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「そうかい」感

『タリリ、リリナイ、タララ、ナイナイ』


そのアニメの中の絶妙に行き詰った場面で、突如覚醒して謎の呪文を唱え始めた主人公の少年。淡い光に包まれたと思いきや次の瞬間ドラゴンっぽい姿にメタモルフォーゼしているという、いかにもありがちな演出で視聴者である僕の心もにわかに踊り出したのを感じた。


「まあこうなったら安泰だろうな」


危機的状況からの大逆転は観ていて気持ちが良いもの。思わず心境が言葉になって出た。謎の集団に取り囲まれたままあえなく散ってしまうような展開は誰も観たくない。観たい人は嗜虐性が凄いと云うしかないとかいう要るのか要らないのかよく分からないフォローも、こうなったらもう事態を見守るしかないだろう。


変貌した主人公の必殺技と思われる大きく開いた口からの緑色の光線が雑魚っぽいキャラクターを焼き尽くす。悶絶しながら、


「くっそぉ…こんなところでえええ」


と断末魔の声を上げてその場に倒れ込んでしまった雑魚の姿を他のメンバーは冷や汗を掻くような顔で見つめている。<俺達もこんな風にあっけなく倒されてしまうのか…そ…そんな>という動揺が伝わる中集団の長と思われる人物はそこで、


『怯むな!!所詮はガキだぞ!!』



と団員を鼓舞し始める。普通ならここから無謀にも雑魚が挑んでいってほぼ全滅という感じになるんだろうと思い、まあそれも爽快感の要素とも言えるなと僕は思った。ところがどうもそこからの様子が『変』である。どういう風に『変』かというと、


『は?ガキでもあんな姿になったら誰でも逃亡するだろ?』


とどこかサブリーダーを思わせる強気のキャラが長に抵抗する。情けないがもっともだと思う。すると一人が「そうだ!」と言った瞬間に堰を切ったかのように他の団員がサブリーダーに同調し始める。その様子を忌々しげに見て、


『なんと情けない奴らだ!!』


と言ってしまったのが彼の運の尽き。


『そんならあんたが一人で戦えよ!』


という展開になってしまって半ばやけくそ気味に主人公に特攻してゆく長。勿論敵うわけもなく返り討ちにされて倒れ込んでしまう。そうなると余った人員は、逃げるが勝ちとばかりに一斉に森の向こうに…。



主人公が勝ったのは良いけれどどうも後味が悪い。呆気にとられてしまった僕は一度動画を停止して冷静にダイエットコーラを口に含む。<まあこういう演出も現代的でありなのかな…>と思い直したところで動画を再生する。



するとここで更に『変』な展開が…。


主人公が人間の姿に戻ったところまでは良かったのだが、何故か倒れていた2人の男がゆっくりと起き上がったのである。


「へ…?」


『へ…?』


主人公と僕の声が重なる。しかもあんだけ苦しそうに倒れたのに、やけに冷静に立ちあがったの見れば尋常ではない事が起っていると言うしかない。だが何故自分がぴんぴんしているか分らない男2人は見つめ合って首を捻っている。


『何で大丈夫なんだ?』


『さあ…?』


主人公もこうなると警戒した方がいいのか静観した方が良いのか分らなくなって身動きが取れない。


『とにかく大丈夫っぽいっすね。でも、また向かったところで同じように一時的に気絶させられたんじゃ勝ち目ないですし…』


部下らしい一言の後、面目をつぶされた長が重々しく頷いて、


『またあれを喰らったらとにかく苦しいのは確かだからな…』


と情けない一言。そして更に、


『それよりも問題は逃げたやつらの方だ。「吉岡」め…前から俺に突っかかってくると思ったらこんな時に謀反を起こしてきやがった』


とおそらくサブリーダーの名前を口にしつつ非難がましい事を言う。


『あ…そんな事があったんですね…』


真っ先にやられてその辺りの事情を知らない部下の男は『ご愁傷様です…』とばかりに気の毒そうな顔で長を見つめる。


『あ…あの…俺はどうすればいいですかね?』


この重苦しい沈黙に耐え切れなくなった主人公の少年が彼等に訊ねる。


『ああ、まあいいよ。ここからは大人の事情だ』


『いいか、坊主。幾ら道を踏み外したからって規律を乱すのだけはやめとけよ。逃げたやつは後でもっといやな目に合うんだから』


斬新な台詞を吐いて静かに歩いて森の中に消えていった2人の男を見つめている少年、と画面の外の僕。



後日僕はこのアニメを肴にして友人と語らい合っていた。



「いやね、ああいう現実的なところをファンタジー世界で見せられると確かに面白いんだけど、そりゃあねそれこそ子供の世界に大人が介入している極端な例だと思うんだよ。そもそも視聴者と製作者のメタファーというかさ」


「まあそうだけどテンプレートな悪役の方が不気味という解釈があるからな。バイ〇ンマンみたいに純粋に意地悪するだけの存在の方がもしかしたら異例だったんじゃないのかな?」



盛り上がったのは良いけれど、「爽快感」を売りにしているらしいこのアニメのコンセプトには疑問符を付けざるを得ないのであった。むしろ「そうかい」と言いたくなる感覚と、誰が上手い事を言えと。
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