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そらまちたび ⑭

レストハウスでゆっくり過ごしているうちに、別な季節にここに来ていたらまた違った魅力があるのではないかと思えてきた。それはこの町全体にも言える事なのだろう。そもそもこの旅行自体、本当に何も決めないでネットでチラッと調べただけの所に来ただけなのだが、それにしては思い入れが強くなり始めている。


「ちょうちん祭りだけは見に来た方が良いと思いますね」


遠くを見ながらリラックスした片山さんがお勧めしてくれる。マリアさんも同意した。二人の話では毎年10月の最初にあるこの町の祭りである「ちょうちん祭り」の為に一年があるように感じている人もいるとか。今月のように休みが取れるかどうかは分からないが、いずれいってみたい。


「まだ安斎君は若いけれど、歴史とかに興味を抱くようになった頃…歳をとってからだろうけどね、その時もやっぱりこの町は同じように魅力的であると良いよね」


「今は外国人の人向けにアピールするのも必要だと思うわよ」


マリアさんの言葉はこの町だけではなくこの国全体で同じことが言えるような気がする。


「気になるのは、みんな「そら」が綺麗だって言うのよね」


「「そら」?」


僕は白い猫の首輪にも「そら」という刺繍があったのを思い出したが、マリアさんの言いたいのは普通に「お空」の「空」だと分った。


「言われてみれば、澄んでいるような気がしますね」


「そうかしら?」


とマリアさん。少し納得のいかない表情である。片山さんは、


「『そらまち』とか案外いいような気がするなぁ…」


と呟いた。どういう事なのか訊いてみると、


「いや、その仕事で地元をアピールする為の記事を書かなきゃならないんだが、どういう切り口にしたら印象的なのかなと思って」


「『そらまち』っていうのは良いんじゃないですか?なんか爽やかな感じがしますし」


「この町で山と空をずっと見ているとね、空っていうのは色々な表情があるんだなって思うよ」


「夕焼けとか夕暮れ時の蒼さとかね。紫っぽい時もあるわ」


「なんだか皆さん、詩的ですね」


僕は感心気味に言った。すると片山さんは僕の方を見て、


「今回、安斎君と一緒に地元を旅行してみて、まだまだ捨てたもんじゃないって思えるようになったよ」


「それはなによりです。僕は片山さんに会えて幸運だったと思います」


そう言って二人でがっちり握手をした。おたがいに頷いているとマリアさんが、


「誰か大切な人を忘れていませんか?素敵なレディーに出会わなかったでしょうか?」


と得意げに言った。何となくマリアさんにペースを握られたくなかったので、


「僕が出会ったのは、マッサージチェアで緩んだ表情を見せていた謎の外国人でしたよ?」


と少しイジワルをしてみる。マリアさんは案の定、


「それちょっと酷くない!?これだから日本人の男は…」


と呆れていた。でも言葉に反して表情はにこやかである。勿論この後に、


「マリアさんの様な素敵な女性との出会いもありました!」


とゴマをすっておく。分り易いくらい現金に満面の笑みを浮かべるマリアさん。そうこうしているうちに駅に向かわなければならない時間になった。この後もう一度朝河さんの所に行ってみるというマリアさんとはここでお別れである。


「じゃあ、また会いましょうね!文章できたら連絡するから」


「ええ、また!」


マリアさんの乗る白い車は元来た道を戻っていった。


「じゃあ、私達もそろそろ行こうか!」


僕も片山さんの車に乗って駅に向かう。通り過ぎてゆく景色を目に焼き付けるようにずっと眺めていた。やがて市街地に入り、来たときに最初に目に留まった神社とその前に置いてあるベンチが見えるところまで来た。あそこに座っておじいさんの話を聞いた時にはこんな旅になるとは思っていなかった。


「着きましたね」


坂を下って車が駅の駐車場に停まった。


「じゃあ家に着いたら連絡してください。そしてもし今度来る時には事前に連絡してもらえば、ちょっと色々用意するから」


「分りました。是非…そうですね、祭りのときに来れたら来たいと思います!それまではこの町の事自分で調べてみます」


「うん。じゃあ!」


「ではまた!」


そう言って片山さんとも別れた。電光板で下りの電車の時間を確認するとすぐのようである。少し急ぎ気味に切符を買う。完全な手動の改札でホームに入る時には切符の確認もないようである。下りの所まで歩くと丁度電車がやって来た。開かないドアに一瞬迷ったがボタンを押し手動で扉を開け、比較的高校生の多い電車に乗る。席に座って前の方から聞こえてくる会話のどこか不思議なアクセントが、最初の頃よりも随分慣れている自分に気付いたりした。


(おわり)
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