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淡く脆い ⑪

恒例となりつつあるが芳井さんと待ち合わせたのは駅前。つまりは芳井さんの町と言っても良いのだが、そこで待ち合わせて近くのファミレスで彼女の友人を待つ予定になっていた。再びボーイッシュな装いで待っていた芳井さん。この日は少しばかり肌寒く、履いていた長いジーンズは新鮮な感じがする。


「今日ちょっと寒いよね」


彼女を目にして最初に出てきた言葉がこんな具合になってしまったが、


「そろそろ秋物用意しないといけないですよね」


とごく自然な感じで会話が始まる。


「片霧さんももう「秋」って感じの色合いですね」


芳井さんに指摘されたようにこの時結構渋めの色合いの薄手のジャケットを羽織っていた。肌寒いとはいえ、暑苦しい格好では浮いてしまいそうな気がしたのだ。


「もともと渋い色が好きでね。おじさんが好むようなファッションに実は憧れてる」


「ああなんか似合いそうですね」


この言葉に思わず軽いため息が出てしまう。


「これが時々無理してる感じになっちゃうんだよ。似合っているかどうかって自分では分らないものでさ。前友達に言われた」


駅周辺は前と同じように人がそんなに居ない。だからお互いの笑い声がよく聞こえた。


「さて、じゃあ行きますか」


この日の目的を考えると、先にファミレスで打ち合わせをしておいた方が良いように思えた。移動は5分程で、橋とは反対方向の道を歩くといかにも『フランチャイズ契約してます』的なファミレスが風景に溶け込むように建っていた。


「わたし思うんですけどファミレスってほとんど長話する場所ですよね」


「ああ、そうだよね。むしろ長く居座るためにあるような場所だと思う」


そういえばこのファミレスは地元にもあって、そこで昔友人とよく集まっていた記憶がある。酒が飲めない高校生にとってはドリンクバーというシステムは魅力的なのである。案内された席に座りながらその話をしていたら、芳井さんに物凄い勢いで同意された。


「むかしこういうところのメロンソーダが大好きだったんですけど、最近自販機でもそのメロンソーダが売られてるのを見てテンション上がりました!」


「俺、最近酒ばっかりだな。そんなに好きじゃなかったビールの味が分るようになってからはもう「とりあえず生」っていう気持ちがよく分かる」


「わたし、酒はちょっと…」


「え、ダメなの?まあそういう人少なくないしね…」


「いえ…そうではなくて、笑われちゃうかも知れないんですけど…『酒乱』っていうんですか?あれです…」


「あ…」


事情を察してしまうのが何だか申し訳なるくらい、芳井さんが酒で羽目を外している光景が脳裏に浮かんでしまった。


「ちょ…いま想像したでしょ!!多分そんなに酷くないですよ!!ただちょっと、気持ち良くなってべらべら喋ってしまうらしいですね」


焦って撤回しようとするも語尾のトーンは下がり気味だった。そういえば芳井さんは誰と酒を飲むのだろう?そのまま訊ねてみる。


「それが今日くる友達です。前にも言いましたけど一番相談に乗ってもらってる人で、二十歳になってお酒が解禁になって初めて飲んだ相手もその友達で、その日はやばかったらしいです…」


「そうか…友達には恥ずかしいところを見られてしまってるのか…そういえばその友達の名前って…」


と言いかけたところで、颯爽と入店してきた女性が目に留まった。寒さをものともしない派手な格好で、黒髪だがその風貌は何となく外国人のようにも見える。その女性はこちらを見て、勇み足で近づいてくる。


「里奈」


その女性の声には何となく苛立ちや焦りのようなものが含まれているように感じる。


「マリ…あ、座ってよ」


芳井さんは奥の方の席にずれ、開いたスペースに「マリ」と呼ばれた女性はストンと腰を降ろした。


「この人?片…なんだっけ?」


同じような口調で若干荒々しくこちらの方を振り向く女性。


「片霧さんだよ…」


女性のこの態度は実は予想されていた。ファミレスに移動している際に「今日もしかしたら友達失礼な事するかも知れません」と言われていたのである。


「片霧です…どうも、「マリ」さん?」


多少緊張するというのか若干ヒヤヒヤしながら自己紹介をする。「マリ」さんはこちらを鋭い目つきで刺す様に見て、


「御堂よ。御堂マリ」


と短くしかしながらはっきりとした声で言った。


「じゃあ御堂さん。話もあるだろうけど、とりあえず何か頼もうよ。まだ俺達も頼んでないから」


「…うん。じゃあそうしましょう」


少しばかり違和感を感じる。その正体はこういうこちらの提案も一つ一つを品定めするようなちょっとした間であった。その結果なのか最初に感じていた棘も僅かに緩和したように思える。御堂さんの隣で「ふぅ」と息をついた芳井さん。その後気を取り直して、


「じゃあわたしパスタで…こういうところのたらこパスタ好きなんですよねぇ」


と言った。御堂さんが「じゃあわたしもそれで」と言ったので自分は違うものをと思い、和風パスタとサラダを注文する事にした。設置してあるボタンを押して店員を呼んで恙なく注文をする。その女性がオーダーを伝えに行ったのを見計らって、


「その…俺に話があるってことなんだよね」


と思い切って本題に入ってみる。御堂さんは一瞬誰もいない横の方を見て、こちらに向き直して言った。


「あなた、私の事どう思ってる?里奈から話聞いてるんでしょ?」


これは意外な質問だった。てっきり芳井さんが女優を諦めるという事の説得に関しての話だと思ったからである。だが彼女にも何か意図があると思い、


「多分、芳井さんの親友なんだと思います。芳井さんの事何でも知ってるんじゃないですか?」


という風に素直に答える事にした。御堂さんはゆっくり頷いて、視線だけを下げたかと思ったら先ほどよりも強く訴えるような目でこちらを見つめ、


「里奈の事なら何でも知ってる。この前会って、最近里奈が変わってきたのも感じてる」


と伝えてきた。これをどういう風に取るかだが、要するにその変化がどうなのかという事なのだろう。


「それは良い変化ですか?」


こう云うと御堂さんが目を見張るようになって、


「あなたなかなか鋭いね」


と感心された。けれど、


「変化って、良い事ばかりじゃないし、かと言って悪い事ばかりじゃないと思う」


と深い洞察を感じさせる発言は必ずしも「良い変化だ」と言えるわけではないような気がする。実際、


「私は変わって欲しくなかったのかも知れない…」


と少しトーンを落として言った言葉が気になる。それを聞いていた芳井さんは複雑そうな表情である。


「もしかして、話したい事ってその事なんですか?」


と思い切って推論を述べてみるとこんな返事があった。


「それだけじゃないわ。ちょっとあなたに興味があったのよ」


この発言の受け取り方にはそんなに迷わない。名前を覚えられていなかったことと最初の態度を考え合わせるとそのままの意味なのだと分った。


「本当に興味ですね。私もあなたに興味がないと言えば嘘になります」


穏やかにだが自分の出来る限りの誠実さをもってこう応えた。すると御堂さんは「ふふ」っと軽く笑い、こんな事を言った。


「噂通りの人ね。でも里奈の事ちゃんと考えてくれている証拠だよね」


それはこちらが答える必要のない御堂さん自身で確かめているような問い掛けだった。


「何か二人でどんどん話が進んじゃって、すごく真剣だね」


「あなたの事で真剣になってるんだけど…。まあこういう子だから、こうせざるを得ないのよね」


御堂さんが言っている事は御堂さんと芳井さんを比べているとよく分かる。こちらが一度それに頷いたのを見て、御堂さんは安心したのかこちらに笑いかけた。
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