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淡く脆い ⑰

見慣れていて、もはや何も感じなくなりつつある駅。生活の拠点として欠かせないし、ほぼ毎日ここを通るから見掛ける通行人さえも既視感がある。そんな駅で芳井さんを待っている間、ふと「彼女はここに来た事があるだろうか?」という事を考えた。自分がそうであったように隣の駅だからと言って知っているわけではない。むしろ電車から眺める街並みは知っていても、その場所をよく知らないという事もままあるのではないだろうか。すっかり秋じみてきたどことなく薄い空を斜め上に眺めつつ、雲の流れを目で追っている。


土曜日午前10時としてはそこそこ賑やかな駅。何のDVDを見ようか漠然と考え始めた時、視界に芳井さんらしき人の姿が入ってきた。目を凝らしながら確認し、間違いないと思ったので手を振った。それに気付いた芳井さんも手を挙げて応えてくれた。


「ぴったり到着しました!」


「うん。10時きっかりだね」


電車の時刻が丁度良かったようである。普段通りにしようと思ったが笑顔ではりきっているような芳井さんを見ているとどうしても顔がニヤついてしまう。


「なんかここの駅で会うとまた違った感じがあるね」


「うん。私もそう思いました」


芳井さんは若々しい薄い黄色いパーカーを羽織っていて下は長めのスカートだった。服装でこんなに印象が違うものなのかと思ったりしたが、それも良く似合っていた。


「今日の服装も良いよね。芳井さんに合うと思う」


「え!そうですか!そう言ってもらえて嬉しいです」


はにかむ表情や少し髪を整える仕草を見ていると本当に女の子らしいなと思うのだが、逆に言えば自分はどう見られているか気にするべきなのだろうか?だが、見た目はそれほど自信が無い上に過去に格好つけようとして失敗しているのである程度以上は深く考えない様にしている。最低限、清潔感さえあればいいという割り切り方である。が、そんな格好を見た芳井さんの感想は意外なものだった。


「片霧さんも落ち着いていて、大人っぽくて素敵ですよ」


「え?」


褒められる事を予期していなかったので素のリアクションになってしまった。自分でもキョトンとしてしまったのが分るくらい一瞬何も考えていなかった。


「え?」


おそらくその表情を見て芳井さんも不思議に思ったのだろう。二人で僅かだが沈黙してしまった。


「あ…ごめん。俺服装とか適当だし、褒められると思ってなかったから」


「あ…そうなんですか。と、とにかく移動しましょう!」


芳井さんは気を取り直してとりあえずといった感じで歩き出した。そのままそれに着いてゆく。それから少し深呼吸をして、


「まずDVDを借りに行こう。時間もある事だし、何本か借りてゆっくり観ようよ」


と考えてきた今日の予定を告げた。


「はい!この辺りにレンタル屋さんとかあるんですか?」


「すぐそこ、ほら」


と言いながら指さした方角に小さくだがお馴染みの書店兼レンタル屋が見える。


「あ、見えました!いいなぁ、近くて便利ですね」


「実は住むところ探した時にさ、やっぱり書店は近くにあって欲しいと思ったんだ。仕事帰りとかに寄れるところにあると良いなと思って」


「良い判断ですね!わたし隣なのに、気が付かなかったです」


「そんなもんじゃない?俺も隣の駅で降りた事多分無かったし」



遠くにあるように見えて歩いて5分ほどで建物の所までやって来ていた。


「見たいのあるかな?」


芳井さんはちょっと首を傾げるような格好で店の看板を眺める。


「わりと新作は多いよ。準新作が隅っこの方になってるんだけど、俺が見たいのは大体そこら辺にある」


「そうですよね。私はやっぱり演技が凄く良い作品を探しちゃうんですけど、一般受けしない事もあると思うんです」



幸い映画の好みは合いそうである。入店し、まっすぐレンタルコーナーに移動する。やはり目につくところに話題の新作が大量に並べられているが殆どが借りられている。


「ジャンルとしてはどんなのが好みですか?」


既にパッケージに目を奪われている芳井さんにこんな質問をされた。


「昔からアニメだとラブコメで、映画だと実は地味な洋画が好きで、邦画だとこの頃「青春もの」がウルッと来るようになった」


「あぁ、そっか。アニメでも良いんですもんね。う~ん、どうしよ…」


彼女はかなり悩んでいるようだった。「これもいいし、こっちもいいし…」と呟きながら殆どのジャンルに目を通している。そこでとりあえず一本は自分が決めた方が良いと思い、恐らく外れの少ないだろうと思われる有名な女優の出演しているコメディータッチのパッケージの作品を手に取る。やはり準新作である。


「そうきますか!」


何故かニヤニヤしながら「やるな!」と言わんばかりの視線を送ってくる芳井さん。それに触発されたのか、


「じゃあ、私はこれ!」


と言って芳井さんはすぐに一つを選んだ。既にパッケージからDVDのケースを取り出しているが、パッケージからは全く内容が想像出来ない。同じく準新作のコーナーなのだが、男女が思わせぶりな表情で並んでいるその画像はありきたりだとは思うのだがタイトルが「名無しのコード」となっていてますます意味深である。


「どんな作品なの?」


思わず訊ねてしまうが、


「私も分りません」


と即答された。その表情が完全に「素」と言えるのだが、何処かしらわざと臭さが漂っていて笑いを誘っていた。


「芳井さん、そういう表情はズルいよ!はははは」


間に耐えられず笑い出してしまったのを見ると、


「ふふふふ…」


彼女もおかしくなったのか笑い出した。観る映画は決まったので、あとはバランス的に気楽に見れるアニメでもと思い、少しばかりサブカルにも通じているという同行者の勧めで中二病を題材にしたという結構有名なアニメを借りる事にした。


「ご希望のラブコメですよ」


「この会社のは外れなしだよね」


先ほどとは違う意味でニヤニヤしながらケースを取り出す。
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