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馬鹿者どもの共演

ポンコツ車を走らせて辿り着いたのはとある陸上競技場だった。世界陸上が間近だが、ここいらで私も隠された能力を発揮し、とりあえずオリンピック標準記録突破してリオに乗り込んでみる事にしたのだ。


「は?舐めてますか?」

受付けでそんな暴言を吐かれた。ありのままに語ったのにこの仕打ち。だがここで逆上してしまっては相手の思う壺だというひらめきが脳裏を掠めたので、


「いえ、大真面目に10種目に登録するつもりですよ」


と言った。だがここで重要な事実を知らされる。そもそも飛び入り参加は基本的には不可能らしく、数週間前に事前に登録しなければどの競技にも参加できないそうなのである。


「じゃあ10種とはいいません。大外枠で賞金も入らないので出走させて下さい!!」


と分る人には分るマルゼンスキー的な訴えをしてみたところ、


「一斉スタートの1万メートルのオープン参加ならまあ、なんとか」


という譲歩を得ることが出来た。ちなみに賞金はもともと出ない。しかしここで問題が一つ生じる。私は長距離が苦手なのである。渋っている私に胡散臭そうな目を向ける係員。でもここで好記録を出さないとリオなどとは言ってられない。背に腹は代えられず、私は初の1万メートル走に出走を決意した。


「あれ…?」


「え…?」


ランニングシャツに短パンという出で立ちでスタートラインに立つ私を参加者は不審な目で見ていた。その様子で彼等は私を見くびっているに違いないと確信し、<ここはいっちょうスタートダッシュを決めるか>と心の中で算段する。



パン



とスタートの合図が鳴ると、私は後先の事を何も考えず全力疾走し始めた。会場は俄かに湧いたような気がした。だがここでも更に計算違い。なんと全力疾走しているにも関わらず前に追いつかないどころか、逆に離されてゆくのである。



「なんだぁ!!こいつら飛ばしすぎだろ!」



大声でわめきながら走っていると次第に息が苦しくなってくる。炎天下の中、既に汗だくで一人だけ何か違う競技をしているような錯覚に陥る。尚悪いことに集団の追走すらできず、一週目を周った辺りで最後方。一周を走りきった時の足や心臓の感覚で、<これを後…24…周?>と思い至った瞬間、本当に気が遠くなった。


「っていうか、あいつら人間じゃねぇ」


離された後ろで大分前を走っている人達の様子を見ていると、時々とち狂っていると言われる私から見てもあっちの方が狂っているように思われてくる。2週目こそなんとか乗り切ったが、3週目で周回になった瞬間に心が折れた。


「リオは…なんて遠いんだ…」


もちろんリオまでは距離も遠いし、リオのオリンピックに参加するだけでもえらく遠いだろう。だが、そんな意識よりも次第にこのレースを走っていることしか意識できなくなってくる。


「1万メートルはなんて遠いんだ…」


最後のプライドで完走だけはと思っていたが、もうジョギングでも苦しい。次第に目標が低くなって、


「皆ゴールしたら棄権しよう」


という志の低い目標を一応掲げる。だが、ここまで周回遅れにされ見世物同然になってくると別のプライドで、


<もう見られたくない>


という気持ちになってくる。それよりも絶望的なのは現実で、私はもう既に走れる身体ではなかった。というより走る意義も、目標も何もかもないのに走っている事の方が馬鹿らしいのである。私は最後に、


「バカ野郎!!!!!!!!」


と大声で叫んで棄権した。走破距離2400メートル。タイムは14分。ヘロヘロになりながらもポンコツを運転して家に辿り着いてみすぼらしく倒れた。



今思うと実に馬鹿げた挑戦だったが、私は確信している。私よりも走り切って本当にリオに行ってしまう者の方が狂っていると。そんな狂ったタイムで走り出す一流アスリートのレースは、だが、見ている限りでは素晴らしいなと思えるようになった事は収穫だったのかも知れない。
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