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掌のワインディングロード ⑦

10月になってそろそろ府中が開催となるのだが、気温の方も下がってきたのもあり早々に体調を崩してしまった。体力には自信がある方だが、流石に連勤で睡眠時間を削り過ぎていたのかも知れない。当然だがバイトは休ませてもらった。ダウンしているとはいえ殆どの事は自力で出来るのだが、ちょっとした看病をしてくれる細井さんと大井さん。二人に、


「あんまり無理をすると元も子もないよ」


と言われて僕としても同意したい反面、生活費を稼ぐためにはどうあったってどこかで頑張らなければならない世の中だ。自分には大した技能もないし、学だって大学中退では中途半端過ぎる。中退以後は当然のことながら仕送りも無く自力で生活するしかないのだが、いっその事普通に就職を目指すのもいいのかも知れない。けれど昼夜逆転に近い生活をしていると、午前中にハロワに行こうという気力がなかなか出ないのも事実。けれど細井さんも就職の事では色々経験しているらしく、


「ずるずる行ってしまうなら何処かできっぱり辞めるのも手だよ」


とアドバイスしてくれる。ただバイトの方も急に辞めるというわけにもいかないのでとりあえず今年一杯は今のバイトを続けると決めた。そう伝えると二人はお互いに顔を見合わせて「仕方ない」というようなちょっと困った表情になった。赤の他人というには彼等とあまりに親密になってしまっているので、当然心配をかけているんだろうなと思う。本当にちょっとした踏ん切りの問題なのだ。



ところでその週の競馬は中山最終週だったのだが流石に競馬場に行くのは憚られ、午後からBSで観戦していた。競馬専門のグリーンチャンネルに将来的には加入したいのだがBSもなかなか頑張ってくれていて、夏の開催は専らテレビとネットを駆使しながら見ていたのであまり不満が無いのも確かだった。日曜は中山でオールカマー、阪神で神戸新聞杯というGⅡがあった。休んでいた間、スマホで出走馬を確認したり掲示板を見たりしていたので今回のレースの見どころは良く分かっていた。実際日曜にはすっかり身体も回復していて、よく眠ったお陰かいつもより冴えていたような気がする。


「今日のオールカマー?っていうレースはなんか凄そうだね。メンバーが」


細井さんが競馬新聞を見ながら訊ねてくる。


「ええ。今年は揃いましたよ。例年はGⅠには手が届かない馬とかになっちゃうこともあるんですが、今年に限って言えば宝塚記念馬と去年のダービー馬が出ますからね、ハイレベルと言っていいと思います」


「そもそも、GⅢとGⅡって何が違うの?」


大井さんの質問は基本的かも知れないが、割と感覚的に捉えている場合があるので事実を伝える。


「賞金ですね。GⅡは5、6千万くらいだし、GⅢは3千万円くらいだと思っていれば大体の場合はOKです。ただし2歳馬だと賞金が全体的に低くて、GⅠでも古馬のGⅡくらいになってしまうと思います」


「え、2歳が少ないのってなんで?」


これは実は難しい質問である。そう決まっているからといえばそれまでだが、自分なりにはこう思っている。


「多分レベルの問題だと思います。2歳だと500万下を勝てばオープンだし、出走馬も500万下条件の馬とかが格上挑戦してくることも多いですし」


「なるほど。やっぱり格の問題なのね」


ここは想像で話しているのでできれば大井さんも自分で調べた方が良いと思う。けれど競馬歴が浅い段階で情報量がとんでもないサイトを検索するのも酷だし、やはりそろそろ初心者むけの解説書があると良いなと思った。そんな事を考えているうちに、いよいよ神戸新聞杯の時間になった。


「ここはクラシックに繋がるんでしょ?なんかそういう見出しのニュースがあったような気がする」


「おお、詳しいですね。そうですよここで3着以内だと、クラシック最終レースの菊花賞に出走できる権利を得られるんです」


なんだかテンプレートで競馬ゲームの秘書の説明みたくなってしまったけれど、それは紛れもない事実である。


「3着か。でも3着までってそんなに意味があるの?」


「実はあるんですよ。稼いだ賞金が少ない馬でもこのレースには出れるけれどGⅠに出走するには足りない馬でも3着になれば優先的に必ず出走できますからね」


「あ、そっか。でもそういうパターンで本番で来た馬っているの?」


「それもよくあるんですよ。去年3着のトウシンジャッカルも本番で見事に勝ちました。今度『あがりうま』って検索してみて下さい。面白い例が一杯分りますよ」


「なるほど。じゃあ注目だな」


まさにそう言った瞬間にレースが始まった。ゲートで2頭が出遅れたものの、他はスムーズ。逃げる馬が一頭いたのでコーナー入口で早くも隊列が決まる。逃げている馬は格上挑戦の馬なので、もしかすると一発を狙っているのかも知れない。大逃げにはならず、隊列も段々短くなる。15頭立てだが、こうなると前の馬に有利だなと思った。


前半の1000を1分1秒という馬場を考えると少し遅いタイムで通過。後続で早くも押し上げてきた馬が一頭いた。2番人気のクライイングハート産駒ブレイクリミット。一番人気のドリームインパクト産駒デイバイデイが番手で絶好の展開。コーナーになって、デイバイデイが外から先頭に並びかけた。


そして直線デイバイデイが弾ける。早くも決まったかと思ったら、外からブレイクリミットが鋭い脚で伸びてくる。半馬身ほど詰め寄ったところがゴール。人気通りに収まったと思いきや、3着に逃げ馬が残り、3連単はなかなかの高配当になった。


「ああ、ああいうパターンもあるのね…」


大井さんは逃げ馬に注目していたようである。3着なので本番も出走できる。


「3着だから本番逃げるとこういう馬は面白いですよ!」


そして大分予想していたオールカマー。宝塚記念馬「ラッキー」とダービー馬「オンリーワン」は実はどちらも買い難い。どちらかといえばラッキーの方だけれど、オンリーワンの実力が未だに良く分からない。その2頭よりは7番人気のシンクエリス産駒のマイヒメという牝馬が何となく走りそうな気がした。けれどこれは殆ど勘のようなもので、根拠はないに等しい。いつものように気になる馬を細井さんに訊ねられてマイヒメと答えたのだが、


「う~ん…ここは素直にラッキーでいいんじゃないのかな」


と困惑していた。


「まあ見てみましょう」


大井さんは早くも画面に集中している。



レースは終始ラッキーを中心に動いていた。オンリーワンは直線で良い伸びを見せたが3着まで、ラッキーが先行して脱け出した時の安定感は半端なかった。そしてマイヒメだが、中山ながら最後の最後で大外から一気に伸びてきて4着。勢い的にはもう少し長ければ…と願いたくなるような伸び方だった。


「ほんとタラちゃんって良い馬見極めるよね。こんな馬が来るとは思えないもん」


「まあ、偶然ですよ。4着だから実際馬券圏外ですし」


「でもその偶然は、もしかしたらタラちゃんの見る目なのかもよ」


大井さんの言葉で何となくそんな風にも思えるのだが、いちばん困るのはこの勘みたいなものが性質上何故そうなのかが上手く説明できない事である。理屈じゃないものを信用できるかどうか、それはとても難しいような気もする。
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