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ステテコ・カウボーイ ③

どちらでもいいよと思う。結局どちらも同じ道に繋がっているなら。けれどやっぱり選んでしまう。何かの基準で、或いはただの気紛れという不確かな気分で。


あと少しで昼になるという時刻、何となく退屈そうにしていたら「ファミレスに連れて行ってあげる」と言われた。声の主は珍しくリビングで本を読んでいた早川さん。早川女史…?


「行きます行きます!」


思いのほか気持ちが高揚するのを感じた。基本的に昼は自炊していて、早川さんには作業に集中できるようにと決まって軽い食事を作って持ってゆくのだが、この生活が始まって以来外食らしい外食はしていないにも等しいので楽しみだったのである。


「君はまるで犬のようだね。しっぽを振っている幻視をしてしまったよ」


「犬ですか…?できれば猫の方が良いんですけど…」


犬も好きな方だけど、猫派を自負しているのでつい言ってしまった一言だがこの言葉に、


「いや、私は犬を飼っていた事があるから自然に犬のイメージだね」


と強調するような感じで返されて「へぇ~」と声が漏れた。何はともあれ外食、ただしファミレスに行く事になったのだから準備をしようと思って「よし!」と立ちあがったのだが、実質居候の身で持ち物など無く、ポケットに財布も入っていたので特に必要がないと気付いた。それを観察するように見ていた早川さんは、


「私も立ちあがった方が良いかな?」


と一言。なんとなく頷いた。




ファミレスは思ったより近所にあった。歩いている間に早川さんが「以前はこのファミレスをよく利用していた」という情報を得て納得する。『以前は』というところも気になったが、そういえば早川さんは外出をあまりしないタイプである。出不精気味のような気がする。


「最近の子はファミレスで季節を感じるんだろう?」


入店したとほぼ同時に言われて一瞬何の事だかわからなくて訊き返した。


「いや、この前テレビで若い子のインタビューかなにかで、ファミレスのメニューが変わると季節が変わったと実感するとかそういう情報を得たものだからね」


そこで自分は「若い子」なのか小一時間考えたい気分に囚われそうになったが、とりあえず「若い子」だという事は認めることにして、店員に案内されながら返事を考えてみた。


<季節感があるかどうかは別にしても、折角だから春らしい食べものが食べたいなぁ…>


内心で思いながらメニューに目を通してみる。ところがどうも春らしい食べものが見つからない。季節限定のメニューで苺を使ったものが何故かあったのだが、少し早いような気がする。


「少なくともこのメニューで春は感じませんね」


思ったままを言うと早川さんは「そうか」と頷いた。こういうのも作品に活かされるのだろうか?と、早川さんは早くも、


「決めた。今日は和風パスタだ」


と宣言。実は僕もそれが食べたいと思っていたとはなかなか言い出しづらい。仕方ないので「たらこパスタ」を選ぶ事にした。


「そしたらサラダを何か選ぶといい。何か好きなサラダはあるかい?」


ここで僕は正直言って相当悩んでしまった。野菜は好きな方だが基本的に拘りがない。なのにファミレスのサラダというのはドレッシングを何にするかとかまで選択しなければならないシステムの店も時々あって、ここもまさにそれだ。多分こういう時はこだわる必要はないのだろう。けれど、せっかくの外食だししっかり選んで決めた方が良いのかも知れないと考え出すと基準がなくて困り果ててしまう。メニューを見たまま「う~ん」と呻る僕を見て、


「どうしたんだい?もしかしてサラダは好きじゃないのかい?」


と少し心配そうな顔の早川さん。


「いえ、選ぶ基準がなくて困ってるんです。どれでもいいけど…」


「私もどれでもいいんだけどね。しいて言うならあっさり目のドレッシングが好きかな」


少し選択肢が絞れたが、そうすると青ジソドレッシングなどが良さそうである。ただ、海藻を初めとしてやけに種類の多いサラダの方に悩む。こういう時、人はどうやって選ぶのだろう?『気分』なのだろう。気分…色…緑…。


「じゃあこの緑が多めのサラダで」


「ああ、いいね。じゃあそれにしよう」


結局注文は決まり駆けつけてくれた店員に告げてゆく。ドリンクバーも勧められたが、早川さんは例によってコーヒーだけでいいというので僕もそれに倣った。運ばれてくるのを待つ間早川さんがこんな事を訊ねてくる。


「さっき緑が多めのって言ったけど、実は私も葉物の野菜が好きでサニーレタスは好物なんだ」


『じゃあそれを先に言ってくれよ』とは流石に言えなかったが何であれ良いものを選んだなと思った。


「そういえば早川さんは決めるの早いですね。最初から食べたいもの決まってたんですか?」


なんとなく訊くと、


「いや、気分だよ」


と言われた。気分でそんなに即決できるものなのだろうか?


「なんか羨ましいですね。僕は気分って言われるとちょっと分んないんですよ」


「うん。なんとなくそんな感じだね。っていうか君を拾ったのも気分に依るところが大きいかも…」


さり気なく爆弾発言をする早川さん。そうか…僕は気分次第では見放されていたのか…などと思っていたら、


「そんな捨てられた子犬のような顔をするのは辞めたまえ…。大丈夫だよ今は拾って良かったかもと思いはじめている」


「具体的にどんなところがですか?」


「そうだね…う~ん…」


そこで少し沈黙があったと思ったら、


「そういえばね、博くん(僕の名前)には言ってなかった事だけど私は君が来るまでは結構頻繁にここで食事を済ませていたのだよ。よくあるようにネタを考える様な事はしないけど、気分を変えたい時などはここで和風パスタをよく食べて実家での事を思い出していた」


と、またしても一つの発言に気になる事が複数出てきたのだがとりあえず、


「実家?」


というキーワードを確かめてみるとにした。


「うん。実家の母コダワリの和風パスタが私の好物でね、ここのパスタもそれに比べて悪くない」



「気分を変えたい時っていうのはどう言うことですか?もしかして今も?」



「まあ気分を変えたい気分の時とでも言えばいいのかね?ややこしいけど。ちなみに今は単純にメニューを見て久しぶりだったから食べる事にした」


「おお…」



何故か説明に納得していた。早川さんの好きなところだが、質問すれば必ず納得のゆく答えを返してくれる。そんな話を続けていると意外と早く食事が運ばれてきた。



「いただきます」「いただきます」



料理は美味だった。パスタの堅さも好みである。早川さんも満足そうに、


「うん、この味だ」


と言った。


「じゃあ、今度は僕が和風パスタ作ってみましょうかね?」


特に意識して言ったわけではないけれど、


「君のそういう素直なところは私の気に入るところだよ」


と彼女がほほ笑む。


「そういえばはぐらかされてたんですね…」


途中で話を変えられたという事をあまり意識しないまま早川さんの話を聞いていたところなどは本当に素直だなと実感したのだった。
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