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淡く脆い ⑧

あまりシリアスな話ばかりになるのも良くないと思い、なるべくさきほど見た映画の話をしてみる。「映画は良いね」と素直な感想を言うと嬉しそうに微笑んでくれた。

「DVDとかでは見てるような言い方でしたけど、最近見た映画は?」

この質問には、

「伊坂さんの作品は独特で好きだよ。原作も一通り読んだし」


「ああ、いいですよねぇ、伊坂さんの。確か舞台が『仙台』なんですよね」


「うん。だからちょっと親近感あるんだよね」


「親近感ですか?『仙台』に住んでたとか?」


「まあ似たようなものだね。もともと東北地方っていうのは仙台が代表っていう感じだから、大きなイベントで行く事が多かったよ」


「『仙台』といえば甲子園で惜しかったですよね」


「あ、甲子園とか好きなの?俺はあんまり野球知らないんだけど」


「わたし中学生の頃、ソフトボール部でそこそこ知ってるんですよ」


「へぇ~意外だね」


「高校の時にソフトボール部が無かったので、何に入ろうかなと思ったら演劇部が面白そうだなぁと思って。そしたら部で一番熱心になっちゃって」


話は脱線していったのだが芳井さんの過去がだんだん分ってきた。前会ったときにボーイッシュな格好をしていたのも本来はスポーツを好む活発な女性だという事なのだろうと漠然と了解した。ここから同じ話になる事を気にしたつもりではないけれど自分の事ももう少し紹介したいと思ったので、


「俺、中学校の頃は科学部で今思うとよく分からない実験をしてて、高校のときは帰宅部。不真面目だなぁ…」


とカミングアウト。厳密には爽やかな青春に憧れてバドミントン部に入部したものの3週間で挫折したという過去があった。だがそれは最早入部したという経験にすらならなそうなので帰宅部と紹介して正しい。


「片霧さんって、学生時代の友達とかって今でも連絡取りますか?」


「ああ、少ないけど居なくはないよ。中学時代と高校時代の人。高校時代の友達は結構近くに住んでる」


「いいですね!わたしが連絡を取ってるのも高校時代に出会った人たちで、ちょっと連絡できなかったけど、この前勇気を出してメールしてみたんです」


これは良い話題だった。確か諦めるという事を伝えられなかったという話だったが、仲の良い友人と話が出来ないというのは結構辛いことだと思う。


「それは良かった…のかな。どうだった?」


すると彼女はとても言い難そうに、


「それが、友達の一人はメールだけじゃわからないから直接会って話をしようって。それが明日なんです。他の子は残念そうでしたけどそういう話にはならなかったですね」


「え、そうだったんだ…じゃあ、明日ファイトだね」


「実は、その人が一番応援してくれてたんです。高校時代の演技を見て「感動した」って言ってくれた人で」


「何となくだけど想像できた。でもきちんと話せば芳井さんの気持ちは分かってくれると思うよ」


「そうですよね。ところで、次どこいく流れですか?何となくこっちまで来ちゃいましたけど…」


芳井さんが指摘するように、既に和菓子屋兼、甘味処の近くまでやって来ていた。


「今日も食べてく?」


「う~ん…次回ですかね…今日は夜も食べに行くんで」


「そうする?じゃあ、とりあえず駅から2駅移動して、うん、あの付近でちょっと歩きながら」


「分りました」


実際、そこで何をするかはまだはっきり決めていなかった。漠然と一緒に入って楽しいお店などがあればそこに行こうと思っていたのだが、夕食の7時まではまだかなりの時間がある。2駅移動して、相変わらず賑わっている駅前でブラブラと歩きはじめる。


「ここは結構来るんだけど、っていうか遊ぶときはいつもここなんだけど」


「私もそうですよ。やっぱりこの辺りが一番色々ありますし」


「普段どういう所とか行くの?」


「普通かも知れないですけど洋服とか見たり…ですかね」


「恥ずかしながら、女の子と出掛けたりしたことないから分んない事が多くて…」


「え…?」


するとこの発言に芳井さんは明らかに動揺し始めた。


「そ…そうなんですか?わたしてっきり慣れてるのかなって思って…なんかごめんなさい」


何故か謝られてしまったが、もしかすると相当恥ずかしい発言だったのかも知れないと思い始めた。


「やっぱり変だよね。この歳にもなって…」


「いいえ、今はそういう人も多いって聞きますし。でもそういう事ならわたしも男の人とは、仕事以外だと初めてですよ」


「そうなんだ。え…?誰かと付き合った事とかないの?」


驚いて少し大きな声で訊いてしまった。すると、


「しー!!声が大きいですよ!!」


と周りに聞かれるのが恥ずかしそうな様子の芳井さん。これはどうやらこちらと同じようなものだと分った。


「なんか、こういう事を訊くのも変かも知れないんだけど、恋愛の経験とか無くて演技とかって大丈夫なの?」


「そ…」


不用意にかなり痛いところをついてしまったらしい。芳井さんは絶句気味で、


「想像力はありますからね…」


と辛うじて言えていた。ただその後ちょっと非難するような口調で言われてしまった。


「片霧さんって正直なのは分るんですけど、容赦ないですよね…」


否定しようがない。「う…」と返事につまる。こちらもこの言葉に同じようにダメージを受けていた。


「ごめんね…」


「じゃあ、あれ奢ってください!」


と言って彼女が指さすのは有名なアイスクリームのチェーン店だった。暑くはないけれど相変わらずお客の入りは良いようで芳井さんに「ダブル」を奢って美味しそうに食べている様子を見て我慢できなくなり、結局自分も「シングル」のチョコミントを注文した。


「チョコミントにすれば良かったかな…」


チョコとオレンジというミスマッチにも思える組み合わせで注文していた芳井さんの視線を受けながら食べる緑色のアイスは相変わらず美味しかった。
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