FC2ブログ

淡く脆い ⑲

しんみりして少し気恥ずかしい雰囲気を何となく誤魔化したいような気持になり、やにわにレンタルしてきたDVDをバッグの中から一枚取り出してプレーヤーにセットした。芳井さんが、

「何にしたんですか?」

と言ったのだが、実は見て選んだわけではなくバッグの中で最初に掴んだケースに入っていた「名無しのコード」という邦画をセットしていた。


「芳井さんが選んだやつだよ」


「ほぅ。最初にそれにしますか!」


その言葉には僅かに感心しているような響きが含まれている。


「違うのの方が良かった?」


すると芳井さんは先ほど運んできた紅茶を口に含んでからこんな風に言った。


「いえ、映画と映画の間にアニメを挟めば丁度良いのかなと思いまして」


考えていなかったが確かに映画をぶっ続けで見るのは疲れるから、アニメで気分転換をするのもいいなと納得した。そうこうしているうちにセットしたDVDが自動的に再生されて、お決まりの他映画の宣伝が最初に流れた。比較的マイナーな邦画の会社のDVDだからか宣伝される映画も知らないものが多い印象。


「意外とこういう宣伝で見たいのが見つかる時があるよね」


「ええ。面白そうに編集するのも腕の見せ所ですよね」


「でも飛ばしたい時があるのは…」


「はい…。流石に10分以上あると飛ばしたくなりますよね」


などとDVDあるあるを話しながらちょっとばかり待った。やがてリモコンで選択できる画面が現れて本編の再生を選ぶ。


「どんな映画なんだろうね…」


書店でも訊いた質問だったので「ええ」という同意だけだった。そして芳井さんは映画館もそうだったが次第に画面に集中してゆく。前の時もスクリーンに見入ったまま、時々顎に手を当てて何かを考えているような様子になる事もあったが、ほとんどこちらの事を意識していない様にも感じられた。実を言うと、芳井さんがその方が自分が女性と一緒に映画を見ているという事を意識しないで済んで気が楽だった。そしてほんの少しだけ、薄明りの中で真剣な表情をしている芳井さんに見惚れてしまいそうになったものだ。


今回はその時よりは幾分リラックスしているようで、映画が展開してゆくにつれちょっとした解説をし合ったりしながら本編を楽しんだ。ただ「楽しんだ」とはいうものの、基本的にはドラマチックな展開なのだがミステリー的な要素がちりばめられていて最後まで気を緩められなかった。芳井さんは俳優の演技面に期待していた部分があるらしいので、どちらかというと構成と演出上のトリックを用いる様なこの作品は求めていたものと少し違うようだった。


「ストーリーは良かったですよね。でもこういう作品だと俳優さんの個性が出ないと思います」


その評価は演じる側の一つの見方なのだろう。けれど、インターネット上の「名無し」の情報を頼りに少しづつ真実に近づいてゆく男女の姿は妙なリアリティーがあるというのか、大衆向けの映画にはない奥深さが感じられた。そういう事を咄嗟にはうまく言えないけれどぼそぼそと述べると、


「そうですよね。やっぱり作品としての完成度は素晴らしかったです」


と付け加えてくれた。映画が終わると昼になったのでどこか近場で食事をしようと提案した。ただ芳井さんは意外にもこの家で食べたいとの事である。それに加えて芳井さんは今日駅で会った時から大きめだなと思っていたバッグを抱えて少しもじもじしている。


「あの…その…今日ですね、実はこんなものを用意してきたんです」


かなり言い辛そうだったが、何かを躊躇うような動作でバッグの中から何かを取り出す。勘が良い方ではない自分もそれが何なのか一目で分った。


「あ…もしかしてお弁当?」


芳井さんは静かに頷いた。その時異様なまでの感動が急激に起って、


「うわ~!!マジうれしい!!!」


と少し大声で叫んでしまった。その声で彼女を少し吃驚させてしまったようだが喜んでいるのが分ったのか、芳井さんも満面の笑みを浮かべる。「あまり料理は得意な方ではないんですが」と謙遜していたのとは裏腹に、健康のバランスが良さそうなしっかりしたお弁当だった。


「旨い!!めっちゃ旨い!!」


自分も料理は好きな方なので、これを作る手間がよく分かるだけに感動もひとしおである。芳井さんは自分用の小さいお弁当箱の可愛らしい料理をちょこちょこと食べ始めた。この間に借りてきたDVDのアニメを再生していたのだが、高校生の青春ラブコメとお手製の弁当という組み合わせが非常に良く、まるで学生時代に戻ったような気分でアニメを見ていた。


「やばい…なんか今めっちゃリア充の気持ちになってる…」


「私もその気持ちです」


ただし、何処かしら客観的に自分を見つめてしまう気持がその雰囲気を微妙に否定している。アニメ…というかその作中の男の子と女の子の関係も少し複雑そうなのが分って明らかにボーイミーツガールの王道なのに、DVDに収録されている2話までではまだどうなるのか分らない感じがした。


「あぁ…やっぱりここまで見ちゃうと続きも見たくなるよねぇ…」


「ですよねぇ…」


既に食事は終わっていたのだが、すっかり作品の方に引き込まれてしまっていた。すると芳井さんは何かを思いだしたのか再びバッグの中から何かを取り出した。


「この流れを遮るようなんですけど、実はこれを持ってきたんです」


「あ、DVD?これって?」


「私が…ちょっと出演しているドラマです。一番大きな仕事でした」


それを聞くと僅かだが緊張感が高まった。渡されたDVDで自分の知らない芳井さんが見れると思うと身構えてしまう。芳井さんの方もそんなこちらを窺うようにして少し不安そうに見つめている。


「じゃあ、再生してみるね」


なるべく平静を装いつつセットする。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
普通のカウンター
投票
無料アクセス解析
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR