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掌のワインディングロード ⑱

「聡子?」

勇次が不思議そうに私の名を呼ぶ声が聞こえて「え」っと返事する。何かあったのだろうかと思ったら、

「なんかちょっとぼーっとしてない?なんかあった?」


と心配された。言われてそういえばこのところ物思いに耽る事が多くなったかもなと反省する。

「うん、ちょっとね」


考えていた事は勇次の実家に帰省した事に関係して、自分でもまだまとまっていないのでその時はそう答えた。


「そうか。なんかあったら気を遣わないで言ってくれよ」


「うん、大丈夫」


私が答えると勇次は先ほどから読んでいた新聞に視線を戻した。大した事ではないけれど、勇次がその時読んでいたページがちょうど競馬の記事が載っている部分だろうなと思って、何となく面白かった。お正月も三が日が終わって、すっかり日常が戻ってきたけれど平日の昨日も競馬中継があってちょっと吃驚していた。タラちゃんがここぞとばかりに力説して、


「東西金杯、つまり関東と関西のそれぞれの金杯というレースが、年明け早々に行われるのが恒例なんです。休みが続いた分5日に行われるのが決まりのようで、その日が平日だろうが必ず開催するんです」


平日の競馬と言えば地方競馬とかは思い当たるけれど、中央の競馬でも平日に行われる事があるんだと感心してしまった。その時勇次が、


「そういえば月曜日に開催してることもあるよね」


と言うと、


「ええ、もともと3日間開催の時もありますし、雨などで中止した際に代替開催で月曜日に行われる事もあります」



とマメ知識を教えてくれた。金杯というレースの結果が今日6日の朝刊にちらっと載っていて、勇次がそれに目を通しているというだけといえばそうだけど、タラちゃんとの出会いからもうすっかり競馬が当たり前のものになっているんだなと実感させられる。そしてタラちゃんは今日は休みだからと久しぶりにゲームに興じている。夜の仕事をしている私達には普通の光景だけど、見ようによっては不思議なのかも知れないなと思ったり。というのも、勇次の妹さんの桜ちゃん(親しみを込めて私はこう呼んでいる)からタラちゃんも含めた3人での共同生活について質問するメールが一昨日早速届いたのだ。


『『タラちゃん』さんって、どんな人ですか?』


すっかり打ち解けていたので「気兼ねなくメールしてね」とは言ったものの、こういう質問が来るとどう答えていいかちょっと悩む。


『2人の弟みたいな感じで、すごく真面目で、すごく慎重で「もしかしたら」っていう言葉が口癖だから『タラ』ちゃんって呼んでるの』


まずはこんな風に説明したのだけれどそれでもうまくイメージできないらしくて、


『写真送ってもらえないですかね?すごく気になって!』


と年頃の女の子なら確かにそうなるかなと思うような展開になる。だけどタラちゃんに一応お願いしたところやっぱりシャイなので、


「いや…僕はそういうの、ちょっと…」


とやんわり断ってしまう。


『恥ずかしいからダメだって』


と桜ちゃんに返事のメールを送ると、


『う~ん、すごく気になる…』


とまだ諦めていない様子。桜ちゃんには他にも3人での生活について、どういう感じなのかを質問されて自分でもあまり気にしていなかったこともちょっと違う視点で眺めはじめている。特に日中は基本的に家に居て、夜にみんな一斉に居なくなるというリズムは慣れていない人にとっては違和感を覚えたりするところだろうなと想像した。ルームシェアは今は結構ありふれている事だけど、やろうと思ったら実は勇気がいるのかも知れない。


「あー、やっぱり史実補正はきついなぁ…ってか強すぎるような気がするなぁ…」


ゲームに向かって文句を言っているタラちゃん。今は競馬のゲームをしているけれど、時々ゲームを知らない私でも出来そうなゲームをしている事がある。勇次は今度はスマホを弄って多分ネットのニュースを確認している。この空間には男性と女性の違いがちょっとはあるみたいで、時々男っぽいと言われる私でもそれなりに女性向けのファッション雑誌を見ていたり、もしかするとただ生活しているだけでも色んな発見があるのかも知れない。



私が考えていた事はだんだん明確になってゆく。


「ねえ、ちょっとお二人さん」



思いついた時には私はそれを声に出していた。もしかしてそれを提案するのはちょっと大胆なのかも知れない。二人はそれぞれ「なに?」「なんですか?」と言った。私は少し物々しく、



「今度休みがあった時にさ、私の田舎の方見てみない?」



「「え…?」」



見事にハモった。突然の提案に二人はすこし驚いているようだ。勇次は、



「でも聡子、実家には連絡してなかったんじゃないか?」



「うん…。そうだけど、だから実家は行かないけどそっち方面に」



「う~ん…俺は良いけど、地元何処だっけ?」



「Y県」



「えー、東北出身なんですか?意外…」



タラちゃんは言うけれど、どの辺が意外なのかちょっと訊いてみたかった。タラちゃんは続ける。


「僕も行ったことないから、行ってみたいですね…っていうかそうなると僕の地元も見てもらいたくなったり…」



そう私はこの前勇次の実家に行った時から、3人がそれぞれ生まれ育った場所を紹介し合うというのも良いのではないかと思いはじめていたのだ。


「なるほどな…そういうのも面白いかもしれない」



勇次も次第に乗り気になっているようだ。
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