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淡く脆い ⑨

駅周辺を歩きながら目に留まった処に立ち寄ってみるという行動になってしまったのだが、友人と歩いている時には存在に気付かなかった店や物がこの時は妙に視界に入ってきて、多分芳井さんが気に入りそうなものを探していたからだろうなと思った。芳井さんの方も、


「なんかこの辺、いつもと違って見えますね」


と同じような事を感じていたものと思われる。男物と女物のそれぞれの洋服を見たり、ちょっとした雑貨やグッズの置いてある店を隈なく探してみて、微妙に前から欲しいと思っていた有名なビーグル犬のキャラクターのキーホルダーがあったので買おうと手に取ったら、


「片霧さんそういうの好きなんですね。意外…」


と言われてしまって自分では普通だと思っていたのでこちらも意外だった。思わず、


「え、男でも結構好きなんじゃないの?」


と言ってしまったのだが、


「どうですかね?知り合いの女の子でグッズ集めている人いますよ。柔らかい感じがしますしね」


「そうか。むかしアニメを見た時に大人向けのジョークが多かったのが印象的でそれ以来集めてるんだけどね」


「なんでしたっけ。ナッツじゃなくて…」


「惜しい!ピーナッツだよ」


「わたしも買おうかなぁ…お揃いで」


「お揃いで」と付け加えた時の表情はまるでこちらの反応を窺うようなものだった。気のせいでなければ意識されているような気がする。


「いいと思うよ。じゃあ俺が出すよ」


「いいえ…そんなつもりではなくって。記念に欲しかったので…」


「う~ん。こういう時って微妙だよね。面倒くさいから出しちゃうよ。別な時に何か出してね」


「あ、はい」


同じものを2つ会計に持ってゆくと、上品な女性の店員が眩いばかりの笑顔で接客してくれたのでちょっとドキドキした。考えてみると女性向けの雑貨店なので雰囲気が違うのだろう。


「はい。どうぞ」


忘れると困るので早速渡した。


「ありがとうございます。じゃあケータイに付けときます」


「ああ、そうする?俺は保存かな」


「え…?使わないんですか?」


ここでも自分にとって普通の発想だったので、困惑されると戸惑ってしまう。もっとも、『お揃い』というワードが出てきたのだからどうしたほうがいいのかは若干気付いていたけれど。


「俺も使うべきなのかな?空気を読んで?」


「…空気読めるのに、気にしないのってイジワルですよ!」


「イジワルなんじゃなくって、照れくさいって感じかな」


素直に言うと芳井さんはちょっと「ふぅ~」と溜息をついて、


「片霧さんと居ると、色々勉強になります」


と良い意味で取っていいのか判断に困る言葉が返ってきた。その後、時間もまだそこそこあったので少し自分の趣味の方向に走って電化製品の店に立ち寄る事にした。芳井さんは、


「あたし、最近こういうところ来てないや。去年パソコン買って以来だなぁ…」


と呟いていたが、電化製品を見るだけでテンションが少し上がってしまう者としては何となく人生を損しているように思えてしまう。


「家電は凄いよ。進化が半端ないから。しかも品質が上がってるのに安くなるのが凄いよね」


少しばかり熱を込めて言ったので彼女が引き気味なのが分った。けれど、良さというものは実感すれば疑いようがないからむしろ引き込んでやろうという気持ちになる。


「これとかだよ」


最初にお馴染み吸引力抜群の掃除機の前でそれがいかに凄いかを熱弁する。といっても素人に毛が生えたくらいの詳しさなので、どこかしら抽象的な言葉ばかりが並んでしまう。芳井さんは躊躇いがちに、


「その…とにかく吸い込む力が凄いんですね。でも思うんですけど、小さいアパートとかでそんなに使わない場合とかは」


と指摘する。確かに、床の面積が小さい場合にもこういう強力な機器が必要になるかというと微妙なところである。というか正直不要である。


「確かにそうだね。で、でもこっちは凄いよ。米でパンが出来る!」


気を取り直してたまたま目に留まったものを紹介しただけだったのだが、こちらの方はわりと反応が良かった。


「え…?米からパンって出来るんですか?」


「米粉とかって知ってる?ほとんど小麦になるよ」


「ああ、米粉ならちょっとブームになりましたよね。そうなのか…時代に取り残されている気分ですね」


「まあ俺は持ってないんだけどね…」


「価格もお手頃ですね。パン派には必須かも知れないですね。わたし米派ですけど。でも友達にパンしか食べないって子もいるから、教えてあげようかな」


こんな感じで一通り見回って知識を披露できたので満足していると、


「片霧さんが家電なら、わたしはちょっと恥ずかしいですけどサブカルチャーの知識を…」


と有名な青いアニメショップに案内された。


「これです。実写化された作品の原作も気になって見てみたら、ハマっちゃって…」


それは単行本のコミックだった。確かにこのタイトルの映画が俳優の関係で有名になっていたような気がする。


「あ~ちょっと知ってるかな。少女マンガだね?」


芳井さんの説明によると甘酸っぱい青春ラブストーリーだけど、『風なんとか』くんと貞子っぽい女の子の性格が良過ぎて泣けてくるのだそうである。


「俺はアニメとかはまあ嗜む程度だけど、世代的に『涼宮さん』は外せないよね」


その作品の事を個人的に『涼宮さん』と言い習わしているだけなのだが、彼女もそれで分ったらしい。そしてこんな質問をしてきた。


「あの作品で言うなら、宇宙人と未来人と『涼宮さん』のどれが好みですか?」


「…難しい事を訊いてくるね…。友人は宇宙人派だったけど、緑髪の先輩ってのはダメ?」


「まあいきなり『超能力者』と言われるよりはマシですが、う~ん。じゃあ二択で『涼宮さん』と宇宙人とでどうですか?」


「その二択だったら、めっちゃ悩むね…。『涼宮さん』の方はちょっと図々しい気がするし、宇宙人の方は大変そうだなぁって思うし…」


「…」


何故かこちらをじっと見守っている芳井さん。


「でもタイプかどうかってよりは保護欲を刺激されるのは宇宙人で、『涼宮さん』は自分にはもう若さが足りないかも知れない…疲れちゃうかも」


「分りにくいですが、という事は宇宙人の方ですか?」


「恋愛にはならないかも知れないけどね」


「…」


またしても無言になってしまう芳井さん。だがしばらくして、


「片霧さんの事、何となく分ったような気がします」


と呆れ顔で言われた。でもすぐ笑顔に戻る。


「でもこういう話をしてると楽しいです!」


それは自分も同じだった。趣味というのは相手の事を知る入口だというのは多分本当なのだ。そして何気ない会話の中にも大切なことが含まれていて、知らず知らずのうちにお互いの事が分っていくのだろう。
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