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掌のワインディングロード ⑰

年末の慌ただしさも一段落し、聡子と一緒に年の瀬も比較的のんびりと過ごしていた。タラちゃんは大晦日は休みだったが年明けですぐにシフトが入っているらしく、あまりゆっくりとはできなかったものの年が明けたら三人で初詣などに出掛けて結構充実し日々を送っていた。


俺はその数日前に実家に「年明け帰省する」と連絡を入れていた。一時は険悪だった両親との関係も仕事が順調な今ではこういうご時世という事もあるがそれなりに認めてくれているらしく、折を見ては顔を出す事をしていたので返事も気軽に受け入れられている雰囲気だった。ちなみに実家には現在大学生の妹も帰省しているらしく、聡子を連れてゆけば家族のみんなに紹介するという状況となっていた。


「妹さん居たんだね…」


それを聡子に伝えたところ、まず基本的なところで彼女にとっては意外だったらしい。「一人っ子だと思ってた」と言われたのだが自分で言うのもなんだが俺は結構世話好きなタイプで、妹とも比較的仲が良い方だと思っている。可愛らしいタイプではない妹だが、結構現実的で真面目だから聡子とも話が合うかも知れない、という具合に話してみると、


「真面目な人だったらちょっと気合入れないと…」


と意気込んでいたのが印象的だった。1月2日、早朝タラちゃんが帰宅したのを確認してぼちぼち起き出してシャワーなどを浴びて身支度を始める。聡子はタラちゃんが食べられるようにと3人分の朝食を作りはじめる。風呂上りに準備がそろそろできそうな聡子が後ろ姿のまま、


「そういえばタラちゃんの事はご両親には伝えてあるの?」


と言った。タオルで髪を乾かしながら、


「前に伝えてあるよ。俺が責任持つから大丈夫だって言ったら「そうか」って」


「理解があるご両親なのね」


その返事は何気なく呟いたようなトーンだったが、改めて考えてみればそうだなと思う。色々無理を言ってきたから今さらなのかも知れないが、俺がこうしていられるのも家族の理解あっての事だ。ただ後で考えた時、聡子はこの時自分が受け入れてもらえるのかを慎重に考えていたのかも知れない。


「あ…おはようございます…」


するとここで意外な事にタラちゃんが部屋から出てきた。


「え、タラちゃんまだ寝てて良いんだよ?疲れてるでしょ?」


驚いたので俺が慌てて言うと、


「いえ、なんとなく朝食を一緒に食べたいなと思いまして」


と言うや否や料理、と言っても目玉焼きのなのだが、それを手際よく座卓に運んでゆく。


「どうしたの?」


聡子も心配そうにご飯茶碗を運んでゆくのだが、よく見ると目元に若干隈が残っているタラちゃんは何だが嬉しそうである。


「何か良い事あったの?」


訊いてみると、


「そりゃあ聡子さんと勇次さんが一緒に帰省するってなったら見送りたくなりますよ!」


と言われた。<なるほど、タラちゃんなりに気を遣ってくれていたのか>と思い、こっちまで嬉しくなってくる。折角なので
タラちゃんの言うとおり3人で朝食を採る事にして、食べながら雑談が始まる。


「へぇ~妹さんが居たんですか…」


聡子の質問から何となく妹の話になり、タラちゃんも俺に妹が居るのを意外だと思っているらしかった。


「よければ紹介したいんだが…まあ正直お勧めはできない…」


「いえ…そんな。でも同い年くらいなんですね。凄いなぁ~」


「むしろ、正式な弟にできるかも…なんちゃって」


聡子が思いつきで言った事はなかなか大胆だが現実性が皆無というわけではない。ただ、本当に正直なところ妹は一緒に居て疲れるタイプの人間だから、タラちゃんが妹と過ごしたら気圧されてしまうのではないかという不安がある。まあそれは後々考えてみる事にしようと思う。朝食を採り終ってタラちゃんが気を利かせて片づけをしてくれるとの事。ここは素直に甘えて早めに家を出ようと思った。


「行ってらっしゃい」


タラちゃんは玄関で見送ってくれる。何度となく訪れたこういうシーンはなかなか良いもので、安心して留守を任せられる。


「なんかお土産買ってくるから」


出がけに言って二人で玄関を出る。早く家を出ようと思ったのには理由があって、やはりお土産である。実家に持ってゆくちょっとしたお土産を駅で選ぼうと考えたのである。買ったのは定番の菓子折りだったが、チョコレートが好きな妹用に二つほど買っておいた。


「なんだか緊張してきた…」


実家近くの駅までは電車を乗り継いで一時間で到着する距離だが、近付くにつれ聡子が若干落ち着かなくなってくる。


「大丈夫だって、俺が付いてるよ」


月並みな言葉だが効果てきめんで、聡子は「そうよね」と確認して普段通りの表情になる。念のため手を繋いでいたのも効果的だったかも知れない。いかにも地元という感じの駅で降りて、不案内な聡子を誘導しながら10分程歩く。間もなく見えてきた赤い色の屋根の家を指さし、


「あそこだよ」


と言うと「うん」という返事が返ってきた。実家はそれほど古くもないがかと言って新しくもない。俺が小さい頃親父がローンを組んで買った家だからもしかするとそろそろリフォームを考えなくてはならないかも知れない。とりあえず玄関に立って呼び鈴を鳴らす、インターフォンから聞こえた


『はい』


というやや高い声は母のものと思われる。「今着いたよ」と言うと『わかった。今開ける』という声が続いた。ガチャッという音がして鍵が開いたのを確認して扉を開く。向こうには父と母が立っていて、正面の階段の方から覗いている顔は妹のものだった。


「ただいま」


リラックスして言う俺に対して聡子は


「は、初めまして。大井聡子と申します。本日は宜しくお願いします!」


と明らかに堅苦しく緊張した丁寧な挨拶をする。さすがに苦笑してしまったが両親はにこやかに笑い、父は


「何にもないところですが、どうぞおあがり下さい」


と手を添えて言った。


「は、はい」


ちょっとぎこちなく家に上がって、案内されるまま居間に通される。礼儀としての挨拶を一通り済ませ、お土産を渡したり近況を報告し合ったりしてゆくうちに聡子もだんだん打ち解けてゆくのが分った。


「あ、桜、ちょっとこっち来なさい」


母が時期を見計らって「桜」を呼んだ。桜とは妹の名前である。妹はさしずめ上品さを意識しているのだろう、ゆったりとした足取りで二階から降りてきて居間に入って顔ぶれを確認すると、


「どうも、桜です。初めまして」


と聡子に向かって一礼した。


「おしとやかさを演出しているつもりなのだろうけれど、もう聡子にはお前の事教えてるからな」


流石に無理があると思って釘を刺す様に言うと、


「何よ。第一印象くらい良くしようと思ったっていいじゃん。まあいいや、お帰り」


既に地が出てしまっているが、気にせずゆったりとした動作のまま近くに腰を降ろした妹。


「あの、初めまして。大井聡子と申します。お兄様からお話は伺っております」


妹が変に畏まるから聡子もまた堅苦しい挨拶になってしまっている。そういう風にしておきたい気持ちは分からなくもないけれど、これではありのままの聡子が見せられなくなってしまうと思い、



「聡子もそんなに堅苦しくなる必要はないよ」


と指摘。両親も頷いて、


「そうよ。挨拶は済ませたんだし、気を遣う必要なんか無いからね」


母も後押ししてくれる。この和やかなムードにつられたのか、


「えっと、じゃあ普段の通りで…」


とことわった聡子は、


「私の話は勇次から聞いているかも知れませんが、今3人で一緒に生活しています」



「3人?」


桜は多分タラちゃんの事は聞いていなかったのだろう、疑問に感じて訊ねた。


「うん。「タラちゃん」っていう桜くらいの年の男の子と3人でルームシェアだ」


「へぇ~凄いね。今どきの若い人って感じ」


癖で<お前もそうだろう>とツッコミそうになったが、割と真面目で感覚が古めかしいところがある桜には意外な話だったのだろう。


「それって大丈夫なの?」


桜のこの冷静な一言には答えに窮してしまった。どういう意味なのかは察しかねるが、そういう生活で何か不都合があるのではという感じなのだろう。


「むしろ楽しいよ。3人で一緒に出掛けたりもするしね」


『競馬』というのは流石に躊躇われたので3人で出かけているとしか言わなかったけれど、自然な口調だったので桜は「ふーん」と納得しているようだった。





細々とした所は省略するが結論から言えばこの帰省は何の問題もなかったし、終始和気あいあいとした雰囲気で時間が流れた。聡子も説明すべき事は説明し、仕事についても正直に「いずれは違う仕事に就きたいと思っています」とはっきりと述べ、それを聞いた両親も何か良い印象を与えたようである。両親との関係もそうだが、何よりも良かったことは妹である桜とも大学で学んでいる事が共通していたらしく、どうやら趣味も合うようで早速連絡先を交換し合ったりしていた事である。開いた時間に過去に使っていた自室の様子を見て来た際に桜が近くに寄ってきて、


「いいね、聡子さん」


とニヤニヤして言ったのが印象的だった。実家からの帰路でそれを聡子に伝えると、


「じゃあ私からも桜さん素敵ね、って伝えておいて」


と同じような顔で言われた。こういうのは嬉しいものである。
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