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掌のワインディングロード ㉓

最近仕事場でこんな風に言われる事が多くなってきた。

「最近雰囲気変わってきましたよね」


自覚がなかったので「どんな風に」と訊ねると、


「なんか前はきりっとしてたけど、今は親しみやすくなったというか柔らかくなったというか」


という返事が返ってきた。俺としては前と変わらない気持ちで仕事をしているつもりだったのだが、どうも私生活での変化が影響しているのかも知れない。ある日俺は聡子に、


「なあ、俺って雰囲気変わったかな?」


と訊ねてみた。彼女も同じように「うん、なんか穏やかな顔をしてることが多くなったよ」と云う。確かに自分の表情は分からないから、そういうところは変わってきたのかも知れない。意外な事に、


「私も仕事場で最近変わったねって言われるよ」


と聡子も答えた。「どんな風に?」と言ってみたら、


「私の方はお客さんに、『なんかこの店で聡子ちゃんだけ雰囲気がちょっと違うよね』って。前は言われなかったんだけど」


という返事。聡子の仕事場での光景が想像されてなんとなくしっくりこないのだが、考えてみるとそう感じるのもこれが初めてだったかもしれない。二人で居る時間が長く、実家に里帰りした時以降妹ともやり取りをしている聡子は前よりも一層親密になったように感じるし、今とは少し違う形もの未来もちょっと具体的に想像してしまう事がある。



けれど俺は今の生活がかなりしっくり来ていた。妹にはタラちゃんを含めた3人の共同生活について奇妙なように思われているが、男同士だから出来る話もあるし、ややもすればささくれ立ってしまいそうになる世の中で自分の家は居心地がよく、多分それが表情にも出ていたのだろうと思う。そう考えてみると人間というのは環境が変われば確かに変わるものなのかも知れない。



仕事終わり、いち早く帰宅した俺は一人の部屋でぼんやりしていた。普段なら聡子の方が先に返ってくる事が多いが今日は俺の方が早く上がったようで、タラちゃんはもちろん一番遅い。一人で過ごしていると何か落ち着かない、というか手持無沙汰である。タラちゃんが居る時は軽い冗談を言ったり、競馬の話を振ってみたりするが一人だとどうも何をしたらいいのか決められなくなるようだ。特に意識しないままスマホでニュースを見ていると競馬のニュースの見出しが飛び込んでくる。


『二冠馬、ドバイへ。中山記念から始動』



「ドバイ」というのもあまり見慣れない文字だっだのでしっかり読んでみると去年皐月賞とダービーを勝ったドゥーイットという馬が故障明けで3月の中山記念から同月のドバイシーマクラシックというレースに向かうというニュースだった。ドバイというと「中東の国」というイメージしかないがそういえば前にタラちゃんが、


「ドバイは競馬も凄いんですよ」


と言っていた記憶がある。ちょっと検索してみたところ「ドバイ・デイ」という日にはいくつものGⅠレースが開催され各国から馬が招待されるという事である。世界規模の話で読んだだけでは想像ができないけれど、とにかく凄いというのは分かった。ドゥーイットの鞍上はラウロ・デルーカのままだそうで、彼はドゥーイットが最強だと信じているらしい。ダービー後に骨折して休養していたというのは知っていて馬も骨折するんだなとぼんやり考えていたが、馬の場合足の骨折というのは重症化しやすいらしく、現役でいられるということは結構幸運な事なのだと知った。


そういう話を知るとなんだか応援したい気持ちが増してくる。基本的にミーハーではないが強い馬は好きで、ドゥーイットのレースも素人ながらに痺れるものがあったし、何より聡子と初めて中山で見たGⅠで勝った馬。思い入れがでてくるのも自然なのかなと思った。


「この話、タラちゃんにしたら盛り上がるかな…」


やっぱりこういう話は3人で盛り上がりたい。特に3月のドバイのレースは何かわくわくしてくる。


「あ、3月になるのか…」


『2016』という数字にはまだ慣れないが、しばらくすれば3月でもう一年の4分の1である。そういえば聡子の言っていたY県への旅行も春になったらと漠然と考えていたが、4月の少し前辺りももしかしたら丁度良い頃なのかも知れない。寝る前に少しY県の観光地について調べてみようと思い、パソコンを立ち上げて検索し始める。
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