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掌のワインディングロード ㉙

Y県のY市を後にした俺達は今度は電車でK駅まで移動した。K駅は丁寧に語尾に「温泉」という文字が入っている独特の駅で、独特の趣のあるY市と作りが似ていていかにも旅に訪れる地という感じがした。3月も末だったが、関東に比べればまだ比較的寒さの残る地域だとは思うがだからこそ「温泉」という響きは魅力的で、そろそろアラサーと意識しなければならない俺も無意識に歳を喰っているなと感じられたりもした。


Y市を去ってからの聡子は幾分リラックスした様子だったけれど、K駅は聡子にとっても見慣れない駅であるせいか駅を降りてしばらくはスマホの画面を見つめながら、


「えっと、ここからは…」


と次の行先を熱心に確認していた。


「ここ何にも無いし、やっぱりバスで移動だよな」


と一応念を押してみると、


「うん。そうそう、先ずはホテルにチェックインしないといけないから。タクシーでも良いんだけど」


という返事。タクシーというのは良い判断だと思った。聡子の負担も減りそうだし。


「あそこにちょうどタクシーが停まってるから、行ってみよう」


そのまま都合よくそのタクシーでホテルまで移動できる事になった。道に迷う事を考えればこちらの方が確実である。出発してみると予約していたホテルまでそれほど時間は掛からずタラちゃんが言うには、


「これくらいの距離ならぎりぎり歩けそうですよね」


だそうである。流石に歩きたくはないがいざとなったら歩ける距離というのは何かと都合が良い事がある。タクシーは予約していた大き目のホテルの前に停まる。道は途中から次第に「いかにも温泉街」という風情になってきて、ホテル自体も写真で見るよりも立派な建物のように感じられた。愛想の良さそうなフロントでチェックインを済ませ5階の一室に聡子と俺、もう一部屋にタラちゃんが入室した。みなすぐ荷物を置いてから再び集合しある意味メインの目的地へ出掛ける事にした。


「ここからはバスが良いみたいですね」


声が弾んでいかにも嬉しそうなタラちゃんは、その目的地を念入りに調べてきたようである。バス停からはタラちゃんに任せることにして、俺はスマホでそろそろメインレースの近づいてきた『JRAの方』の競馬の結果を確認しながらバスを待つ。


「今日って確か日経賞よね」


もはや意外でもなく聡子が普通に今日の中山のメインレースの名を唱える。


「ああ、この前観に行った有馬記念で勝ったブロンドアクターが楽勝するんじゃないかな?」


「同じコースだもんね。競馬ってギャンブルなのに不思議と『堅い』って事があるから面白いよね」


「オッズだってみんなが買った馬券が反映されているだけなんだけど、やっぱり人気の馬が勝つ可能性が高いって気がするしなぁ…」


その辺りの事情を読み解いていけばいくらでも上手く馬券を買う方法もあるような気もするけれど、この頃はとにかく買う要素があるかどうかを気にしたりはしている。


「僕はアースサウンドが逆転するんじゃないかと思ってますよ。一番人気はこちらのようですし」


タラちゃんがさらっと言ったけれど、確かにこのレースの一番人気は鞍上の事もあってなのか前走勝利したはずのブロンドアクターではなくてアースサウンドだった。


「私は多分みんな考えすぎだと思うよ。素直に勝った馬が強いって信じればいいと思う」


「確かに。俺も普通にブロンドアクターが一番人気だと思ってたからなぁ…」



そんな話をしているとバスが到着する。Y市と同じようにバスでの移動は景色が新鮮で、いかにも旅行に来たという感じを味わえた。ただ次第に目的地が近づくにつれ辺境に来たような様子になっていったので、本当にここに「それ」があるのか一瞬不安になる。最寄りのバス停で降り、そこからしばし歩く。



「ありました!!うん、なんだか変な感じ!!」



建物を見ただけでタラちゃんが妙にはしゃいでいる。それは競馬場跡の、いわゆる「場外馬券発売所」と呼ばれる場所だった。建物自体はこじんまりとしているが広い敷地で、駐車場には車も多く停まっている。一応スマホで写真を撮ったりしながら、看板の文字を読んでみて確かめる。そこで素朴な疑問。


「俺、いまいちシステムが分らないんだけど、ここってJRAでいうところの「ウインズ」だよね」


「ええ、そうです。違うのは地方競馬の馬券が買えるって事ですね」


「う~ん…もう私には分らない世界だわ…」


「大丈夫です。僕もそこまでディープな世界には「まだ」行くつもりはありません。でも、こうやって競馬に関係した場所を訪れて雰囲気だけを見てみると、いつもと違った風に競馬が観れるかもなって思います」


「中も凄いね…」



建物の中はいわゆる異世界。とにかく沢山のモニターにはどこかのレース、そして馬券を買う機械が置いてあって異様に男臭い空間。これは流石に聡子には厳しいと思ったので、何となく入口付近に置いてあった資料などを貰ったり、一通り周って外に出た。


「Y県にもこういう場所があるって事は本当に知らなかった。むかしは普通にこの近くでレースもやってたんだもんね」


「ってか地方競馬に興味がでてきたら絶対聡子は大井競馬場行かなきゃならんだろう」


「なんか話によるとあそこは夜のレースが観れるみたい。しかも最近お客さんが増えてるって話」


「競馬関係の場所を巡るだけでも全国ありますからね、旅のついでに観てくるっていうのは悪くないかと」


そんな話をしていたけれど、結局そこでは他に特にする事も無いのでまたバスに乗り、温泉街付近で降りてそこから『普通』の散策を始めた。ちなみにバスを待つ間にメインレースの結果が分かり、スマホから動画でレースを見てみる。


「有馬記念とほぼ同じですね。キタガワブルーが居なかっただけって感じで」


タラちゃんがそう評したように、勝ったのはブロンドアクター、そして2着にアースサウンド。そして3着だった馬が有馬記念ではキタガワブルーの後の4着だったから、完全に実力通りである。


「やっぱり素直に信じればよかったんだよ」


聡子のちょっと得意気な表情が印象的だった。
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