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掌のワインディングロード ⑳

平日の昼、タラちゃんは外出している。その時間聡子との間に何気ない会話が続いていた。お互いの気持ちを確かめる意味があったり、自分では気づかなかった事に気付かせてくれる大事な時間でもあって俺はどちらかというとそういう普段の生活が好きだったし、聡子もそういう時間を大切にしてくれるというところが嬉しかった。だから内容がなくても全然かまわないのだけれど、その日はちょっとだけ身内の事で意外な事実を聞かされた。


「ゲームを作るサークル?の、シナリオ作成?」


「うん。桜ちゃん、昔から結構そういうの好きだったみたい」


メールで頻繁にやり取りしているという妹の桜と聡子。ほぼメル友と言って良いだろう。どうやら大学生活の定番であるサークル活動の話になった時に桜が教えたらしい。疎遠になっているわけではないけれどあまり干渉しなくなっていたので実は知らなかった。


「へぇ~意外だなぁ。まあ一緒に暮らしてた頃、時々俺の部屋に来てゲームしてたことあったけどな」


「どういうゲーム?わたしゲームに疎いからさ」


聡子が訊ねてくる。聡子は時々タラちゃんのプレイしているゲームにそれほど興味を示さないが、簡単なパズルゲームだと時々対戦したりという事があった。俺はおぼろげな記憶から桜がいわゆるノベルゲームを好んでいた事を思い出す。


「中学生くらいの頃かな確かノベルゲームっていう、文章を読んでシナリオを進めてゆくゲームをやってたぞ。あとは俺の影響かも知れないけど格闘ゲームで対戦してた」


「ノベルゲーム?聞いたことないなぁ…」


「パソコンだとよくある種類のゲームだ。途中の選択肢でルートが分岐してシナリオが変わるとか、推理要素のあるゲームも多いな」


「へぇ~。そういうのだったらわたしもやってみたいかも」


「もしかすると桜の作ってるゲームもそういうゲームのシナリオなのかもな。ああ、ネットで有名なやつあったな。アニメにもなった『なんとか蝉が鳴く頃』とかそういう感じの」


「あ、それだったらアニメちょっと知ってるかも。友達がアニメ見てトラウマになったとか言ってた」


「俺はそういうゲームはあまりやらなくてアクションとかが好きなんだけど、アクションにはシナリオとかは無いからな」


「なるほどね」


今の説明で納得した様子の聡子。身内の話なのに疎いというのも恥ずかしい話だが、こうやって聡子が多分男では聞きにくい事も聞いてくれるので頼もしい。妹の知らない一面を知ったような感じである。ただ一方でゲームを作るとなるとプログラミングが出来る人が必要だったり、作りたいという気持だけではなかなか作れないと思う。サークルがどういう規模のものかは若干気になるところである。後日なんとなくその辺りの事が気になって、というか興味が湧いたので久々に妹にメールをしてみる。文面はこんな感じ。


『ちょっと訊きたいんだけど、サークルでゲーム作ってるんだってな。どういうゲーム?同人とかで発売してたりするの?』



それに対して凡そ一時間後にこんな具合に返事が返ってきた。


『お兄ちゃんからメール来るの久しぶりだから焦った。聡子さんから聞いたんだね。そう、作ってるのは恥ずかしいけど女の子用の恋愛シミュレーションゲーム。乙女ゲーってやつだね。イラスト担当と、シナリオ担当とプログラミング担当が居て、実はほとんど女子だけのサークル。発売というか何かの時に配布とかはしてる』



「ほとんど女子」というのも面白いが、仮に乙女ゲーなどを作っているところに男が居たとしたら針の筵というか俺なら拷問に近いと感じる。大方プログラミングをやらされているんだろうなというイメージだったので、


『もしかしてプログラミングが男とかか?』


と訊いたところ、


『ううん。理系でプログラミングの勉強がしたいって同い年の数学科の子が担当してるよ』


という意外な答え。ただ今の職の事を考えるとSEなどを目指して学生時代からプログラミングを勉強するという意味では結構しっかりした考えの持ち主なのかも知れないと漠然とだが思った。せっかくなので、


『じゃあ今度ゲーム見せてくれないか?』


と頼んでみたところ、


『嫌だ。私の恋愛観がだだ漏れだから恥ずかしいし』


と断られた。こういう場合は聡子に頼んで聡子から感想を貰う方がいいかも知れないなと思った。



その週の日曜日、中山競馬場でAJCCというGⅡのレースがあるという事でまた3人で出掛ける事にした。AJCCは何の略なのかを調べてみたところ「アメリカジョッキークラブカップ」という名前らしい。この頃ようやくレース名に慣れてきたが、まだまだ知らないレースが多い。タラちゃん曰く「結構重要なレース」とのこと。というのも過去の名馬がここを勝っていたりするという事なのだが、俺は少し違和感を覚えていた。


「高齢馬が多いな…みんな7歳とか8歳とか…」


競馬場で競馬新聞を広げながら呟いた事だが、馬柱に並んでいる名前の馬齢の部分を見ると殆どが7歳とか8歳という高齢馬なのである。あまり年齢は気にはしないのだが、むかしタラちゃんから「ある時期をピークに歳を重ねると馬も衰えてきます」という話を聞いていたからそういう馬が買いにくいなと思ってしまった。


「でもですね4歳の馬が一番人気になってますけど、そんなに抜けている馬でもないので実績を重視しても良いと思いますよ」


タラちゃんはアドバイスしてくれる。聡子は、


「ここは外国人ジョッキーじゃないかな?4歳のダービーも2着だったサワノリーゼント」


とタラちゃんとは反対の事を言った。ただその後、


「でも、瀧騎手も気になる…」


と続ける。瀧大とかいて「たきゆたか」という名前のジョッキーは日本の競馬を支え一時代を築いてきたジョッキーで俺も競馬をやる前から名前を知っていた。天才ジョッキーと言われていて競馬中継のインタビューでもよく目にする。物腰の柔らかい人らしく競馬界の広告塔とも言えそうだが関西を拠点にしているらしく中山で見たのは久々だ。


「タラちゃんの本命は?というか気になる馬」


勿論ここはタラちゃんにも訊かねばなるまいと思って訊いてみたところ、


「いや…実は今日はヨコスカマーティーが色々気になって…」


と言葉を濁した。ヨコスカマーティーは人気はしていないが実績馬らしく、故障して復帰戦とのこと。さすがに買えないが、もしかしたら強いのかも知れないという想像があった。



ところでその日の競馬場は普段よりも男女のカップルが多いように感じた。聡子にも窺ってみたら、


「うん。というか女性が増えたかも。ウマジョも結構目立ってる」


という返答。ウマジョという言葉も色んなニュアンスがあると思う。例えば男と一緒に競馬場に来た競馬はあまり興味がない女性と、むしろ競馬が好き過ぎて一人でも余裕で足を運ぶ熱心なファンとか。個人的な印象だが、競馬特に馬券は才能も大いにあると思う。予想に関しては男性よりも巧みに様々なデータや根拠を集めてきてかなり複雑な馬券の買い方をして収支がプラスという話も耳にする。俺も聡子とどちらが予想が巧いかよく分からない時がある。人間性があるのか直感型の聡子と、データ型の俺、その半々のタラちゃんという感じ。そんな事も分かるようになってきて競馬にも競馬場にも慣れてきた俺と聡子だが、時々すれ違う男女の初々しいカップルを見ていると最初に競馬場に来た日を思い出してしまう。


「タラちゃんもなぁ、ウマジョだったら彼女とか出来るんじゃないのかな?」


と何気なく言ったところ、


「ええ、そういう出会いだったら凄く話易いとは思いますけどね。でも、何となくですけど最近出会いってあるのかもなって思いましたよ」


というタラちゃんにしては珍しい答え。そんな話をしているうちにメインの時間が迫ってきた。



結果を言ってしまうけれどメインはタラちゃんの気にしていた事が実際に起ってしまったような感じだった。一着は瀧大騎手が騎乗した馬。そして俺が最終的に単勝を買っていたサワノリーゼントは失速し撃沈。そして心配だったのは競争を中止したヨコスカマーティー。後日のニュースで命に別状はなかったけれど引退が発表された。種牡馬入りは出来るそうだが、競馬を見ていてこういうシーンはやっぱり切なくなる。それでも種牡馬として第二の人生を歩んでもらいたいというのは、何か動物に対しての気持ちよりももっと深い想いがそこにあるような気がする。
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