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淡く脆い ③

「ここに来たら定番の餡みつよ。これは絶対おすすめ」

「そう。だったら俺もそれを」


本格的な甘味処だということが分るような作務衣に白い頭巾を被った出で立ちの店員が頼んだ品を繰り返す。シンプルに「あんみつ」と書かれている品を食すためにわざわざ遠くから足を運んでいるファンも多いという噂だが、それほど甘いものを食べない者にとっては「甘過ぎない」という要素が重要だと思う。念のため彼女に訊いてみる。


「やっぱり甘いのかな?」


「うんとね…みかんの酸味とマッチするくらいの甘さかな」


そこまで甘くはなさそうである。和菓子屋兼、甘味処のその店は橋のすぐ向こうに在り、周りにあまり建物がないのでかなり目立っていた。女性は店に近付くにつれ僅かに小走りになるような感じになった。店内の雰囲気は何となく明治大正とかその辺りを意識した造りになっている。仕切られた座席に座ると温かくてフレンドリーな声が特徴的な女性の店員が接客してくれて、初めての場所だがすっかりリラックスしてしまった。食べもの注文が終わると女性と何を話したものか迷ったがとりあえず、


「そういえば名前伺ってなかったですね。僕は片霧と言います」


という風に自己紹介してみた。彼女は「片霧さんね…」と確かめるようにして、


「わたしは、芳井里奈と言います」


と答えた。こちらも「芳井さんね」と確認する。何となく照れくさくて表情が緩んだのを見たのか芳井さんは目を細めて破顔する。ボーイッシュな格好をしているけれど、笑うと可愛らしい女性である。失礼かも知れないと思いつつも気になったので、


「普段はそういう格好なの?」


と訊いてみる。彼女は服の中心辺りを指さして「これ?」と言ってから、


「うん。この方が楽といえば楽かな」


と続けた。すると今度は芳井さんの方から、


「片霧さんは何してる人なんですか?」


という質問が来た。


「サラリーマンですよ。デスクワークがメインの」


「そうなんですか。何だろう、ちょっと不思議です」


「どうして?」


「バイト先の先輩と似てるんですよ。多分そのせいかも。歳は幾つなんですか?わたしは今22です」


「俺は25だよ。そうか、若いんだね」


特に深く考えず思ったまま「若いんだね」と言ったのだが彼女は少し気になったらしく、


「そうですか?自分はもうあんまり若くないなって思ったりするんですけど」


と少し困ったような表情で言った。ちょっとだけ分るような気もする。年上の人から「25でも若い」と評価されても自分としてはもう昔の様な若々しさが無いと思ったりするのだ。なので、


「そうかもね」


と軽い調子で言ってみた。そう言うと芳井さんは何を言うでもないけれど、少し無言でこちらを見つめていた。不躾という感じではないので、「何だろうな?」と思いながら見守っていた。すると彼女はゆっくりとこんな風に語りはじめた。


「わたし、コンビニのバイトやりながら女優を目指して一応養成所みたいな専門学校は出てるんですけど、友達は大体会社勤めになって、最近一緒に遊ぶ事って無くなってるんです。まあ遊ぶ方は良いんですけど時々励ましてもらったり、「夢を諦めないで」とか応援してくれているので…。何というか『諦めた』とはなかなか言えなくて、連絡も取りにくくなってて。いまちょっと寂しいんですよね…」


どこか弱々しげに笑いながら悩みを話す芳井さんは素直に話してくれていると感じた。それに対して自分はどう答えるべきだろう。少し迷いながら、「あの…」と言いかけたところでゆったりと餡みつが運ばれてくるのが分った。


「まず食べてみましょう!」


少しわざとらしく元気にテーブルに置かれた餡みつを勧める。彼女は頷いた。しっかりとしたガラスの器に涼しげに盛り付けてあるフルーツやクリーム、寒天、餡などが調和していて美しい。黒い陶器のスプーンで口に運ぶと予想していたのよりも爽やかな味わいが口に広がった。


「うわ!これうめぇな!」


「うん!やっぱりここのは最高です!」


二人でテンションが上がっていた。特にみかんの酸味が餡の味と上手くバランスしているのが意外だった。喩えるなら酢豚に入っているパイナップルのように場合によってはミスマッチになってしまいそうなのを、これはきちんと具材の意味が感じられて新たな発見をしたような気分だった。


「確かに甘過ぎないし、これなら食べ飽きないね」



そう言うと芳井さんは再び目を細めて笑った。その表情を見ていると、何か気の利いたことを言ってみたくなる。



「さっきの話だけどさ、もしこういうので良ければ俺付き合ってもいいよ」


言ってから少し曖昧な言い方になってしまった事に気付いた。


「え…?付き合うって?」


案の定、少し誤解をさせてしまいそうな気配である。慌てて、


「あ、もし何か話したい事があるんだったらこうやって食事とかしながらでもさ、悩み聞くよって話」


と付け加える。少し余裕を持たせるように言ったのだが、アドバイスできるのかは自分でもよく分かっていない。だがその言葉で彼女の表情がぱあっと明るくなった。


「良いんですか?わたし最近すごくネガティブで、それこそさっき橋に居た時みたいに黄昏ちゃうこと多いんですけど嫌じゃないですか?」


「嫌ではないよ。なんとなくね、放っておけないんだ。っていうか俺ちょっとお節介なところがあってさ、それでも良ければ」


「ううん。全然そんなことないですよ。お願いしたいです。その…」


「どうしたの?」


「いえ『立ち直れるまで』って言おうとしたんですけど、何となくそれも違うなって思って」


芳井さんはどこか恥ずかしそうな様子で餡みつを食べている。


「そうか」


とだけ言ったのだが、こちらに気を使ってくれたのかなと思った。確かに『立ち直れるまで』だったら都合が良過ぎるといえるのだろう。自分としてももう少し芳井さんから色んな話が聞いてみたいなと思っているので、こういう提案をしてみた。


「じゃあ、「友達」になりませんか?」


「友達…?」


芳井さんは意外そうな顔をしている。でも、声は明るい。


「実はこう見えて…っていうか見たまんまかも知れないけど、女性の知り合いが少なくって」


「へぇ~そうなんですか…。なんか先輩と同じだな…」


「最近はそういう人多いんじゃないかな?俺の友達も大体は同僚と学生時代の同級生とかだって言ってるよ」


「そうですよね。それにして、ああ、美味しかった!!」


見ると彼女は餡みつを完食していた。かくいう自分も最後の一口を運んでいるところだった。
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