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淡く脆い ㉘

芳井さんと約束した日。朝、いつもより気合を入れて服装を考えていた。それまでの印象が覆る事はないにせよ、恋人として彼女に相応しい姿というイメージが何となく浮かんでいて、そうした方が喜ぶのかも知れないと思いはじめたら細かなところが結構気になってくる。もともと幼い顔立ちで格好をつけても似合わないと分っているけど、ちょっとした意地のようなものでそれなりに男の部分が見えるようにしたかった。格好はどうにかなったものの洗面所の鏡に映った顔がなんとなく自信が無いように見えて、そそくさと家を
出た。


しばらく続いていた寒気が一旦収まっていたようで、お出かけ日和と言えた。自分の目には何か世界が新鮮に映る。見慣れていた景色もどこか違った色合いを感じさせ、行きかう人に比べると自分は少し浮かれているように感じる。あれこれ考えている間にいつの間にか待ち合わせ場所まで来ていた。そしてその場所は二人にとって少し特別な場所だった。



あの派手な格好をした芳井さんを初めて見た場所である。



てっきり自分の方が先に着いていると思ったのだけれど、意外な事にあの日とは全く違った柔らかな雰囲気で、やはりあの不恰好な像の下で彼女は座っていた。僅かにだがソワソワしているようにも見えた。


「早いね。もしかして待った?」


「あ…片霧さん」


姿を確認した時に一瞬だけ躊躇いがあったように感じたのだが、やはりいつもより気合を入れ過ぎていたのかも知れない。芳井さんはゆっくり立ちあがり、


「なんか落ち着かなくって早めに来ちゃったんです。でもちょっと前に来たばかりですよ」


と言いながら愛らしい微笑を浮かべた。その表情に見惚れてしまいそうになるのを抑える。


「じゃあ良かった。似合うね」


白を基調とした長いスカートと淡い色のブラウス。年頃の可愛らしい女性という感じが彼女にはよく似合うと思った。


「実はこういう格好ってあんまりしたことないんです…よかった」


かなり恥ずかしそうに言う。「何でも似合うよ」と言いそうになったけれど、それは今は無粋なのかもなと思ったりした。


「そういえばここで最初に会ったのって多分覚えてないでしょ?」


あの時の芳井さんは隣に座っていた人の事は目に入らなかったと思う。


「えっと、何となく男の人が隣に座ってたっていうのは…覚えてないかも…」


もしここで自分の第一印象を言ったらどうなるのだろうと思っていると、


「私どんな感じでした?」


と訊かれて結構困った。あの時、彼女の見た目で自分の苦手なタイプの女性だと思ったと素直に言うべきなのか。


「うん…ちょっと怖かった…」


これも素直な感想だったが、そう言うと芳井さんはおかしそうに「ふふ」と笑った。


「片霧さんらしいですね。そういうところが…その…」


何かを続けたそうにしていたが、その後ちょっと恥ずかしそうに顔を伏せたので何となく伝わった。この前まではこういう微妙な部分を深く考えないようにしていたけれど、自分が好意をもたれている事を素直に受け取っていいというのは新しい喜びでもあった。けれどこの時、少しだけ気になった事があった。


「なんか気のせいかも知れないけど、ちょっとだけ雰囲気が変わったような気がするけど」


「私ですか?」


「うん」


「そりゃあまあ、素直になっていいんだなって思ったらそうなるというか…でもそれ言ったら片霧さんもですよ」


「え…?そうかな?」


「なんか前より、フワッとしてる感じがします。日だまりみたいな」


「…」


今度は自分が照れくさくなる番だった。ここでこんな風にデレデレしているとずっとそうしていそうな気がしたから、


「まあ、とりあえず移動しようよ」


と気を取り直した。前よりも雰囲気が親しみやすくなったように思える芳井さんと一緒に歩いているとそれだけで満たされた気分になるのを感じた。もちろんこれからの事を考える必要はあるけれど、今はただこうしていたいそう思った。


「…うふ」


歩いていて時々聞こえる嬉しそうな声。どうやら浮かれているのは自分だけではないようである。芳井さんが行きたい場所があるので案内してもらっているが、次第に土地勘が無い景色に移り変わってゆく。10分くらい歩いただろうか、


「行きたい場所ってさ…」


と目的地を聞こうとした時、


「あそこです!」


元気よく視線の先にある建物を指さした芳井さん。


「あ、ここか!」


それは若い女性向けの洋服を扱っているショップらしかった。大型店というわけではないけれど、中は結構広そうで人の流れからすると結構繁盛しているように思えた。


「うん。こういう店は絶対入らないよ」


拒否したわけではないが、自分だけでは絶対に入らないという事は保障できた。


「そんな事言わずに、ささ」


彼女はさり気なく手を繋いでそのまま店の中に引かれてゆく。そしてそこで驚くべき事があった。


「マリ!!来たよ~!」


「里奈!!」


そう、店員の一人らしかった女性は芳井さんの友人である御堂さんだった。
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