FC2ブログ

「そら」

仕事帰りにテレビを点けて晩餐が始まるとすっかり寛いでしまい日曜から出したままの物に手を付けられない。その部屋で「そら」は妙にテンションが高い。元気な事は良い事だと思うが、夜の方が活発だとさすがに大変な部分はある。月曜日は結局片付かなかった。


ここまでは本当に『白猫の置物』が無くなっても別に何も変わらない日常だった。ある事が起ったのは火曜日である。それはまさに『静かな衝撃』だった。


部屋を片付けようと少しだけ早めに帰宅すると「そら」が居ない事に気付く。いつもなら出迎えてくれるはずなのに今はどの部屋にもその姿が見えない。隠れている場合もあるのだが、一瞬『居なくなってしまった』と思うほど気配がないのである。気配がしなかった理由は「そら」が屋根裏に隠れていたからだ。以前、二階の押入れから屋根裏に潜入した事があった「そら」だが、迂闊だったのは一階の和室の押入れの上にも屋根裏に行ける所があったという事を失念していた事だった。


荷物を整理しようと襖を開けっぱなしにしていたので「そら」は恐らく昨日も入ったに違いない。二階の屋根裏もそうだがそこに入ってしまうと蔭になったところに隠れてしまうので見つけるのが大変なのである。実際相当苦労して「そら」を捕獲した。



が、思いもよらぬ事に気付いたのはこの瞬間だった。あり得ない事なのだが「そら」の首輪に細長い紙が結んである。自分でやった記憶が無いので私ではないのだが、この家に居るものは私しか居ないので一瞬だけ『泥棒』という想像が頭に浮かんだ。ヒヤヒヤしながらその紙を取って開いた時に私が感じた事はもっと驚愕すべき事だとは思ってもみなかった。



それは短い手紙だった。


『これは、この猫の飼主であると思われる大城博さんへの手紙です。これは僕が貴方の家に居た時に付けたものではないという事はお分かりかと思いますが、単刀直入に言えば異世界の『N市』に「そら」がやってきていたのです。偶然それを知らされて、僕の家の前にも「そら」がやって来たので思わずこの手紙を首輪に結んでしまいました この手紙を確認しましたら望さんに知らせてください折り返し連絡が行くと思います。


朝河舞蹴』


この手紙にあるように、昨日の時点では「そら」の首輪にこんなに目立つ物はついていなかった。だとすると今日になってから朝河さんが、とも思ったが異世界人だからという事を認めれば容易だろう。彼がまた来たのである。ただそうではないとした場合、家には鍵がかかっていて侵入できない。そして「そら」や私の事を知る人物としては朝河さんくらいしか考えられない。手紙は本物だろう。凄く意地悪に考えれば朝河さんが他の人に頼んで手紙を持たせて家に侵入させて「そら」の首輪に結び付けたとも解釈できる。が、どこか不自然である。というか、『鍵』が掛かっている部屋に容易に侵入など考えたくもない。


「合鍵を盗まれた…?」


その辺りまで邪推しても合鍵がそもそも無いし…。ピッキング…?という良く分からない所まで考えても、そこまでして自分が『異世界』の人間だという事を私に信じさせる工作をする必要があるのだろうか?



一人で考えてもかえって真実が見えなくなるような気がする。素直に望さんに事情を説明したメールをしてみる。10分くらいして望さんから返信がある。件名は『大城さん宛てのメールをそのまま転送します』で次のような文章である。


『こんばんは、朝河です。こちらで調べたところ、この世界の『N市』では少し前から「白い猫」が出没するという噂が流れていたようです。それも猫が居るような場所ではない城跡や市内だそうで、昨日から旅行に来ていた男性が市内の行く先々でその白い猫に遭遇していたそうなのです。その男性が猫の事で僕の所に来て相談していたのですが、その時立華さんに貰った『緑の石』パワーストーンを預かりました。白い猫が咥えていて落としたものだそうです。


「そら」がこちらの世界に来れるという話は突拍子もない事のように思われますが、『白い猫の置物』の事もありますし、何か関係しているのかも知れません。先ずはそちらに『緑の石』があるかどうか確かめてください。そしてここ数日の事で何か特別な事があればそれを教えてください』



朝河さんの話は説得力がある。先ずはキーになる『緑の石』だが実際「そら」は今咥えていないし、見える場所にはないようである。可能性としては屋根裏に行った時に咥えていって落とした…というのが常識的な考えだが、そうなると屋根裏は暗くて広いし探すのは困難なように思えた。実際少し探してみて無理だと断念した。あとはここ数日の事で言えば「そら」が『屋根裏』に侵入した事だろうか。



そういえば以前も屋根裏に侵入していたが、もし仮に朝河さんの住む『N市』で目撃されていた『白い猫』が「そら」だと言うのなら、時々2階の屋根裏に勝手に入っていった時に、異世界に移動していたのだろうか?思いつく事といったらこれくらいなのでパワーストーンの事も含めてもう一度望さんに伝えてほしいとメールする。そして朝河さんからではなく望さんから個人的にメールがあった。


『何だか凄いことみたいですね。もしまだ「そら」ちゃんが移動できるなら、まだ何か確認できるのかも…』


望さんは疑っていないようである。私としても疑っているわけではなく確証が欲しいのである。続いて朝河さんからのメールが転送されてくる。


『考えたかも知れませんが、やはり『屋根裏』が関係しているのでしょうか。条件が揃えばもしかしてもう一度「そら」くんはこちらに来れるかも知れません。試しに今からもう一度『屋根裏』に上げてもらえますか?』


私としても確認してみたいので実際にやってみる事にした。一応一緒に屋根裏に上がってみる。すると…これはもう疑う事は出来ない「そら」が目の前から消えたのである。透明になって消えていった。当然飼主として心配だが、もし朝河さんの住む『N市』に行っているとするなら…


と思うと10分くらいして「そら」が再び現れた。しかも口にはパワーストーンを咥え、また首には細い紙が結んであった。屋根裏から一旦降り襖を閉め、紙を開いた時には既に心が落ち着いていて全てを受け入れていた。


『緑の石を「そら」くんに返しておきました。 朝河舞蹴』


短い一言だったが、今更「「そら」はただ朝河さんの住む所に瞬間移動できる」というような中途半端な解釈は出来ない。異世界が実在するという事は実際に見てこない限り確証はないけれど本当なのだろう。私は朝河さんに向けてメールを作成する。こんな文面である。


『パワーストーンありがとうございます。そちらの『N市』に戻ってみた感想はどうですか?』


すると望さんからこんな返信。


『上手くいったんですね!!おじさまさからの返事です。


『ええ、我が家はやっぱり落ち着きます。友達とも会えますしね』

』 


ゆっくり部屋の整理をしながら、<また立華さんに報告できる事があるな>と思ってちょっと嬉しいなと思った。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
普通のカウンター
投票
無料アクセス解析
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR