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淡く脆い ㉒

「行ってしまった…言ってしまった」


映画を観終わってお互いに気まずいような気恥ずかしいような雰囲気になってしまっためかそこからの会話はどこかぎこちなく更に間が持たなかった。そもそもこういう状況に慣れているはずがないのだが、それは芳井さんも同じようだった。自然に目が合わせられない。これ以上意識し過ぎると色々限界だったので


「こ、これからどうする…?」


とたどたどしい口調で言うと芳井さんはビクッと反応していた。


「えっと…きょ、今日はじゃあこれで…」


多分だが彼女も耐え切れなくなったのだろう、おもむろに立ちあがり一礼をした。


「あ、うん。じゃあ送ろうか?」


配慮のつもりだったが、この状況では若干しくじっていた。


「い…いえ、大丈夫です。い、家に着いたら連絡しますので」


「そ、そうか。じゃあ気をつけて」


そうして芳井さんが去った部屋で呆然としている。今日会った事は悪いことではないけれど、一人になると本当にこれで良いのか異様に心配になってくる。


「言ってしまった…」


そんな風につい独り言を言ってしまったのだが、芳井さんに告げた事は勢いもあったけれど自分の本心なのだろうと思う。しかも芳井さんの方もそれに応えてくれようとすらしている。どう考えてみても何かを意識せざるを得ない。『好意を持ってくれている』という情報を明確に言葉で理解していいものかどうかに悩む。というか一度そう思ってしまうとこれまで通りに接する事が出来なくなりそうだという事に気付いたのである。


少し大袈裟に頭を抱えてそのままボーっとしていた。



気付いた時には窓から西日が射し込んで来ていた。こうなってしまった以上、仕方ないなと割り切り友人に電話を掛ける事にする。しかしながらこういう時に限って電話に出ない。もやもやしたままで居ると、先に芳井さんの方からメールが届いた。


『今家に着きました。今日はありがとうございます。またこんな風に過ごせたらいいなと思いました』


返信文を考えながら早めの夕食の準備を始めた。こういう時は何か作業するのに限る。芳井さんにはこんな風に返信した。


『はい。何か面白そうな映画を探しておきます』


無難で素っ気ない文面だが、努めて冷静に送ったつもりである。夕食を済ませ、<芳井さんは何をしてるのかな>などと面白いほど意識しながらテレビを見ていると7時頃に友人から電話があった。


『あ、わりぃ。ちょっと出かけてて電話気付かなかった』


『そうか。まああの時じゃないとダメだったわけじゃないからいいよ』


『なんかあった?』


『それがさ、勢いで半分告白するような形になっちゃって…』


『ふ~ん。まあいずれそうなるわな』


自分にとっては大事なのだが友人はいともたやすく受け入れる。


『で…結果は?』


その割に先を急かすのも興味があるという事なのだろう。


『そしたらさ、なんか、好意を持ってくれているようでさ、多分だけど芳井さんが今の問題を片付けたらその時に、って感じになった』


『ん?』


『まあだから、まだ付き合うという事ではないよ』


『…』


電話口での沈黙。少しして「あー」と何かを納得したような声が響く。


『なるほどな。律儀なお前らしいよ。まあそれはいいんだけどよ…』


納得したようなのだが何か歯切れが悪い。


『そううかうかしてもいられないような気もするんだよな…』


『え、なんでそう思うの?』


二人の間の事を今知ったばかりでどうしてそう思うのかとても謎だった。


『実はさ、』


彼は切りだした。長い会話なので要約すると、実は彼は今日密かに芳井さんのバイト先であるコンビニに行ったのだそうだ。何が目的なのか訝しいんだのだが、当然ながら芳井さんは家に居たので単純に仕事場が気になっただけだそうである。だが友人にとってそこで思わぬ出会いがあった。


『俺の大学時代のサークルの一個下の後輩だよ』


丁度その時レジ打ちをしていたメガネを掛けた長身の男性に見覚えがあったという。その風貌は以前芳井さんが「先輩だ」と紹介してくれた人物に違いない。その時名前を確認していなかったのだが、友人の話では「戸田」という人らしい。


『サークルって、何のサークルだっけ?』


その情報に驚きつつも、もう少し詳しく訊いてみようと思った。


『創作系っていえばいいのかな。多分文芸。まあ俺は時々顔を出す程度で積極的ではなかったんだが』


やはりこういう話でも友人らしさが現れている。そういえば学生時代「ライトノベル作家とかって結構なれるもんなのかな?」と一度彼が訊ねてきた事がある。もちろん「なれるわけねーだろ」と返したのだが、「小遣い稼ぎくらい出来ればなぁ」と何となく呟いていたような気がする。それと関係しているのだろうか。話の本筋から脱線しそうだったのでそれは今度訊くことにして、今は話の続きを待つ。


『まあ、そこに「戸田」って奴がいたんだ。まるきり『純文学を目指す』とか意気込んでて、逆にサークル内で浮くという憂き目に遭っていたな。あ、うまい事いったつもりじゃないぞ』


『その人の事はよく知ってるのか?』


『サークルに入る動機からしてベクトルが逆だったのもあるが、そいつには説教気味に文学論を説かれたよ。俺も分らないなりにどれくらい難しいのかは分かってさ、創作自体についても素人の意見としてアドバイスを求められるような事もあったよ』


『それは浅くない関係だな』


だがここからが興味深い。その「戸田」という人は大学3年の時に中退してしまったそうである。理由は分らなかったが友人は金銭的な問題だろうと思っていたようである。ところが今日出会った彼から聞いた話によると違うらしい。彼は友人を見て驚いていたようだが、「しばらくして休憩だから」という事で時間を作ってくれたらしい。そしてその休憩時間に中退した理由を告げた。


『「プロを目指したから」だそうだ。驚いたよ。創作に割ける時間を考えて普通に就職するという選択肢を放棄した時に、どうせなら今からプロを目指したいと思ったそうだ』


『すげぇな…』


『だが現実は甘くないようで、まだ作家デビューに至っていないとのこと』


『しかも、なんだか最近その決意も揺らいでいるらしい』


『え、何で?』


当然の疑問だった。そこまで決意して揺らぐものなのだろうか。


『その理由が『芳井さん』に関係している』


『どういう事だ?』


恐る恐る訊いてみると彼はこんな事を告げた。


『彼女に惚れてるんだとよ。というか「そういう恋愛もせずに良い小説が書けるわけない」って思っちゃったらしいんだな』


『そ…そう』


返事に困る内容だった。
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