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繋がる世界

水曜日、朝目覚めると何となく世界が変わったような気分があった。一晩眠ってみて昨日の事、つまりそれ以前の事がすっかり確かめられたのだろう、今更ながらワクワクしている。といっても野暮用があるのでそこは適当に済まさなければならない。「そら」に餌をあげながら準備をする。昨日片付けた和室を眺めながら着替えていると、私の頭に「時々は押入れを開けておこうかな」という考えが浮かんでくる。朝河さんの話によれば、あちらの『N市』の様々な所で目撃されていると言うから、屋根裏から移動する場所はランダムなのかも知れない。今思い出せば、二階の屋根裏から戻って来たときにもかなり汚れが目立っていたのだが屋根裏が汚いというだけではなく、土のあるような場所を歩いていたのかも知れない。


「まあ戻ってくる所は屋根裏だから、「そら」にとっては散歩みたいなもんなんだよな」


自分が変な事を考えていないかを確かめる為に独りごちてみるが、そういえばまだ解決していない疑問がある事に気付いた。


「どうして「そら」はあちらの世界に行けるのだろう?」


その疑問に対して朝河さんなら「白い猫の置物」が関係していると言うだろう。私もそれしか考えられないのだが、既に立華さんに『返却』しているという事や色んな要因が重なっている可能性もあるような気がした。それについても私だけではどうにも解決できそうにないので、立華さん、ひいては異世界に居る朝河さんと協力してもらう事になりそうである。


それはそうと時間になったので野暮用の方を済ますために出掛ける。具体的にはF市の方の親類に顔を出すようなものなのだが、こういう事でもしなければと思うようになると私も年をとったなと感じてしまう。午前中には終わったので、N市に戻って昼食を済ませ、描いてもらう絵の主役とも言える「そら」をキャリーバッグに入れて絵描きさんの所に移動する。「そら」はあまり抵抗しないのだが、車に乗せるとやはり「にゃ~」と切ない声で鳴いた。


「すぐに着くから」


言い聞かせるように「そら」に向かって言ったりしながら10分程度。その人の自宅兼アトリエと思われる場所に到着した。チャイムを鳴らすとインターフォン式だったのでスピーカーから「はい、どちら様ですか?」という男性の声が聞こえる。


「このまえ電話で猫の絵を描いていただけるという話を…立華京子さんの紹介で…」


どう紹介しようかと迷いながら喋るとその辺りで「あ、今行きますから!!」と声がした。すぐに玄関の扉が開いて、先ほどの声の主と思われる男性が現れた。


「あ、どうも僕が絵を描いている者です。大城さんでしたよね、どうぞお入りください!」


「今、車から猫を連れてきますので」


一旦車に戻ってバッグに入った「そら」を連れてくる。その時ある物も取り出した。絵描きさんはキャリーバッグ越しに「そら」を見て。


「綺麗な猫ですね!」


と言ってくれた。「そら」は落ち着いているようだった。家に上がりながら相手の名前と年齢を尋ねると、


「高橋です。歳は35です」


どうやら私よりも少し年上であるようだ。電話口でも子供の話が出てきたが今年小学校二年になる息子さんがいるようである。近い年齢でもしっかり『お父さん』の人を見るといつも尊敬してしまう。客間に案内してくれた高橋さんは、


「いいですねぇ。猫。アトリエに入ってしまうのが心配で結局飼えず仕舞いなんですが、描く対象としても猫はいいですよ」


としみじみと言う。私はその時、


「これ、立華さんの『店』で買ったものなんですが…」


と言って立華さんの『店』で買った瓶を渡した。プレゼント用にラッピングされていたので「瓶です」と中身を教えると、


「ああ、もしかして『あの瓶』ですか?僕、前物欲しそうに見てたのバレてたんですね…ちょっと恥ずかしい。でもありがとうございます!」


「いえいえ、絵を描いていただけるという事でしたので。こういう話をするのも何なんですけど、絵はどの位掛かるんですかね?」


「物にもよりますけど、一週間くらいで描こうと思ってますよ」


「あ…そうなんですけど、その買い取る時に…」


値段の事を先に訊いてしまうので私は少し恐縮してしまう。すると高橋さんは「あー」と納得した表情になって、


「ええ、そんなに高いものではありませんよ。物を実際に見てから、買い取りたいと思った値段でお譲りしますよ」


「そうですか…じゃあ…」


その辺りで相場を考えてしまうのはあまり良い癖ではないのだが、何分こういう事には疎いのである程度の値打ちがあるものと思う事にした。その後高橋さんは「そら」をキャリーバッグから出すようにと言った。


「にゃ~」


出るなりこちらを見つめて何かを訴える「そら」。高橋さんは既に画家モードで「そら」を観察したり、「そら」を抱いてみて下さいと言ったり、写真を撮ったりしていた。その後軽くスケッチが始まった。全部で15分くらいの作業で、一番単純なラフは出来あがっていた。


「早いですね…」


私は思わず関心の声を上げる。


「まあ一応これで飯食って、妻と子養ってますんでね」


高橋さんはにこやかな表情で言った。スケッチを見る限りシンプルだけれど猫が印象的な絵になりそうである。


「この「そら」はですね、実は屋根裏から異世界に行けるんですよ」


高橋さんの反応が見てみたくて冗談のような口ぶりで言ってみまた。彼は一瞬「何を言っているのか分らない」という表情をしたが、多分ジョークだと思ったのだろう口許に笑みを浮かべながら「へぇ~」と言った。誰かに言ってみて反応で分る、この唐突さ。とてもありのままを伝えただけでは信じてもらえ無さそうだ。実際自分もそうだったわけだし、当然だろうとさえ思う。ただ高橋さんはこんな事を言った。


「画家もね、絵を描いている時はある意味で異世界に居る人もいるのかも知れない。いや、そういう世界を見せるのが画家の仕事の一つかも知れない…そんな風に思う事があります」


「へぇ~」


今度は私が言う番だった。分るような気もするし、実際は分らないそんな感じである。その辺りでお暇させてもらって、絵が完成したら電話をしてくれるように頼んだ。早く見てみたいし仕上がりがどうなるのか楽しみである。この用事が比較的早く済んでしまったのもあり、私はついでに『店』に寄ってみる事にした。ついでにとは言ったがもともと寄るつもりだった。


「こんにちは」


いつもの通り『店』に入店する。ただ今日は「そら」をキャリーバッグに入れていた。この店も「そら」にとっては初めてである。


「あら、お客さんだわ」


少しわざとらしい口調で私に声をかける立華さん。だがすぐに「そら」に気付いて、


「あら、「そら」ちゃん!!」


と明らかにテンションが上がっていた。


「今日絵描きさんの所に行ってモデルになってきたんですよ」


説明すると、


「そうだったの。それでその帰りって訳ね」


と理解してくれた。


「ええ、でも連れて来た方が良いなって思いました」


「どうして?」


立華さんは不思議そうな顔である。私は昨日あった事、厳密には「そら」が屋根裏に行っていた時に起っていた事を朝河さんからの2枚の『手紙』を渡しながら説明した。立華さんも流石に驚いたようで、「ほ…ほんとう?」と訊き返す場面もあった。説明が終わった感想は、


「異世界がある以上、あり得ない事ではないけれど…さすがに猫が移動出来るなんて夢物語みたい…」


だった。実際夢物語のようにも思えるが自分で確かめた事もあるので今は現実的に考えている自分がいる。立華さんはその後「う~ん」と呻りながら何かを考えていたようで、しばらくして「はっ」とした表情になった。


「もし、同じことが出来るとして、朝河さんの所に「そら」ちゃんが行った時に…朝河さんが「そら」ちゃんと一緒に写真を撮って、その写真を「そら」ちゃんの首輪に付けて送ってもらえば…」


「あ、それは良い考えですね!それは完全な証拠になります。いや…少なくともまあ朝河さんの所に行ったという証拠にはなりますね」


「でもまあそんな事しなくても私は信じてるけどね」


「それはそうですよね。でも」


「でも?」


「朝河さんがあっちで元気にしてるか知りたい時には良いかもしれませんね!」


実はその手段は別な方にも使えた。後日私は、リリアン達からもらった関係者の近況を知らせる写真を編集して一枚の画像にしていた。それをプリントアウトして細く折って、「そら」の首輪に巻き付けて屋根裏に上がらせた。「そら」が降りてきた時、その写真が無くなっていた。そしてその数日後「そら」を屋根裏に上げて、しばらく待つと首輪に再び小さな紙が結ばれてあった。開いてみると


『皆さんお元気そうで何よりです。 私の隣に映っているのは「マリアさん」というラテン語を教えてくれた女性です。 朝河』


という朝河さんの短い手紙に一枚の写真がプリントアウトされている。確かに朝河さんの隣には外国人の女性が映っていて、彼女の膝元には「そら」が座っていた。自撮りのような写真だがこれを立華さんに見せに行くと、


「へぇ~いい笑顔ね!」


と彼女もいい笑顔で言った。伝書鳩ならぬ伝書猫になってしまった「そら」だが、何処に行っても大切にされるようなので嬉しい限りである。そんな我が家の伝書猫がどこか見覚えのある町の中を歩いている一枚の絵が壁に掛けてある。『異世界』に行ける猫という会話がインスピレーションになったらしく、絵の中の「そら」が今にも動き出しそうなほど活き活きしている。絵の出来も素晴らしいので私が素直に与えた評価額にも絵描きさんは満足してくれていた。



いつか朝河さんにもこの絵を見てもらいたいなと思っている。立華さんも朝河さんもある同じ事を言う。


『世界は繋がっている』


私もそんな気がしている。しっかりとではないけれど、繋がっていると感じられる者にとってはどちらも立派な世界なのである。そして自分の知らない世界に案内してくれるような、京子さんの「SHELLY」という『雑貨店』は比喩的な意味でもそのままの意味でも私にとっていつも『境界の店』なのである。



(終わり)
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