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掌のワインディングロード ⑥

来月自分の誕生日だ。26歳の現在、あまり意識したくはなくなってくるけれど26年生きたのは間違いないし、その年齢に相応しいことを無意識に選んでいる自分がいる。院を出て、24歳になっていた私が『お水』になるというのはかなり勇気のある事だった。蛮勇なのかも知れないけれど、若々しい女性も多い世界でこの年齢は少し微妙といえば微妙だった。けれど年上の先輩もいるし、こんな時代だから私のようなパターンも皆無というわけではない。それでも珍しいというか色物的な扱われ方をする時もあって、私を指名するような人も何処かしら地味な人も多い傾向がある。


浮き沈みのあるような商売をしている人の話を聞いたり、あまり知らない芸能人の人が来た時にその世界の話を少しばかり聞きかじっていると世の中上手く行く事ばかりではないなと思い知らされる。何より彼等の言う『夢』のある話は実は良く聞いているとお金や社会的地位の事だったりして、そんなに共感はしない。ただ去年あたりから5年後に迫ったオリンピックに関連する業種の人達の景気の良い話を聞けたりして、もし転職するとしたら、その辺りの事に関われたらやり甲斐があるのかも、なんて考えていたりした。転職とは言ったけれど、今の仕事も続けていっても別に構わないと思っている。それでも例外でもし家庭に入るとか、年齢的に厳しいと言われたりしたならば考えなくてはいけないだろう。


その辺りの事を勇次に相談すると、私の事情をよく知っているので躊躇いがちに、


「君の好きな事が見つかったら、それをやればいいよ」


と告げてくれる。研究をしたい気持ちは多分まだ残っている。でも今の生活はそれ自体でも肯定できるものだと思い始めていて、何でもっと早く恋愛をしていなかったのだろうと自分でも不思議になる。『タラちゃん』に教えてもらっている競馬も自分なりの楽しみ方を見つけ始めていて、趣味の事だけではなく人生の様々な事もこんな風に探していけばどんな風にでも生きて行けるのではないか、今ではそう感じている。


先週の『アオゾラ』が負けたレースで自分が味わった事は自分でも驚くくらい大きかった。私は『アオゾラ』に自分で考えていた以上の強い思い入れがあったのだ。またネットでその後の情報を探していると次は天皇賞秋、もしくはマイルチャンピョンシップというGⅠレースになるという予定だという事が分った。その競馬専門のサイトは馬ごとに掲示板があって、競馬というよりはその馬が好きなファン達が我が子のように馬の頑張りを褒め称え、単純に好きだという気持ちを表現していたりしていた。微笑ましくなって、心が温かくなる一方で2着だった『アオゾラ』に対してさえ、


『思ったより強くないかも』


とだけ残してゆく人が居たりでなんだかやきもきする。その話をしたとき『タラちゃん』には、


「皆が皆冷静に分析しているわけではないですしね、でも逆に言えばそれくらい期待していたってことですよ」


という風に受け止め方のアドバイスをしてもらった。そういえば『アオゾラ』以外にも最近5年ぶりに勝利したという『マラドーナ』という馬がまるでアイドルのように語られていて吃驚した。現役生活が長く人間に換算すると「おじさん」と言ってもいい年なのだそうだけれど、若い頃にはかなり期待され、それを裏切った時があったけれど人気は全然衰えなかったという素敵な馬だ。その馬について詳しく話を聞いて、


「『競馬はドラマだ』って言ったタラちゃんの気持ちがちょっとわかるかも」


と言うと『タラちゃん』は恥ずかしそうに、


「それ、受け売りみたいなもんなんですけどね…」


と答えていたが満更でもなさそう。勇次は『マラドーナ』の成績を知るとこう呟いた。


「でも買えないよな…」


確かに馬券を買うとなると応援する方もハラハラしてしまいそうだ。けれど私は既に『アオゾラ』に対して同じような気持ちなので買って応援したくなるファンの心理も分るような気がする。その話をしていたのが金曜日で、次の日に中山競馬場に行く事になっていた。普通は大きいレースがある日曜を選ぶのだけれど、今週については土曜日にデビューする『一億円馬』の走りを見届けたいとの事だった。そこで私は一つ気になる事があった。


「勇次は好きな馬とか居るの?」


私は勇次に訊いた。勿論楽しみ方は人それぞれでいいと思うのだけれど、勇次も気になる馬はいるんじゃないかなぁと想像したのだ。勇次はこう答えた。


「そうだなぁ…やっぱり直線で後ろから豪快に抜き去るような馬がいいよね」


面白いことに私とは正反対である。『アオゾラ』もそうだけれど、一生懸命前に行こうとする馬に惹かれてしまう傾向があるらしい。


「というとやっぱりドリームインパクト産駒か、クライイングハート産駒とかですよね」


『タラちゃん』は間髪なく言った。相変わらず馬の名前が瞬時に出てくる人である。『産駒』という言葉は掲示板を見ているうちに『子』という意味だと分かっていた。ドリームインパクトは知っていたので、あとは『クライイングハート』という馬がちょっと分らない。そんな私の表情を読み取ったのかすぐさま、


「クライイングハートはドリームインパクトを負かした馬で、子供が結構凄いんですよ。最近だと『ゴーアウェイ』という馬が外国でも勝ってたり」


と説明してくれた。全部説明してもらうのもなんとなく手間かなとも思って、スマホを操作して『クライイングハート』を調べてみる。理解するのに時間は掛かったけれど確かに『タラちゃん』の言った通り、ドリームインパクトを有馬記念というレースで負かしているようだった。『ゴーアウェイ』についても同様。それにしても馬の名前を見ていると横文字が多いなと思う。『アオゾラ』みたいに覚えやすい馬ならいいのに、と思ったけれど何か理由があるのかも知れない。ところで勇次は、


「確かにドリームインパクトは結構好きだけど、名前的にはクライイングハートの方が騎士みたいで格好いいなぁ」


とちょっとよく分からない発言をしていた。どのあたりが「騎士」なのだろうと思ったので訊いてみた。


「いや、ただ何となくだ」


その言葉に私は何と答えれば良かったのだろう。何となく沈黙してしまった。


「と、とにかくクライイングハート産駒を応援するのはお勧めですね!成長力があるのもこの馬の特徴で、ある時突然覚醒するんですよ!」


「へぇ~!!覚醒か!格好良いな!ド〇ゴンボールのスーパーサイ〇人みたいなもんか?」


微妙に古い譬えだけれど、そういえば最近勇次がドラ〇ンボールの続編が放送になったのを聞いてやたら喜んでいた気がする。その辺りは「男の子」なんだぁと思ったりもしたけれど、『タラちゃん』の方が年代的にしっくりこないのか少し首を捻っていた。



さてその翌日。私達は5レースの新馬戦1800メートルのレースを見るために12時には競馬場に入場していた。土曜日という事もあり、いつもより人は少ない。30分もするとがやがやし始めて、ドリームインパクトの子供で『一億円』の馬、『インパクト』のデビュー戦が始まる。



『インパクト』はスタートで出遅れた。すると何人かのお客さんからやや大きめの「ああ」という声が上がった。スタートで出遅れる事はかなり不利なように思えるのだけれど、『タラちゃん』は何故か「おおっ」と呟いていた。最後方のままレースが進んで、最後のコーナーに入った時に外側から勢いよく前に出てきた。そして何と直線では全頭をごぼう抜きして先頭に立って、後ろに2メートル位差をつけて勝ってしまった。私はこういう馬もいるんだなと感心していた。


このレースで勇次は『インパクト』の単勝を勝っていて倍率は1.5倍だったので「ちょっと増えた」と満足そうだった。対して人気のない馬を狙っていたらしい『タラちゃん』はしっかり外しているのだけれど何故かこちらも満足そう。


「ドリームインパクト産駒でああいう競馬をされた時には諦めもつきますね。強いのかなぁ~?うーん…」


後日『インパクト』の掲示板を見ると案の定というのか、「ドリームインパクトの再来だ!」とか「来年のダービーは決まり!」とか少しばかり威勢のいい言葉ばかりが並んでいるのが見受けられた。


それに対して誰も聞いていたわけではないけれど一言、


「気が早いよね…」


とツッコんでいた私。
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