透明になってゆき、いつの間にか「そら」は消えてしまった。片山さんは今までの事を総合して、


「『怪獣』もそうですが、突然現れたりするのは空間の移動なんでしょうね」


と結論づけた。僕もマリアさんもその線で納得していたのだが朝河だけが神妙そうに、


「いえ、もしかするともっと凄いことなのかも知れません」


と述べた。
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