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掌のワインディングロード ㉕

『弥生賞の日』。競馬ファンならこの情報だけである程度日にちまで分ってしまいそうだけれど、僕はその日がくるといち早く『春』を感じる。もちろん今月中には桜が咲きはじめるけれどそういう「春」ではなく、春競馬、しいては春のGⅠ連戦という『春』のイメージだ。実際、弥生賞に勝てれば一か月後の皐月賞以降のクラシックでも有力視されるし、去年ここを勝ったキタガワブルーは菊花賞を勝っているし、このレースから既に春の戦いは始まっていると言える。


「今年は何だろうなぁ…去年は分かんないままだったけどやっぱりラウロのキングリアかな?」


スタンド席でメインを待っていると徐々にテンションの上がってきたらしい細井さんがJRAジョッキーとなって早2年目のラウロ・デルーカの騎乗馬に興味を示している。この口ぶりだと馬券も検討していると思う。


「キングリアが心配なのは距離なんです。前走の勝利は鮮やかでしたけど、むしろ1600が合うのかも知れません」


「そうなのか…。『距離適性』って言葉もよく聞くんだけど、なんか強ければ大丈夫そうな気がしちゃうんだよな」


「勇次、人間でも短距離が得意な人と長距離が得意な人では筋肉の作りが違うっていうわよ」


読書家の大井さんらしい知識を聞いて、そういえばそれに類する話を昔競馬の本のコラムで読んだことを思い出した。


「聡子さん、確かにそうですね。競馬好きな人ってあんまり科学的には考えない場合もあるんですけど、距離適性については今は遺伝子を検査したりして調べられたりもするみたいですよ」


最先端の技術を使えば、お金はいくらかかるかは想像できないけれどかなり精度の高い検査も出来るという事を知った時、僕は時代も変わったなと実感した。思い起こせばドリームインパクトの全盛期にも同馬が科学的に優れたフォームをしているという論文が発表されたという事もあったし、これからの生産はもっと効率的に行われてゆくしトレーニングにもその結果がどんどん取り入れられたりするだろう。大井さんは僕の話を興味深そうに聞いていた。


「そうよね。競馬にも科学はあるし、文化もあるのよね」


大井さんがしみじみと話していると細井さんが言う。


「でも、最終的には予想が当たるかどうかって面もあるからな。ネットでさ色んな人の予想を参考にするようになってるけど、不思議だなって思うのは当たる人は当たるって事かな」


競馬をする上でどちらの観点も必要だろうなと思う。まず競馬というものを楽しまないと労力に見合わないし、楽しむといっても全然当たらないと興奮もない。もちろんレースによって態度が違うという事も大いにある。この弥生賞にしてもキングリアの強さを見たいという気持ちもあるし、ライバル、エリアスピードの雪辱もあり得る。無敗馬たちの走りも見逃せない。実を言うと僕は今日馬券は買わないつもりだった。


「え…?タラちゃん買わないの?」


それを知った細井さんが意外そうに言う。僕は、


「このレースはハイレベルになりますからね、それに3歳のこの時期だと強さの関係がはっきりしないからちょっと怖いのもあってですね」


と答えた。本当はキングリアが勝つんじゃないかと思う気持も強いのだが、そういう風に応援し始めると足元を掬われるという展開が何度もあるせいか、どうも勝負に出にくい。


「そうか。俺もキングリア、ラウロ・デルーカを応援したいだけな感じもあるしなぁ」


そんな話をしていると本馬場入場の時間になった。パドックにも行こうと思ったのだが多分満員だろうからという理由でゴール版前の席で一番良い所で観ようという魂胆だった。今年のダービー馬もここから出るんじゃないかという期待からかガラにもなく柵の前に近づいて何頭か写真を撮ってみる。


「綺麗に撮れた?」


戻った時に大井さんは笑顔で迎えてくれたけれど残念ながらぶれている写真ばかりだった。そして熱気が増してきたところで準備が整って発走。一気に歓声が沸いた。




レースは意外にもキングリアが逃げる展開になった。ラウロの作戦なのか、どちらかというと抑えきれないようなスピードで先頭を奪うとそのまま結構なペースで逃げる。エリアスピードは良い位置で追走、その他の馬も完全にキングリアを目標にレースは流れる。コーナーでもまだリードがそこそこある。


直線、弾かれたように差を広げようとするキングリア。しかし他の馬も猛追する。エリアスピードが並びかけようとするところで外から一頭物凄い脚で伸びてくる!これはあのドリームインパクトと同じ勝負服の子、『マレビト』である!!


そのまま並ぶまもなく差を広げ快勝。タイムも2分を切る好タイムだった。観客もマレビトの凄い脚に若干呆気にとられていた。


「すげぇーーー!!」「やったー!」「くそー!!」


ゴールして一気に様々な声が飛び交う。マレビトは2番人気だったので当てた人も多いらしく、強さを信じた人にとっては良いレースになったと思う。



細井さんが小さく「あぁ…」と呟いていたのが印象的だった。おそらくオッズ的にキングリアの単勝を買っただろうからこれは仕方がない。


…と思いきや意外な事実が判明。


「え…?当ててたんですか?」


なんと細井さんは馬券を当てていたという。


「うん。いや、結果オーライなんだけど馬連の一番人気の馬券を買ったら1着2着の予想が逆だったけど当たったんだ」


なるほど、キングリアとマレビトの馬連なら馬券は当たっている。


「じゃああの「あぁ…」っていうのは何だったんです?」


この質問に対して細井さんが照れ臭そうに答える。


「いや、当たった事よりもキングリアが負けちゃったことがちょっとショックでね…自分でも意外だったわ」


大井さんは堪えきれないと言った様子で大笑いしている。そして、


「勇次は知らず知らずにラウロ・デルーカのファンになったんだと思う」


と一言。結果オーライという事も確かに競馬ではよくあると言えばそうかも知れない。
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