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超絶

ある日むかし頻繁にやり取りしていた友人から謎のメッセージが送られてきた。

『今からそっち行くからとにかく準備しておいて』


部屋で一人「へ…?」という声を出して呆然とする私。これでは要件が何だか分からないし、しかも急に来るっていうし色々困っちゃうよと思っていたけれど、考えてみれば大して遊びもせず地味な仕事に明け暮れていた日々に休憩地点のように訪れた連休だし、その友人ともそろそろ近況報告をしなきゃと思っていた頃だし丁度良いかなと割り切ってしまった。その子は今どき珍しく純粋で裏表がなく、一緒に居て気持ちのいい人だからこの位の「無茶」は別に何でもないなと思ったくらいである。


「じゃあ、まず部屋片付けないとな…」


とぼちぼち掃除と整理を始めて半分くらい済んだところで再びメッセージが届く。


『ごめん、もう着いた』


「は…?」


私は目を疑ったけれどその次の瞬間、ピンポーンと呼び鈴が鳴って訳も分からず慌てて玄関の方に向かった。


「やあ…急にごめんよ。ちょいと相談に乗って欲しいの」


確かにそこには友人の姿があった。言葉からも感じられるようにどうやら慌てているらしく、落ち着きのあるイメージだったその人のあまり見た事のない様子に私は少し身構えて、


「ま…まあ落ち着いて…。今部屋整理してて、私は大丈夫だけど」


と少し心を落ち着けて言う。


「あ…うん。ご、ごめんね」


それでどうやら彼女も冷静さを取り戻したように見える。そのまま少し玄関で待ってもらおうと思ったけれど、この場合は誘導した方が良さそうだなと思い、部屋に招く。


「おじゃまします」


とりあえず部屋の一角に座ってもらう事にして、私は最低限の片付けをしてお茶などを用意する。けれど次第に彼女が気ぜわしくなってきたのが感じられて、先ずは会話を優先にと切り替える。腰を降ろした私の顔をじっと見つめて、何か「う~ん、どうしようかな…」とかなり迷っているらしい相手。<こりゃあ、何か大変な事があったな>と最悪の事態を想定してどう対処しようかなと自然にシミュレーションが始まっていた。そして重々しく口を開いて彼女の出てきた言葉は…


「私、付き合う事になった」


彼女の様子に比べると幾分拍子抜けする話で思わずキョトンとしながら、


「え…?そうなの?」


と訊き返してしまう私。普通にめでたい話だと思うので、


「あ、おめでとう。で、相手どんな人?」


とそこから自然な会話が始まる。


「多分…男の人」


「多分…?」


この微妙な「副詞」は何を意味するのだろうか。意図は分からないけれどちょっと慌ててるのかなと思い、


「そうなんだ。歳は?」


と相手から情報を引き出すように質問してゆく事にする。すると友人はその質問にも、


「うんと…人間で言うと40歳位なんだって」


「人間で言うと?」


またしても余計というか、謎な情報が混入する。<もしかすると年齢不詳で怪しい人と付き合う事になったのかもな>と真面目に推理して、


「あのさ、友達として言っておくけど、身元が怪しい人はちょっと考えた方が良いよ…あと結構年上だからその辺もさ…」


と予め自分の憂慮を彼女に伝えておく事にした。すると彼女は一瞬キョトンとしてから、はっと気づいて首を左右に振って、


「あの、その辺りは大丈夫なの。というかはっきりと見せられたから分ってるんだけど、相手がもともとそういう人…っていうかそういうちょっと特別な存在で…それをどう説明したらいいのか、分らなくて…」


という風に落ち着いて答えてくれる。でも私は逆にこの答えでますます分らなくなって、


「え…どういうこと?ん…?」


と非常に困惑してしまった。無理もないと思う。友人も困り果てるように「う~んどうしたらいいんだろう…」と唸っていたけれどその後、凄く意を決した様子で


「一気に説明する方法がないわけじゃないの。というか『百聞は一見に如かず』っていうのが当てはまるような事で…聡美が大丈夫だったら、すぐここに呼べるの」


「あ、なるほど。直接来てもらうって事ね。でもね…」


私は大丈夫だとは思っていても、どこかで尻込みしてしまう。というか仲の良い友達の頼みだからって知らない人を急に家に上げるのも普通なら抵抗があるし、それに相手の人にも悪いような気がする。


「ほら…相手の人も大変でしょ?」


こういう風にやんわりと諭すつもりだったけれど彼女は妙にはきはきと、


「ううん。その辺は全く問題がないの。っていうか、彼の口癖が『いつでも呼んでくれ、すぐ駆けつけるから』だし」


と答えて、しかも何処となく嬉しそうである。まあそんなにこの友人の事を想ってくれている人ならば若しかしたらここに直接来てくれる態度から安心できる面もあるのかなと臨機応変に思い直して、


「じゃあ大変だとは思うけど、呼んでみてよ」


と穏やかに伝えた。すると「うん、じゃあ呼ぶね」と言ったと思ったら突然彼女は両手を天に掲げるようなジェスチャーをしながら、


『いでよ、我が眷属…【カイザーレクイエム】!!!』


とかなり大きめの声で叫んだ。友人ながらこの豹変ぶりに<何だこいつ>と戦慄しかけたところで、私は気付いた!彼女の足元に謎の魔方陣が顕れている事を!!そして、次の瞬間発光し始めたと思いきや目の前には長身でタキシードを着こんだ異様に日本人離れ…というか人間離れした美形の男性がぬっと立ちあがって存在していたのである。



…何を言っているのかよく分からないと思うけれど、文字通りの事が起ったのだ。多分だけど私が思うに、この話は一旦ファンタジーとして素直に受け入れてもらった方が良いと思う。私も気絶しかけたけど、とにかく本当に本当で、本当の本当なんだから。



「…あ…あああああああああ」



絶句から我に返って近所迷惑になりそうなのも堪えきれず、大声で叫んでしまった私。対照的に友人は全く落ち着いて、その突如出現した彼の方を見て微笑みかけながら、


「ごめんね、『悠太』…急に来てもらっちゃって。今大丈夫だった?」


と普通の恋人に話しかけるように話しかけている。対してその『悠太』と呼ばれた男性が、


「舞。流石にこれじゃあ吃驚させちゃうんじゃないかな?もっと穏便なやり方があったと思うんだけど…」


とこちらも自然に受け答えをしているのを観て、私はスッと普通の感覚を取り戻しつつあった。やや微妙な気分にさせられる事に、その後お互いに手で触れ合ったりのスキンシップを見せつけている(?)事である。相手の正体は分からないけど『恋人同士』という事はこの上なく分かる。私は少し深呼吸して、


「お取込み中申し訳ないんですが…。是非補足説明をして下さい。」


「あ…ごめんね」


そして友人から聞いた話はまさに最初に彼女が説明した事を肉付するような情報で、要するにさっきの呪文にもあったように彼…『悠太』は友人の「眷属」なのだそうである。『ちょっと色々あってね』と説明を端折られたけれど、カテゴリー的には「カイザーレクイエム」という正式名称の『魔人』を友人は使役できるようになったそうである。


「その『色々あって』のところは追々説明しますので」


と『悠太』くんが丁寧に付け足してくれる。それで何でその『魔人』が『悠太』と呼ばれ、そして友人と付き合うようになったのかは…


「うんと、よく男女関係であるように「成り行き」かな」


という非常にざっくりした答えだった。妙にスケールのデカい話と等身大の話がごちゃ混ぜになって、私は終始困惑しっぱなしだったけれど、悠太くん(私はもうそう呼ぶことに決めた)が同い年くらいの好青年にしか見えない事と、とにかく人見知りの気があった友人がすっかり心を許して仲睦まじく過ごしているのを見て…見せつけられて、私は余計な事を考えるのを辞めた。で最後、友人にこんな事を言われた。


「今日来たのはね悠太を紹介したかったからなんだけど、聡美が彼氏募集中って話をずっと聞いてたから、こういう感じの人なら紹介できるんだけどって思ったの」



「こういう…感じですか…」



勿論、私は少し男に飢えているところもあるけれど<流石に人間じゃない人はなぁ>という良識がある。ただ、目の前の超絶イケメンを見ていると、


「そういうのも悪くないのかもね…」


と揺らぎ始めているのだった。
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