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そらまちたび ⑬

猫の事はとりあえず何かを知っていそうな朝河さんに任せることにして、高原の方に来ているので片山さんとマリアさんと一緒にスキー場に行ってみる事にした。勿論今はスキーの季節ではないが、山の頂上まで行くロープウェイがあるとの事でそれに乗ってみるつもりだ。スキー場にはすぐに到着する。山開きは先月の中旬だったので時期的には丁度良い。山登りをするわけではないので軽装でも大丈夫だろう。僕等の他にもお客さんはポツポツと居るようで、10分間ほどのロープウェイの空中散歩を楽しんだ。


『絶景』と言いたいところだが高所があまり得意ではないので少しヒヤヒヤしたりしていた。それでも周囲の地形がしっかり確認できるのが面白い。山頂に着くとまた格別なものがある。少しひんやりしているのも標高が高いゆえである。晴れ渡っていて遠くまで見えるが、特に近くの山の形がはっきり分かる。頂上の無料休憩所で眺望を気が済むまで眺めていた。


「今日はあと、下のレストハウスでのんびり過ごすのが良いかもね」


とアドバイスしてくれる片山さん。確かにこの別世界の気分をもうちょっと味わっていたいような気がする。そこでは食事も出来るそうで、お昼時なので時間も丁度良い。今度はロープウェイで下ってゆくのだがそれもまたスリリングである。


「私もロープウェイに乗るの久しぶり。住んでるのに年とってスキーしなくなっちゃったから…」


と言いつつ「ふぅ~」と溜息をついたマリアさん。年をとっての部分を具体的に訊いてみたくなる衝動を堪えつつ生温かく見守る。スキー場に戻ると、かなり立派な建物があることが確認できる。レストハウスでは先ほど上がっていった山を眺めながら昼食を取った。


カレーである。



こういう場所で食べるカレーは格別だが、前日に予約すればバーベキューも出来るそう。しっかり平らげ、その後は外を歩いたりしながら三人でのんびりと話をして過ごしていた。だんだんこの町の事が分ってくると、片山さんの口から『町おこし』というキーワードが出てきてそれについてちょっとした議論に発展した。マリアさんはまるで飲みの席であるような調子で、


「そもそもね、この町の人は商売っ気がないのよ。『ガララ』の時ももうちょっとうまくやればグッズ展開とか出来たのに」


と息巻いた。片山さんは苦笑気味に、


「まあそうなんですけど、グッズを作るのも並大抵の事じゃないんですよ」


と宥める。正論だったのか、


「そりゃあそうだけど、でも…」


という具合にトーンが落ちるマリアさん。するとマリアさんは僕の方を見て「ショウ君はどう思う?」というちょっとした無茶ぶりをする。これは返事に困る質問で、僕としては一般的な事しか言えない。


「まあどうしても地元だけでやろうとすると大変なんじゃないですか?」


安直な発想で出来るところに任せようという考えが浮かぶのである。


「そうだろうね。少なくとも『スーパーバイザー』とか、そんな感じの人に頼るという方法もある」


片山さんはおおむね同意のようである。ただマリアさんは少し意地があるようで、


「でも『ガララ』の時にいちばん動いたのは私達のはずよ!」


と言った。そういえばそんな話を昨晩していたような気がする。


「その事はちゃんと評価してますよ。でも、あれは工藤家が動いたって話になってますからね。あそこのお嬢さんあたりの鶴の一声があれば重い腰を上げてくれるかも知れませんが、商売になると話は別の様な気がしますね」


「まあ確かに。チエコさんに任せちゃうとこっちに旨味が無いのも事実なのよね…カメラマンも引き抜かれそうだし…」


「ああ、パトロンの話ですよね」


「グッズ販売の事はある意味で終わってしまった事なので、今はこの町の観光について何とかならないものかと思うんですけどね」


片山さんが本道に戻す。するとマリアさんは多分だが思い付きでこう言った。


「やっぱりこの町を舞台にした小説と言うのが現実的よね。『アニメで町おこし』とかもそうだけど、小説がヒットしてドラマ化、映画化とかメディアミックス。そして『聖地巡礼』のお客さんが増えるのよ!」


マリアさんの話はとっても分り易いのだが、そもそも『小説』とか創作を最初から町おこし…金もうけの手段として作っていったら中身がスカスカになるような気がしてならない。ちょっとそういう業界も知っているのもあって、マリアさんの発想を現実化させる為には何かが足りないように思える。


「小説と言うのは悪く無い手です」


だが意外にもライターである片山さんは評価している。


「何故です?」


気になるので訊いてみる。


「歴史小説とかは需要があるはずなんです」


「歴史小説ですか?あまり読まないのでピンとこないというか…」


「昔ここを治めていた藩のマイナーな武将とかもディープな歴史オタクの目には留まるようで、実際に創作も少し出版されています」


「そうだったんですか!だったら十分可能性がありますね!」


僕の感覚からすると片山さんの言うことは頷けた。有名な武将だけではなく、いわゆる『知将』や『軍師』などをテーマにした長編ドラマが最近のモードらしいし、歴史小説を知らない僕でも明らかに一昔前とは価値観や評価が変わっているような気がする。


「ただこれには一つ欠点がある」


そう述べてから片山さんがこう断言した。


「資料となる書籍が圧倒的に少ない事である」


僕は思わず絶句した。それではどうやって武将の生き様を調べればいいのか?


「そ…そうなると、想像力が必要になってきますね…」


「実際歴史小説と言うのはフィクションでもあるからね。ある程度のところまでは自由にやっていいんだと思うのだけれど、下手をするとファンタジーになってしまう…難しいよ」


「別にファンタジーでもいいんじゃない?」


マリアさんは言うけれど、まあ割り切ってしまえばそれで良いという論理も成り立つ。


「でもそれじゃあ歴史オタクが喰い付かないかも知れない」


「需要と供給ですね…」


「何も歴史小説じゃなくてもいいんじゃない?普通の小説…何なら文学でもいいわ!」


「ところが、そうなるとネタがなくて…」


「ネタねぇ…あ…そうだわ!!良い事考えちゃった!!」


マリアさんはまた思い付きをしたようである。


「一応訊いてみますが、何ですか?」


片山さんは少し呆れ気味に訊いた。するとマリアさんは「ふふふ」という不敵な笑みになって、


「『ガララ騒動』の当事者のノンフィクションとかなら良いんじゃないかしら?」


「まあ、それなら上手く書けば面白くなるかも知れませんね」


片山さんがそう言うように僕にも悪くない考えのように思えた。ただ当事者なので誰が書くかという事である。


「マリアさんが書くんですか?」


そう訊くとマリアさんは全力で首を振って、


「無理よ、私日本語怪しいもん」


と言う。『いや随分流暢ですよね…』と言いたくなるのを堪えて、


「じゃあ他に宛てがあるんですか?」


と訊き直すと、


「タロウくんという人がね『ガララ応援隊』というブログを運営してくれてた人なんだけど、文章力は無いわけでもないみたいだから彼に任せて、所々に写真を添えればそれなりに体裁は整うはずよ!!」


と自信たっぷりに言った。


「でも、それで出版社が動いてくれますかね?」


僕の経験上、有名人ならともかくごく普通の人だと企画すら見てもらえないような気がする。


「そ・こ・は!!!」


何故か満面の笑みで僕を見つめるマリアさん、とても嫌な予感がした。


「ショウ君が話を通してくれれば万事解決よ!!」


『無茶ぶりにもほどがある』とは言えなかった。一応お世話になった人だし無碍には断れない。しかも、


「なるほどね!じゃあ私がその文章の添削をしてもいいかもね」


と片山さんも少し乗り気である。


「じゃ…じゃあ、一応知り合いに話をしてみますね…でもちゃんとしたものが書けたらという事で良いですか?」


とりあえずこう言っておけば僕の責任はそんなにないので大丈夫だろうと思った。GOサインを出すのは僕ではないし…などと逃げ腰になっているけれど最悪自費出版でもいいんじゃないだろうか。片山さんに小声で言ってみると。


「うん…分ってるよ。でもほら、運良くという可能性もあるから…ごめんね…」


と申し訳なさそうに言われた。ただ一個人としては書いたものを読んでみたいなとも思うのである。
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