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淡く脆い ㉔

コンビニからの帰り道、予定にあったわけではないけれど何となく違う方向に寄り道をしていた。芳井さんと出会った橋の向こうのあの甘味処である。作務衣に白い頭巾の店員が元気な声で出迎えてくれる。


「えっと、『あんみつ』を一つ」


席に着くなり注文をして女性が伝えに行ったのを確認して静かに待つ。何となくスマホを弄りながら自分がした事について振り返っていた。間違ってはいないけれどだからといって正解とも言えないような気がする。結局のところ「ただ自分がそうしたかっただけなのだ」という事に思い至ったとき、


「まあ、何とかなるだろ」


と自然と言葉が出ていた。


「何が「何とかなるだろ」なのよ?」


思いもしなかった返事があった。スマホから顔を上げるとそこには見知った顔があった。芳井さんの友人のあの御堂さんである。御堂さんは当たり前のように目の前の席に腰を降ろす。


「うわ…びっくりした!」


「びっくりしたのはこっちの方よ。あなた…だとちょっと余所余所しいから『片霧くん』でいいかな?」


「いいっすよ。僕も『マリさん』でいいですかね?」


「うん、何でも良いよ。で、片霧くんは何でこんな所…ううん、ここに居るの?」


色々気遣う御堂さんの言い直しに笑いそうになったけれど、真面目に答える。


「前芳井さんにここを紹介されて二人で『あんみつ』を食べたんですよ」


「うん。それは分かったけど、何故今日は一人で?」


いかにも不思議そうに尋ねてくる御堂さんを見て、考えてみれば特に理由がないのだという事に気付いた。


「まあ特に理由はないんですけど、今日こっちに来たからですね」


だが御堂さんはそれでも納得しないようだ。


「じゃあなんで今日こっちに来たの?実はさっき里奈と会ってきたの。だから片霧くんは里奈と会う為にこっちに来たんじゃないって事が分ってるの」


別に隠していたわけではないけれど相手が相手だし『戸田』氏に会いに行った事を報告すべきなのかなと思った。コンビニであった事をそのまま御堂さんに告げる。彼女は一瞬だけ信じられないものを見たときのようにその大きな瞳を更に開いていたが、すぐに元の表情に戻った。そしてしばらくじっと何かを考えるようにしていた。


「あの、すいません!『あんみつ』一つお願いします!」


御堂さんは何故かこのタイミングで突然大きな声で店員に向かって注文をした。店にはそんなに客がいないようなので別に不躾ではない。店員も気前よく「は~い」という返事で応えていた。そして御堂さんは今度はニコニコしてこちらを見ている。


「どうかしたんですか?」


「うんとね『あんみつ』が楽しみなのと、片霧くんが面白いなって思って」


「面白いですか?」


「むしろその面白さを自覚して無いのはドン引きだよ?だって敵に塩を送る?だっけ、とにかく何でそういう事をしちゃうのかなって思って」


「でも誰かに気持ちを伝えられる事は大事だと思うんですよ。」


「そうだけど…」


その時机が少し揺れたような気がした。何かと思ったら御堂さんが下で足をブラブラさせているだけだった。そしてゆっくりこう言った。


「私としては、それを里奈が知ったら複雑な気持ちだと思うな…戸田くんが里奈を好きなのもそうだけどあなたが戸田くんに伝えた事も。だって普通「何で?」ってなるじゃん」


「あ…言われてみればそうかも知れないですね。そこまではあんまり考えてなかったなぁ…」


そういうリアクションはしたものの、実は少しだけ自分の行動がどうなるか分らないという事だけは自覚していたのもある。あまり考えたくはないけれど、芳井さんが戸田氏の告白を受け入れる可能性だってないわけではない。


「っていうか、どうして気持ちを伝えられる事が里奈にとって大事だと思ってるの?」


「そ…それは…」


自分の経験から…いや、何となく。言葉は浮かぶものも明確な答えが出てこない。多分漠然とその方が良いとしか思っていなかったような気がする。するとフォローするように御堂さんが言った。


「まあ、確かに『経験』という意味では悪くないけどね…」


そこから言葉が続かないままだったところに店員が『あんみつ』を二つ運んできた。美味な餡を二人で味わいながら何気なく御堂さんが言った。


「経験って、演技に活かされる事もあるよね」


「…」


その時、自分は心のどこかで芳井さんの演技に生きるような事としてこの行動を選んだのかも知れないと思った。そうなのかも知れないし、そうではないのかも知れない。一方で演技の為にではなく純粋に芳井さんが誰かに愛されるような人だという自信を持ってほしかったのかも知れない。


「そういえば今日は芳井さんどうでしたか?」


「うん。ふふふ…聞きたい?」


「ええ、聞きたいですよ」


「まあ、一生懸命だったのは変わらないけど、ありゃー間違いなく恋をしているね」


御堂さんは茶化す様に言うのだけれど、目は結構真剣である。多分当事者である自分にはこれは少し気恥ずかしくもある。


「恋ですか」


「恋ね」


「ところでこの『あんみつ』前に食べた時も思ったんですけど、結構『濃い』ですよね」


一瞬微妙な間があった。御堂さんは苦々しい表情で


「うわ…いまのマジ白けるわ…」


と言ってそのあと笑った。
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