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掌のワインディングロード ⑩

ジャパンカップをJCと約すことに若干の抵抗を感じつつも口頭で


「今週のJCは外国勢がいまいちですね」


という風に言っている自分がいる。というか女子中学生をJCと約す事がそもそも変なのにいい風評被害ではないかという気持ちがないわけではない。それでも競馬のJCの方は年間を通して話題になるわけではないので浸透度的にはこちらがやや不利か、などと考えたりしそうになったところでバイトの休憩が近づいてきた。


競馬の話をするのは主に細井さんと大井さんだし、最近の人間関係はその他が無いくらいなのだが僕のバイト先の店長もそこそこ競馬を知っているので仕事に少し余裕が出てくるとたまに競馬の話になったりする。店長の競馬歴は数年らしく、細井さん達よりは知っているけれど彼等ほどハマっている感じはしない。こう言う表現もどうなのかなと思うけれど、大人の嗜み程度のものなのだろう。


「そうか、なんか毎年思うんだがジャパンカップって外国馬くる意味あんのかな?」


競馬に対して客観的な視点を持てるからなのか店長はなかなか鋭い事を言う。確かにこの頃自分もそういうことを考えていた事を思い出す。某競馬ゲームでは競馬の歴史と絡めてゲームが展開してゆくのだが、そこでは「ジャパンカップ」というのは大きな意義をもつレースである。ゲームで学んだだけでなく実際に書籍などを読んでみて、ジャパンカップが実際にそれくらい日本にとって大事で大きなレースだったという歴史を知っている。それは疑いようのない事実だが、過去となりつつあるのかも知れない。



「去年も全頭惨敗でしたもんね。まあ展開とか馬場とかが合わない場合が多いんでしょうけ
ど…」



誰もが思いつくような敗因を述べてみるが、実際日本の競馬場というのは世界から見て特殊なのだろう。だから世界基準にしろとかそう言うことは思ってないけれど、有利不利は絶対あるだろうなと思う。


「過去にJC勝った外国馬ってどれくらいいるんだっけ?」


「結構勝ってると思いますよ。初代はもちろん外国馬でしたし、記憶に残ってるのはアルカイックですね。当時覚醒しつつあったクライイングハートを破ってレコードで優勝した馬です」


「へぇ~、良く覚えてるね。さすが」


すると店長はレジの時計を少し見て、


「あ、15分休憩とってね」


と言った。深夜の2時、そろそろ疲労も溜まってきた頃である。今日は金曜日なので大体5時コースなのだが、明日と明後日は例によって休みである。


「じゃあ休憩入ります」


声を掛けて店長が頷くのを確認して休憩室に入る。静かな部屋で一人スマホを弄りながら時々少し目を閉じて身体をリラックスさせる。仕事は慣れているとはいえやはりこの時間帯は眠くなってしょうがない。店長もこの頃は目の隈が酷くなってきて今日も少し疲労が見えた。そういう事から一人今後の事を考えたりし始めるとやはり不安がやってくる。共同生活は楽しいし、心が癒されているのだけれど、この生活がずっと続くわけがないとどこかで思ってしまっている。先の事とは言え、一人の時間があるとむしろこの時間の方が『普通』なのかも知れないと心の何処かが言っているのである。


「でも、、、」



自分には競馬というはっきりとした趣味がある。仕事が辛くなることもあるけれど、今だってスマホで自然と出走表を見たり、馬の掲示板を覗いたりしていると明後日の事が楽しみになってくるのも本当だ。今週は3人で府中に行く事になっているし、混雑し賑わっている競馬場に行けば必然テンションも上がってくるだろう。



そんな興奮を想像しながらも何か<それだけではいけない>と思っている部分があるのは確かだ。僕は色んな事ができるタイプではないし、今の仕事ももしかしたら次のステージというものがあるのかも知れない。でもここ一年ほど実家に連絡をしていないという事も何処かで気にしている。この前体調を崩した時、細井さんと大井さんには心配を掛けた。今は連絡しにくい状況にあるけれど自分がそんな風になったら気遣ってくれるのは父も母もそうだと思う。



それでも自分は頑張っていると思う。だが、その頑張り方で本当に良いのかと聞かれれば…




そうしているうちに15分は過ぎ仕事の時間になった。「あと一息だ」と自分に言い聞かせて接客を始めた。



☆☆☆☆



土曜日、11時頃に起床すると寝室に細井さんと大井さんの声が聞こえている。「違うよ~!」とか「いや、多分こっちだ!」という発言だったので一瞬喧嘩かな?と思ったが、口調はそれほど厳しくないし、どちらかというと明るいものだった。


「お早うございます」


リビングに行くと細井さんが座卓に競馬新聞を広げてそのある部分を指さしていた。


「あ、おはよう、タラちゃん。寝起きで悪いんだけど、ちょっとこの馬観てくれる?」


細井さんの指さしているのはJCの出走表のうちの一頭の馬柱だった。


「ああ、外国馬ですね。イラプション…か」


「勇次がね、前走凱旋門賞が5着だから絶対に強いって言うのよ。私は牝馬を応援してヨコスカパンドーラが良いんじゃないかって思ってるの」


大井さんが言った馬は僕が目を付けていた馬だった。でも宝塚記念馬がこの秋に天皇賞を勝って勢いに乗っていて、心情的にラッキーを応援したい気持ちだった。ヨコスカパンドーラの父がドリームインパクトなので注意しなければならないと思っているけれど。それはそれとして、細井さんのイラプションについては昨日の店長と同じような事を説明した方が良いなと思った。



「勇次さんはやっぱり世界最高峰のレースって凱旋門賞だと思います?」


「え、そりゃそうだろ?だから日本の馬が挑戦するんだろ?」


「ええ間違ってはいないのですが、必ずしもそこで好走した馬が日本で強いとは限らないんです。むしろこれまでは厳しい結果の筈です」



「意外だな…。てっきり外国からの刺客って感じだと思ってたけど」


「まあ僕の話も結果論になる事は多いんですが、日本の馬場に合わなくて全く伸びない馬もいます。だから本命にするには『リスク』としては大きいと思うんです」


「ふむ…」


すると細井さんは静かに考え始めたようで、しばらくするとパソコンを使ってネット上の情報を洗い始めたようである。そして一言。


「うん…リスクが大きいのは確からしい。でもそれ以外だと思いつく馬が居ないんだよなぁ…」


細井さんは明日何を本命にするのだろう。それも少し楽しみではあった。
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