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掌のワインディングロード ㉑

私はその日新しい友人と会う約束をしていた。それは2月の中旬、寒さが少し厳しいけれどからっと晴れている日曜日。もともと競馬に出掛けるという選択肢もあったのだけれど、次の週がGⅠで折角だからその日の方が良いからという理由でこの週はのんびりしていようと思っていた。でもその友人がどうしても会わせたい人が居るという事で日程の合う日がこの日になったのだ。


急な予定とはいえ私は前から一度彼女とじっくり話がしてみたいと思っていたし、何より相手が自分と直接会いたいと言ってくれることがとても嬉しかった。勇次に告げたら、


「桜が?なんだろうな?」


と少し不思議そうだった。そう、私が会うのは勇次の妹である桜ちゃんなのである。桜ちゃんは実は私達が住んでいるところからそれほど離れていない場所で一人暮らしをしている。待ち合わせ場所は彼女の通っている大学から一番近い駅。何となく混雑しそうなイメージだったので早めに家を出て電車で移動する。


目的の駅に着くとそこは私の想像とは違ってこじんまりとした場所だった。人も思ったよりは居なくて、入口付近で待っていてくれていた桜ちゃんともう一人の女の子に容易に合流する事が出来た。


「今日はありがとうございます!えっと、こっちが…」


桜ちゃんが少し早口で右に立っている女の子の方に手を添えて紹介してくれようとした時、


「桜、ちょっと焦り過ぎ。こんにちは、初めまして。私、吉永と言います。下の名前は映見です」


としっかりとした口調で自己紹介を始めた女の子。「『吉永映見』さんって言うんだ」と確認してから、


「こんにちは映見さん。私は大井聡子。大井は大井競馬場の大井…って知らないか…」


と言う風に紹介した。競馬に染まってきている影響かついつい蛇足の情報を出してしまう。吉永さんは一瞬頭に「?」マークを浮かべて、


「競馬好きなんですか?もしかしてウマジョ?」


と訊ねてくる。ウマジョという言葉を知っているという事は相手も競馬を知っていると判断し私の方も訊いてみる。


「それを知っているって事は、もしかして映見さんも?」


「えっとそんなには知らないんですが、昔知り合いが競馬の事ばっかり話しているのを聞いてちょっと知識はあります」


「へぇ~。私も知り合いから教えてもらったところからだから、世の中には競馬好きな人結構いるんだね」


何となくお互いに頷きあう。一方で桜ちゃんは何の事やらちんぷんかんぷんのようで、


「競馬って馬?」


と呟いて吉永さんに確認していた。とりあえず駅で突っ立ったままというのも勿体ないので私達はゆったりと過ごせる場所まで移動する事にした。桜ちゃんが、


「あの学生街なので学生が多いかも知れないけど、大人の女性でも気に入る場所だと思うんです」


と紹介してくれたそのお店は意外にも落ち着いた昔ながらの喫茶店という感じのお店。文学少女だった私もかつてこういう場所で読書するのに憧れた事があるけれど身近な場所にないと通うのが大変だという事で結局は家で静かに読書する事が多かった。その私にとってみれば理想的なお店で、変わっているのはマスターが女性だという事である。奥の方の4人掛けの席に座って店内をぐるりと見わたしているうちに気分が落ち着いてくる。


「うわ~凄く良い雰囲気ね!」


「あぁ~良かった。実はわたし、映見とここでサークルで作っているゲームの案を出しあったりするんです」


桜ちゃんの言葉を引き継いで今度は映見さんがやや焦り気味に、


「その方が結構いいアイディアが出るんです。実は今日もちょっとお力をお借りしたいなと思いまして…」


と切りだした。その事については桜ちゃんからメールで既に連絡してもらっていた。『サークルで作るゲームのシナリオが恋愛ものなのだけれど、いま一つリアリティーが出ない』という悩みがあったそう。


「お兄ちゃんに聞くっていう方法もあったんだけど身内だから何となく聞きづらいし、聡子さんからの方が良いのかなって」


「そういうの複雑だよね。私も恋愛経験が豊富というわけではないんだけど…」


映見さんはゆっくり頷きながら、


「女性が多いサークルで男の人の視点が欲しいのですが、その人はゲームに登場させるようなタイプの人ではないし…」


と苦笑いしている。ゲームの事は分からないけれど、確かに私の経験を活かせるのかも知れないなと思った。


「じゃあ、ちょっと質問ね。桜ちゃんと映見さんは今気になっている人とか居るの?」


「「え!?」」


私の大胆な問いに二人は見るからに動揺している。戸惑っているようだけれど、二人の作ろうとしているものには私なりに考えてこの視点が必要だと思うのだ。桜ちゃんは、


「えっと…私は高校の時は居ましたけど、今はそれほど…」


そして映見さんは、


「え…っと…居ないわけではないですけど、ちょっと分らない感じですね…」


と歯切れの悪い答え。若干映見さんの方は気になる人が居そうだなと思った。私は「そうね…」と一置きしてから、


「男の人ってよく気が付く人もいれば、マンガみたいに鈍感な人もいると思うの。勇次はどちらかというと後者かな…だから私の方からガンガン攻めたの。でもそういうタイプの方が付き合い始めると心を開いてくれるというのか、凄く優しい…かな」


「なるほど…」


感嘆の声を洩らす桜ちゃんに対して真剣な眼差して頷いている映見さん。この二人は結構対照的だなと思った。静と動というのか。すると映見さんからこんな質問があった。


「じゃあよく気が付くタイプの人だとどうなるんでしょうか?」


相変わらず真剣な眼差しだったので気になる人はそういう人なのかなとも思ったり。私は、


「よく気が付く人は凄く優しくて…そして繊細なのかも知れない。そういうのって自信とかも影響してるんじゃないかなって」


「自信…確かにそんな気がしますね」


映見さんは意味深な言葉を口にした。思い当たる節があるのかも知れない。


「私は引っ張って行ってもらいたいタイプだから、自信がある人の方が身を委ねられるからいいのかなぁ」


そんな風に勇次を分析していると意外にも自分は勇次のような人が理想だったのだと気付く。


「お兄ちゃんがねぇ…鈍感なところはそういえばあったかも」


妹である桜ちゃんには見せない部分も当然あったんだろうなと想像する。そんな風にゲームに関係すると思われる話題で大分その店に長居していると次第に話が脱線していて、いつの間にかタラちゃんと勇次と私の3人での普段の生活の話をしていた。桜ちゃんも映見さんも私がルームシェアをしているという事と、『タラちゃん』と呼ばれる男の子と生活しているという事実に驚きを隠せないようだった。


「っていうかさ、桜…わたし思うんだけど…」


と話を聞いていた映見さんは桜ちゃんに話し始める。


「3人で共同生活っていうシナリオも良くない?なんか斬新で…」


どうやら映見さんはゲームのアイディアに使えると思ったようである。桜ちゃんは神妙に頷いて、


「うん…問題はどういう経緯でそういう展開になるかだけど、、、」


と相談し始めた。なんとなくその話を聞いてて面白そうだなと思ったし、好きな事を続けている二人が眩しかった。アイディアが出たところで私達は店を後にして食事の出来そうな場所に移動した。食事を取ってから3人で街を歩いたりおススメのスポットを紹介してもらったりして、私としても貴重な経験ができたと思う。メインレースの時間を意識したわけではないけれど2時半頃には解散という事になったのでどうやら間に合いそうだった。


「今日は楽しかった。また誘ってね!」


「はい。是非、またメールします」


「ありがとうございました」


駅で別れて私は何となく急ぎ足で家に戻った。
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