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淡く脆い ⑩

「んで、普通にご飯食べただけ?」

「そうだよ。俺の事よく知ってるだろ。それより先は何もないさ」

「分るけど。分らん」

場面は変わって一週間後に友人宅で寛いでいる時、芳井さんとの出会いに始まって彼女と一緒出掛けた事をなるべく具体的に友人に伝えていた。友人の仕事も一区切りがついて、話したい事もあるらしいので呼ばれたのである。最初に「この前ある女の子と知り合った」と漠然と話したら当然かもしれないが相手がかなり興味を持ったので自分の考えも含めて述べたところ、レストランでディナーを採った後の事について気になったようである。


「相手は何か言ってなかったか?」


これは芳井さんが夕食後に何か言ってこなかったかという意味だろう。結論から言うと特に何も言っていなかった。小さなレストランは駅から少し離れていたが、ゆっくり話が出来る雰囲気で和やかなムードで食事ができた。帰る方向は一緒なので違う駅で降りるまでは一緒に電車に乗っていた。芳井さんが降りたところで「じゃあまた」と言って手を振ったくらいだろうか。


「お前がそれでいいんなら、それでいいんだけどな」


「むしろそれで悪い理由がない」


いつものノリでそんな軽口を叩くと相手は「ふっ」っと笑った。何となくだが仕事が片付いたのもあって大分余裕がある表情に見える。


「ところでそっちの話って何よ」


「うん。それが、実家の方に戻る事にした」


「は?」


一瞬彼が何を言っているのか分らなかった。


「どういう事?帰省ってこと?」


「んにゃ。そうじゃなくって、田舎の方で職探し」


「え、どうして?今の仕事上手くいってるんだろ?」


「まあお前も知ってるだろうけど、俺長男だろ。だからさ」


「いや、分らない事も無いけど、なんで急に?あ、両親になんかあったとか?」


「そうじゃないんだけど、あんまり変わらないかもな。いずれそうなるだろ。親父が糖尿病とか」


糖尿病という言葉が突然出てきたので戸惑ってしまったが、知識として悪化するとよくないという事は知っていた。


「そんなに酷いのか?」


「まあ今のところはそうでもないんだが、やっぱり誰か居た方が安心すると思ってな。俺もずっとこっちに住むつもりはなかったし」


「急だな…すぐの話なのか?」


「まああと一年くらいは今の仕事を続けながらあっちでの仕事も探してみようと思ってる。ちょっと大変だけどな」


ここまでの話を聞くとしっかり考えられている内容だったし、引き留めるわけにもいかない気分になった。


「そうか。考えてみると高校時代からもう10年くらい近くに住んでるもんな。大学まで一緒だし」


すると友人は過去を振り返るようにこんな話をしてくれた。


「就活の時もよく考えるとお互いに合わせてたように思うな。お前と居ると気が楽だったからな」


突然そういう事を言われると妙に気恥ずかしいのだが、気が楽だったのはこちらも同じだった。


「ただ、今の仕事に未練はないのか?せっかく大きい仕事任されたのに」


「ああ、だからそれは立派なキャリアだと思って頑張ってやったよ。むしろやり遂げて「ああ自分は何処でも同じことが出来るな」って思えた」


「あっちで仕事あるかな…?この前帰ったら大分厳しいって言ってたぞ」


「なけりゃ、いざとなったら起業してもいい。今はそういう時代だろ」


「まあ分らなくもない」


こんな具合に話は続いて、分った事は友人の決意は固いという事だ。やむを得ない事情で仕方なく田舎に戻るというよりはむしろあっちでも自分のやりたい事があるような口調だった。こういう所は尊敬している部分なので素直にエールを送ろうと思った。


「そんな事より、お前の方が今大事なんじゃないのか?」


そんな時に突然こちらの話になったので少し戸惑ってしまった。


「ああ、そういえば折角だからお前に紹介しようか?」


そこで深く考えず提案してみた。すると神妙な顔つきになって、


「いや、微妙だろそれ。俺はそんなに野暮じゃないよ」


「『野暮』とか、そんなに気にすることないと思うぞ。だってそっちは付き合ってる人いるじゃん。あ、ってかそれで思い出したけど彼女とはどうすんの?」


「まあ、どうなるんだろうな?なるようになるんじゃね?」


「そういうところは尊敬しないなぁ…」


ある意味流れに任せるよりもっと深刻に考える内容ではないだろうか。


「俺の事は何とかなるから、とにかくお前の方だよ。余裕がなかったとはいえ、この前ちょっと対応が雑になってしまったから今度はしっかり対応させてもらう」


「…ってか面白がってるだろ」


「半分な」


そこで二人顔を見合わせて笑い合った。多少あっさりしている部分があるのは否めないが、気持ちのいいの友人なので是非とも芳井さんに紹介したいところだが、それは少し後になりそうである。そういえばレストランで芳井さんとこんな事を話していた。


「近くにいるお友達って、どんな人ですか?」


「ああ、高校時代からの…腐れ縁とは言いたくないくらい一杯話した奴だな。隠す事が何にもない」


「へぇ…男の人同士の友情って憧れます。女の子は結構相手に言えない事とかもあったりですよ」


「明日話す友達もそうなの?」


その友達の事を訊くと彼女は眉根を寄せて少し困ったような表情で呟いた。


「いえ…彼女はむしろ全部訊こうとするんです。しかもその子が色々決めちゃうこともあるし…面倒見がいいんです」


「ああ、だからかえって話せない事もあるのか。でもそれって相当好かれてるよね」


「なんというか、これはわたしの考えなんですけど、彼女はわたしの夢を応援しつつ自分の夢を託しているような、そんな風に感じる事があります」


「へぇ…」


話を聞くだけで大体どんな人なのか想像出来てしまう。


「それは別に良くって基本的にはその子の事頼りにしてるんですけど、『あの人とは付き合っちゃダメ』とか…」


「ああ、それで…」


彼女が恋愛をした事が無いというのも何となく説明できるような気がする。その時はちょっと苦手なタイプかも知れないと思った。



話す事も話したので友人宅でスマホを弄りながら過ごしていた。ちなみにスマホにはこの前買ったキーホルダーがつけてある。ガラケーならともかくスマホなので若干違和感があるが、今度芳井さんと会った時にがっかりさせないようにしたいところ。するとその時スマホに一通のメールが届いた。


『片霧さん、明日会えませんか?なんかどうしてもわたしの友達が片霧さんに会って話がしたいって聞かないんです』


文面からも焦りが伝わってくる。メールを読んで表情が険しくなっていたのか友人に、


「なんかあった?」


と訊ねられる。思い切ってメールを見せてみると、


「ああ、芳井さんって子の友達か。なんか面倒くさいことになってるみたいだが、助けてやってもいいぞ」


と意外な提案。もっともそんなことをしてしまと場がややこしいことになるのは目に見えていた。だからとりあえず、


「いや、何とかやってみるよ。でもメールくらいは送るかも知れない…」

とだけ言っておいた。つまり明日芳井さんと会うつもりである。
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