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淡く脆い ②

焦れるような日々は二週間ほど続いた。今思うとそれがピークの暑さだったのかも知れない。夏の定番ソングが流れるラジオを聴きながら多分来年も同じような生活をしているんだろうなと思って少し憂鬱な反面、悪くないなと思っている自分がいた。結局友人とはあれからまた会って話すと、あの日友人も個人的な事、というのか控えている仕事で責任ある立場になってしまった為、気も漫ろになっていたのだという事が分った。悪気があったのではないが、確かに雑な対応だったと反省していた。そうなるとこちらも全体的に表面的な事でかっかしてしまった事を反省するべきだろう。その日も35度近くまで上がった日だが、夕方ごろ一緒にビールを飲んで夏の夕べを楽しんだ。



後の一週間が盆の時期だったので田舎に帰省すると、そちらに居る旧友とも再会できて気分が良かった。田舎もかなり暑い場所で、昼間に外に出るのは躊躇われたので夕方以降に飲み屋で会うというかたちにはなったけれど、お互いに変わらないなと思う部分を確かめつつ変わったり変わってしまった事を報告し合い、ちょっと愚痴をこぼし合ったりしながら夜は更けていった。やはり世間的にはまだ若いと言われる年代だが、数名揃うとおっさんの要素が強調されるような気がする。一緒に飲んだ一人はそろそろ身を固めたいと言っていたし、漠然と将来の事が具体的に思い描ける頃なのかも知れない。



その一方で自分はまだ中途半端なような気がしてしまう。いい歳になっても浮ついた話もないし、精々職場で一緒に飲んで楽しいと思う人が居るくらいである。年上で婚期がどうのこうのと言っているような人だが、そんなに焦った様子はなく基本的に豪気な人である。そもそも『恋』のような感覚さえあまり分っていない気がする。異性で良いなと思う人が即、恋なのかというと違う気がする。専ら一緒に居て心地よい人と時間を過ごせればそれで満足してしまう部分がある。



帰省中は柄にもなくそんな事をよく考えていた。実家の両親は「恋愛などについては自由にやったらいい」と昔から言っているけれど、自由だからこそ自分が本当に好きになったと分るまでは決断に困るというのか、一緒に行動する事の多い友人も仕事優先の人だからその感覚に合わせているとこのままでも良いと思う事も多い。



田舎から戻って来ると温度の違いに驚いた。どうやら田舎で過ごしている間に季節は秋に向かって着々と進んでいたらしい。移り変わりというのは僅かに感じることだが、涼しさを感じ始めればもう移り変わっている事は実感できる。秋という言葉がチラついてくる。やはりその前にやり残した事を何かしておきたいと思った。



そしてその日、またいつもとは違う時間が訪れた。



週末。普段なら友人と過ごす事が多いけれどこの土日は一人で計画を立てて行動してみる事にした。あまり降りない駅で下車して知らない通りを歩いてみる。しようと思っていたのは開拓である。もちろん開墾する事ではなく、馴染みのない場所で新たな発見をするのが目的である。異国情緒とまではゆかないけれど、知っていそうなのに知らない通りを歩くと刺激になる。一応その辺りにある名所や店をネットで検索してみて、一通り見てくれば形式的にも悪くはない。行くにあたってどの駅で降りるかが重要だが、候補は3つほどあった。普段友人と待ち合わせる場所の付近の駅から一つ向こうに行った駅。そちらから自宅に戻る方向をいつもより一つ乗り過ごして至る駅。最後は自分が降りる一つ前の駅である。



初日は一つ向こうの駅で降りてみた。かなり賑やかな所で午前中から人も集まっている。この日ある音楽ショップでアーティストの即販と握手会があるらしく、これも何かの縁だと思って時間を合わせて参加してみる事にした。あまり知らないけれど名前と顔は一致している女性のアーティストで、最初は遠くから見るだけの予定だったのが思いの外実物は綺麗な人だったので握手目的で結局CDを購入してしまった。音楽はそれなりに好きだけど最近聴かなくなっているし丁度良いと思った。その日は、その周辺を歩いているうちに疲れてしまって、早めに帰宅した。



次の日は一つ乗り過ごす駅に最初に向かった。実はそこまでは歩いても行ける距離で、実際に乗り過ごしてしまった時に気紛れでそこから歩いて帰ったりしていたのだが、駅周辺には特に何もない印象だったのであまりその辺りをよく見ていなかった。事前に調べていたのは古本屋があるという事。もともと本は読む方なので、何か掘り出し物が無いかと思って店内を見て回ったが、ハードカバーの専門書などが置いてある所で背表紙の字を読んでいるだけで頭がくらくらしてきた。小説のようなものはあまり置いていないようである。



この駅周辺に持った印象は正しかったらしく、ぐるりと回ってみたが特に目ぼしいものは無かった。というか夜の飲み屋さんが多いので午前中に来てもあまり面白くはないかも知れない。というわけで最後に友人と会う駅の一つ前の駅に移動する。降りる時になって、そう言えばあの女優志望だと言っていた女性が降りたのもこの駅だったよなと思いだした。


その駅周辺は何故かどの駅とも違う印象だった。雰囲気や情緒がどこか懐かしい感じがするのである。確かに古ぼけた時計や塗装が剥がれたガードレールなどが目につくし、全体的に古いものがそのまま残っているのは確かだが、それでも妙に静かでここだけ既に秋が訪れているようなそんな錯覚さえ覚えてしまう。道が開けているというのも理由の一つなのかも知れない。細いながらも遠くまで一直線に続いている通り、そこに直角に交わる通りそういうものが空間を演出していて、駅の正面を見渡すと商店街のアーケードが見える。


一瞬、何処に向かって歩き出していいのか分らなくなった。



そこで事前に調べたメモを確認すると、線路に沿うように歩いてゆくと川と橋があるらしい。その向こうに美味しい和菓子屋さんがあるそうで、とりあえず腹も空いてきた頃だしそこに向かってみようと思った。橋にはすぐに辿り着いた。川も橋もそんなに大きくはないけれど、空間が広がっていて空が見渡せる。「いい天気だな」と思った時、橋の真ん中で同じように空を見上げながら、


「いい天気だなぁ」


と言っている女性が居た。奇遇だなと思って少し様子を見ていると、何となく変な感じがした。ボーイッシュな出で立ちでつばのある帽子を被っている女性だが、既視感があったのである。そのまま見とれるような格好になって立ち尽くしていると相手もこちらに気付いたのか、帽子を下げ、俯くようにしてこちらに近づいてきた。勇み足だったが、自分の立っている場所に来た時に彼女に異変があった。一瞬こちらを横目で見た時に目が合ったのだが、その時彼女は「あっ」と口に出して言った。


「あなた!あの時の人…」


「あの時」とはいつの事だかよく分からなかったのだが、こちらを向いて立ち止まった女性の顔を見ていると出で立ちこそ違うけれど確かに最近見た顔だという事が分った。突然「はっ」として言った。


「あ、女優志望の人ですか!?」


そう、彼女こそ電車で話を聞いた女性だったのである。彼女は静かに頷こうとしたのだが少し苦笑いになって、


「それはこの前まで…かな…」


と言葉を濁した。そして思い出したかのように、


「あ…この間のハンカチなんだけど、今日持ってきてないの」


というこちらも忘れかけていた事を言った。


「あ、いや大丈夫ですよ。それにしても偶然…というかまあこの駅で降りれば何処かで会う可能性もあるけど、それにしてもよくここで会えましたね」


「うん。ほんとほんと。あの時は本当にどうもありがとう」


何となくだがこの前会った時とは雰囲気が違うような気がする。折角なので、


「そういえばこの橋の先に和菓子屋さんがあるそうなので、何か食べませんか?」


と誘ってみる。我ながらごく自然に誘えたと思った。すると彼女は驚いた表情になって、


「え、マジ?私あそこの餡みつ大好きで、結構行くんですよ。じゃあ行きますか!」


というわけで二人で和菓子屋に向かった。
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