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淡く脆い ⑤

公園から再び歩き出す。道中お互いに好きなものが何なのかを探り合うような会話をしつつ、街並みを眺める。風が心地よくのどかな日だという事もあるけれど、とても過ごし易そうな場所だと思った。それほどごちゃごちゃしていないけれど家々は連なっていて、ベッドタウンに近いのかも知れない。


「次に向かうのは、そこ目当てでここに住んでいるというのもあるんですが、シネマです」


「あ、映画館ね」


「結構建物は古めで、でもそれがいいっていうか」


「DVDとか借りて観るようになってから館自体には行かなくなってるなぁ」


彼女は「あー」と頷きつつも、


「全部がDVDになっているわけではないし、巻き戻せないから集中して見るのがかえって良かったり」


と自論を述べた。確かにそうだなと思った。ところで映画の話は少し前にもあったのだか、少しだけ気になっていた事があった。言うべきかどうなのかは分からないけれど、「友人」として訊いた方が良いのかも知れない。


「あのさ、映画って言うのは演技の勉強の意味もある…あったんでしょ?だから…」


途絶えがちに言ったので、言わんとする事が何となく伝わったようで相槌も「うん…」と少しトーンが下がっているのが分った。


「今も映画を見ることは無意味ではないですけど。うーん、ほんと微妙」


そうしてかすれる様な微笑みを向けられる。その表情が無理をしたものだと分っているからこそ、ここで何かを言ってあげなくちゃいけないと思う。


「あのね…」


言おうと思うのだが、その先が出てこない。二人で歩き続けているが、芳井さんはこちらを見てじっと待っている。思わずその目をじっと見つめてしまう。


「あっと…!!」


そちらばかり見続けていたのでつい足元が疎かになって段差で躓いてしまった。


「あっ、大丈夫ですか?」


「うん。大丈夫。ごめんね」


「そんな事ないです!ほんとうに」


見た感じ少し元気が出たように思える。ちょっとした事でも何かのきっかけになれば良いなと思うのだが、彼女には少なくとも何かを言ってあげようとした事は伝わっているのではないだろうか。そう信じたい。まるでそれを肯定するかのように、


「片霧さんって、嘘がつけないんですね」


と自分の本質的な部分に気付いた芳井さん。


「つけないね。だって怖いもん」


「ほ~んと、どうしてこんな時にあなたみたいな人に会えたんだろう。諦めようと思っている時に…」


それは悲しいというよりは困っているような口調だった。


「多分さ、『演技』っていう事がよく分かっているからだと思うけど俺の事もしっかり見てるよね。参考になるもの?」


すると彼女は嬉しそうに言った。


「ええ、とっても!でもそれだけじゃないですよ」


「それだけじゃない?それって良い事なの?」


「あたしにとっては『イイ』こと。あなたにとっては…どうなのかな?イイことであってほしい」


「勘だけど良い事のような気がする。どうなのかな」


「そんな事言っているうちに見えてきましたよ!あそこです」


彼女が指さした方向には周囲と完全に同化して一見すると映画館だという事さえ分らないような白い建物だった。かえって自分の田舎にある映画館の方が大きい会社の系列なので立派かも知れない。でも、かえって構えないで入れる映画館かも知れない。


「あ~、今日やっているのはいまいちかも…」


建物の前の看板に貼ってあるポスターを一通り眺めてから言う芳井さん。だが言葉に反するようだが、最近朝のニュースで興行収入の記録を打ち立てたと聞いたアクションものの洋画があって、いまいちというのは明らかに通の言葉であろう。


「やっぱりこういうのはあんまり見ないの?」


「そういうのってドラマ性ないですよね。表情とかも分り易いし。どちらかというとサスペンス物の方が見ていて面白いです」


「折角だから何か見て行こうかなとも思ったけど、お勧めが無いんじゃなぁ…」


これはあまり考えずに言ってしまった事だけれどよく考えてみると彼女に、


「じゃあ、今度良いのあったら一緒に観ましょうよ!!」


と言わせてしまうような言葉だったかも知れない。そのまま受け取っていいものなのか悩むところだがあまり複雑に考えずに、


「そうだね。じゃあ今度」


という風に言ってしまう。こういう展開も悪くはないなと思う。結果的に映画館は素通りになったのだが、そうすると芳井さんは少し悩み始めた。


「えっと…ここらへんだと基本的にはあと駅から真っ直ぐ行った商店街ぐらいで、まあ喫茶店とかもあるんですが、案内したい所ってこんなもんだよ…?」


「ああ、そっかぁ」


「あ、あるのはあるけど…でもちょっと…さすがに…」


恐らく紹介しにくい場所があるのだろう。色々約束してしまった以上これからもここに来ることはあるだろうし、何も今日で全部を見回る必要もないと気付いて彼女にそんなニュアンスの事を伝える。すると、


「じゃあ、今日は私も家に戻ります。そういえば片霧さんは何処に住んでるんですか?」


と訊ねられた。


「一駅先だよ。下りで」


「なんだ、隣なんですか。じゃあいつでも来れますね」


「いつでもは流石に…」


一応指摘すると、


「ええ、言ってみただけです」


という答えが返ってきた。いかにも『ニヤニヤ』という顔つきでさっきのは悪戯だったのだのだと言外に語っている。流石に表情豊かだ。こちらもそのままでは癪なので、


「時々来るよ!」


と営業の人からの直伝のスマイルを披露しながら言った。


「うわぁ…わざとっぽい…」


若干引き気味なのは本心なのかそれとも演技なのか、判断にこまるような表情だった。
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