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掌のワインディングロード 35

4月も20日を過ぎ、世間ではゴールデンウイークの予定をどうするかなんてことが専らの話題で俺の場合は生憎と仕事が結構入ってしまったので少しばかり残念に思っている。もっとも、同居人であるタラちゃんとの別れが近づいている事もあり、今はとにかく後悔の内容に毎日を過ごそうという気持ちになっている。


そして土曜の夜、少し前から計画していた『お別れ会』とタラちゃんの為の『合コン』のようなものを兼ねて馴染みの店で俺達は集まった。とはいえ面子は俺達3人と妹の桜とその友人を一人呼んでもらっただけ。だが、この何気ないアイディアがちょっとした偶然を引き起こしていた。


「よ、吉永さん!?なんでここに?」


「え、加賀見くん?そっちこそ何でここに?」


それは早めに店で待っていた俺達の席に妹とその友人の吉永映見さんという女の子がやってきた瞬間の出来事だった。お互いに仰天した様子で名前を呼び合うタラちゃんこと「加賀見竜二」は吉永映見さん。妹の友人で俺は初対面だったし、当然「出会い」を提供しようというつもりで呼んだ吉永さんはなんとタラちゃんも面識があるらしいのだ。


「どういう事だ?タラちゃん説明してくれ!!」


慌ててタラちゃんに訊ねると、


「いや…僕もこんな事になるとは想像もしませんでしたけど、こちら吉永映見さんは僕の高校時代のクラスメイトで、当時そこそこ話とかしてたんです」


「あ。すみません、お兄さんとは初めましてですよね。私、桜さんの大学の友達で、で…そちらの加賀見くんの同級生だった吉永です」


「ああ、聡子からちょっと聞いているよ。今日はありがとうね」


俺の隣に座っていた聡子は既に吉永さんとは桜を通じて会っていて、その縁もあって今日ここに呼ぶことが出来たという経緯がある。もちろんこんな事になるとは聡子も予想してなかったので、


「タラちゃんと知り合いだったなんて…世界は狭いものねぇ…」


と呆気にとられたように呟いていた。とその一旦停まってしまった流れを桜が、


「まあ、立ってるのもなんだから座りましょう。あ、加賀見さん、私そこに居る人の妹です。よろしく」


と割とあっさりと受け入れて取り仕切る。流石にタラちゃんも桜とは面識はなかったようである。恭しく頭を下げながら、


「お兄さんにはとても良くしてもらっています。今日は宜しくお願いします」


と場を繋ぐタラちゃん。意外としっかりしている妹を見倣い俺もそこで当初の予定通り、今回の趣旨を説明したり乾杯などを準備し始めた。間もなく運ばれてきた各々の飲み物を掲げて乾杯をして和やかなムードが始まると、やはり話題はタラちゃんと吉永さんの関係について殺到する。


「加賀見さんのこと「タラちゃん」って呼んでるけど何で?」


特に桜はタラちゃんとルームシェアするようになった経緯などについても遠慮なく質問してくる。常識人ゆえ前々から心底不思議だったらしい。


「『もしかしたら』っていうのがタラちゃんの口癖なんだよ。だった、というべきなのかも知れないけど」


「なるほど。だから「タラ」なんだね」


ほとんど仲の良い友人のような気軽さで聡子は桜に教えてゆく。吉永さんもタラちゃんの現在について気になることがあるのか熱心に聞いている。


「あ、そういえば今年に入ってですけど一度吉永さんと出会った、というかちょっとすれ違ったというか…」


タラちゃんのその話に吉永さんが少し不満そうな声で、


「すれ違ったんじゃなくて、ちゃんと話したよ。加賀見くん」


と言う。微妙なニュアンスだが、多分吉永さんとタラちゃんはまさに微妙な関係なのだろうと思う。ただ傍目から見ている限りではぎこちなさがないし、むしろ…


「ねえ、勇次」


そんな時に聡子に耳打ちされた。そういう事はあんまりしないのでちょっとドキッとしてしまったけれど、内容で納得した。


「なんか吉永さんってタラちゃんの事かなり気になってる感じじゃない?」


他の人に気取られないように俺も聡子に、


「俺もそう感じてたところだよ」


と告げる。今や弟のような存在であるタラちゃんのこれからの事を考えると、この場を設けて正解だったなとちょっと思ったりしたのだが、肝心のタラちゃんが若干遠慮がちである。そして少し厄介なのが我が妹君。


「まさか吉永さんに会うとは思わなかったなぁ」


「ねえ、映見って高校の頃どんな娘だった?」


何でも詮索したがる性格がここでももろに出て、空気を読まず(?)二人の間に入ってゆく。



「え、すごく真面目で頭が良くて、明るかったです。競馬の話も結構聞いてくれたりして、話し易かったですね」


対して俺の肉親だからという理由で話し易い部分もあるのか、比較的スムーズに会話を続けているタラちゃん。その時、桜が「えっ?」という表情になった。


「映見ってそういう人だったっけ?」


「桜!ちょっと何でも質問し過ぎよ!」


妹の暴走を窘めたのは吉永さん。何だかんだで、こういう友人が居てくれるのは兄としても心強い。




まあこんな感じで終始話が盛り上がりっぱなしで時間が過ぎていった。そして次第に「お別れ会モード」になっていって俺はしみじみとこんな話をする。


「いやぁ、本当に3人で生活してて楽しかった。本当に別れるのが寂しいよ」


「僕もです。でも、勇次さんと聡子さんが背中を押してくれたから、もう一回頑張ってみようと決心できたんです。それは感謝しても感謝し切れません」


「タラちゃん…」


聡子も俺も少し涙ぐんで、今は凛々しく映るタラちゃんを見守る。色々話しながら今日に至る事情を知った桜と吉永さんも段々応援をするような気持ちになっているのか、


「頑張ってね、『タラちゃん』さん!!」


「加賀見くん、応援してるよ!」


と言ったのが印象的だった。あまり遅くなるといけないのでこの辺りで会をお開きにして二人とは別れた。そして3人で歩く帰り道タラちゃんが困惑するように、


「いや、今日は本当にびっくりしました。で、何か桜さんとも連絡先交換しちゃって、今こんなメールが届きました」


と言いながらスマホの画面を見せてくれる。


『今日は楽しかったですね。今度は映見と3人で集まったりしませんか?』


「ほぅ…」


俺としては別に桜がタラちゃんと仲が良くなっても構わないのだが、もしかしたら吉永さんとの関係を取り持つような気持ちなのだろうか?何にしても侮れないやつである。


「でも楽しかったね。私も何だか若返った気分」


と少し酔っているのか何か微妙な発言をする聡子。どうしてもしんみりしがちな時間ではあるが、俺も聡子と同じように本当に楽しかったなと思っていた。それと同時にこんな事を思う。


<今日みたいな集まりで、またいつかこんな風に楽しめたらいいかもな…>



そしてそれはそんなに難しくはないと思うのだ。
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