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ステテコ・カウボーイ⑦

早川さんは何を考えているのだろう。自分の事で精一杯だった頃から幾分生活になれてくると同居人というか自分の恩人についてもっとしっかり考えたいなと思うようになった。


「なんだか今日はじろじろ見てくるね…」


食事中に目が何度かあって、微妙に変な表情をしていた早川さん。けっこう綺麗な人だと思うけれど声がしっかりし過ぎていて近寄りがたい印象を抱いている。恋愛対象とかそういうものを越えていて、もうただこんなにしてくれるのが有難い。


「あ…やっぱり気になります?」


「まあ、見られるのはそんなに好きではないね。君もそうだろ?」


早川さんの言葉に僕は一瞬考えた。


「えっと…まあ気になるとか気にならないの以前という感じですね…」


「ん?どう言うことだい?」


僕は早川さんに説明する。早川さんは味噌汁をずるずる啜っていた。


「僕は別に他の人が僕についてどう思ってたって、言葉にしてくれなければ分からないと思うんです。まあ僕の想像がそもそもあっているかどうか分からないですし。あと、僕に興味を持つ人なんて…」


味噌汁のお椀をテーブルに置いて早川さんは一度何処かを見てからこう言った。


「持っているか持っていないかも、君には分らないんじゃないかな?」



確かにその通りだと思った。けれど、僕は興味を持っているなら何がしかのアクションをしてくれるはずだと思ってしまう。それが無かったからこそ、僕はもう…


「そうか。それが見捨てられた子犬のような表情の理由か…」


僕は答えなかったけれど、図星だった。誰にも相手にされていない、いや居ないのと同じだと思ってしまったのだ。それは絶望だったし、ある意味では気楽だった。


「両親は見ている筈だろ?まあ朝からこんな話をするのもどうかと思うけど」


「そうですね。僕の悪い癖が出てしまいました。そう、でも僕が早川さんの事をちょっと知りたいと思ってるのは僕自身良い傾向だと思うんです」


そう言うと早川さんは一瞬無言になった。その表情からは何とも言えないものが滲み出ているようにも見える。


「ふっ…照れ臭さ半分と、ちょっと困るなというのが半分だね。私は自分を自覚しているからね」


どういう意味だろうか?という間に早川さんは立ちあがって食べ終わった食器をキッチンに運んでゆく。


「あ、僕が洗っておきますよ」


「そうかい。ありがとう」


そうして早川さんは早々に仕事場に向かった。早川さんは順調に仕事をしていたけれど、午後ちょっとした異変があった。


「あー!!!ミスった!!」


仕事部屋から大声が聞こえる。仕事が完璧な早川さんにしては珍しい。こういう場合は行った方が良いのかわからないが、一応静かにしている方が良いだろうと思った。その時僕はネットの動画を見ていた。


「おい!あ…ごめん。そのコーヒーを頼む!!」


すると珍しく早川さんから頼みごとである。僕は動画視聴を切り上げ、「分かりました」と返事をしてせっせとコーヒーを作りはじめる。


「あぁ、ありがとう。やっぱり心を落ち着けたい時はコーヒーが必須だね」


「早川さんコーヒー好きですよね。しかもブラック」


「こういう苦味が安心するんだ。この位の歳になるとね」


「早川さんって何歳…ってかこれ訊いちゃだめだったですよね…」


失礼な話になると思って訊かないで置いたことである。というかネットで調べれば載っているかも知れないけれど。


「38」


「え…?」


「私の年齢だよ。まあもう若くはないね。職業柄自分の見栄えにはあまり気を遣わなくなってるけど、そろそろ男らしくなってきてしまったよ」


「え…」


僕は色んな意味で吃驚していた。あっさり教えてくれたのと、その数字が意外というか想像通りだった事と。


「うん…そういう表情で見られると私もどう反応したらいいか分らない」


「あ…すいません。いや、何というか」


言ったら気まずくなるような言葉が一瞬浮かんだ。まさか僕が「全然魅力的ですよ」などとは言ってはいけない気がする。かと言って何も言わないのは変だ。しばし思考して、


「あの、早川さんは自分にもっと自信を持って良いと思いますよ」


といった。だが、


「私は自分に自信を持っているよ。しっかり仕事も出来ていると思うしね」


と受け取られ困惑。


「いや…そういう意味で言ったんじゃ…」


「…どういう意味なんだい?」


早川さんも分っているのかいないのか。判らないような気もする。
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