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ぎりぎりに虹

心持ちというぐらいの少し残念な事があった日にはすぐ気を取り直して目の前の事に集中するか、それともそれなりにテンションを下げて続けるべきか、なんてことはさして重要でもないけれどあんがい大事なんじゃないかと思えてきた昨今。侮れないコンビニのボリューミーな弁当を次々に口の中に詰め込んで、茶葉が厳選されているらしいペットボトルのお茶で流し込む。



完食したら壁に身を持たせかかるようにしゃがみ込んで、俯きがちにテーブルに置いてあった今朝の広告チラシを見つめる。『半額』という赤く太いフォントが目に付くけれど、そこまで気になっているとは思えない。


「『半額』のどこが偉いんだろう。むしろそこまで割り引いとけばもう文句言わないでしょ、とか思ってんじゃないの」



静かな部屋にポツンと現れる誰に言われたわけでもない一言。それがもう気にしていないつもりでも憤っている事の証のような気がして、「いかんいかん」と首を何回も振ってそれ以上考えない事にする。


<たかが休止じゃないか。またすぐ活動が始まるって>



心の中でそう言い聞かせるように今はネット上の嘆きに同調しない事を決意した私。それでも好きなアーティストの突然の活動休止というのは思ってもみないダメージがあるんだなとひしひしと感じている。今日活動休止を発表した『ナナ・レインボウ』というちょっと変な3ピースロックバンド。ネットのニュースで流れてきて不意打ちされるようにそれを知ったファンも結構いるんじゃないかと思う。彼等の曲は「広く」受け入れられているわけではないけれど私のように少数派の人にとっては日々の清涼剤で、いい大人なのに何だかいつまでも中学生のようなノリでちょっとひねくれた曲を本気で届けてくれる彼等の事は、本当に遠くからだけどずっと見守っていたような気がする。



『休止するのはいいけど、ボーカルの【限界を感じました】っていう発言はどうなの?』


『これもう、ずるずると解散のパターンなんじゃない?』


『とにかくすぐ戻ってきてほしい』



ツイッターで少数のファンのコメントを確認してみて、こういう時こそやっぱり私以外にもファンが居るんだなって思えるのはいいけど、状況が状況だけにとにかく私にとっては少し残念な事には違いなかった。そして少し悲しいのは、このニュースを残念に思っている人もそんなに居ないだろうなという事。検索してみると圧倒的に、


『誰それ?』


が多くって、彼等に『こういう人たちをぎゃふんと言わせる気持ちはないの!?』と檄を飛ばしたくなる。まあ私が言ったってあのひねくれた人達の事だから気変わりする事はないだろうなと、勝手に脱力してしまった。でも、今さらながら彼等のそういう「ちょっと脱力している」ところが好きだったのかもなと思った。



「でも、本当に力が入らなくなるのは違うんじゃないのかな…」



考えないようにしてもついつい考えてしまう。こういう時は少し散歩するのが良いと思い立った私は玄関の安っぽいサンダルを引っかけてほとんど部屋着同然で外に出る。夏の匂いも漂いはじめた5月の末、空はすっきり晴れ渡っている。太陽も眩しいくらいで、ちょっと日焼けしそう。



特に行先を考えていたわけではないけれど、近くにある自販機のところまでとりあえず歩いてみた。最近飲んでいなかったメロンソーダが妙に恋しくなって、130円を投入して買ってみる。開けて飲んでみて「こんなに濃かったっけ?」って最初に思ったけれどすぐ慣れた。ここまでだと気晴らしにもならないのでそこから少しだけ歩いて町の小さなCDショップまで。入店すると、


「おお、彩里」


と店主に声を掛けられる。何を隠そう、この店は私の親戚が経営している店なのだ。親戚のお兄さん、からおじさんにチェンジし始めている店主は一人暮らしをしている私にとっては既に近所のお兄さん的な立場になっていて、時々音楽の話もしたりで結構お世話になっていたりする。


「和人さん。ニュース見ました?『ナナ・レインボウ』」


「え、何かあったの?」


「…休止だってさ。活動休止」


「ほぇ~、そうだったのか。知らなかった」


『ナナ・レインボウ』自体は私が和人さんに教えた側だから知らなくても仕方ないけれど、流石に知っているだろうと思っていた。少し気を取り直して半ば愚痴るように事の顛末を説明すると、「うん、うん」と頷きながらしっかり聞いてくれる。話し終ると一言、


「しゃーないよな。どうしても同じことだけやってても行き詰る時が来るもんだから」


「でも、あの人達っていっつも『行き詰ってもそこから何とかしよう』っていう曲を作ってたからさ…」


「確かに、本人たちが挫けてたら話になんないよな。ははは」


朗らかに笑う和人さんを見て、<そうだな>と思う一方で妙に癪に障る。


「それは言い過ぎじゃない?」


知らず知らずフォローしてしまっている私は本当にファンなんだなと実感。その時私は心のどこかで彼等がそういう選択をした事について理解できている部分がある事に驚いていた。その言葉を引き継ぐように和人さんが、


「確かに売り上げとかもギリギリだったってのはあるからな。その中でモチベーションを維持してゆくのは大変だ」


と納得するように語る。


「でも…」



私はそこまで口にして、先に続く言葉が出てこないのに気付く。「でも…」だからなんなんだろう。そこから何が出来るというのだろう。


「うん。あっと電話だ。ちょっと待ってて」


和人さんが受話器を取ってで通話し始めたところで私は習慣で店内のCDを少しづつ物色してゆく。私のお願いもあってか置かれている『ナナ・レインボウ』のCDの場所をちょっと確認しつつ、一通り見回ったところで「彩里ちゃん!」という声がして和人さんが手招きをしているのが分った。慌てた様子だったけれど、何か伝えたい事があるらしい。



「今電話あった件の話なんだけど…なるほどね、考えたね。『ナナ・レインボウ』」


興奮気味に話す和人さんを見ているとどうやら良い話題のようだ。


「どうしたんですか?」


「ほら、うち『インディーズ』扱ってるでしょ?そこに『レイニー・バカンス』っていうアーティストがCD置かせてくれないかって今連絡来たんだよ。でも今連絡してくれた人ってメジャーレーベルの関係者なんだよな。そういう話って珍しいだろ?」


「うん。でもそれが何の関係が?」


「こういう話を聞いたことない?アーティストが活動休止中に、ひっそりと別名義で活動する事があるって。ちなみに連絡くれた人は『ナナ・レインボウ』があるレーベルの人だよ」


「え…?もしかして?」


「名前も関係しているように見えるんだよな。俺は。虹と言えば雨、雨といえば「レイン」。つまり『ナナ・レインボウ』の奴らがその名前でインディーズの曲をひっそりと出してみるんじゃないか?」


「そ…そんな事って。でも確かに…」



その日は半信半疑のままだったけど、後日和人さんから『レイニー・バカンス』のCDが入荷したとの連絡があって行ってみると店内で知っているような知らない曲が流れていた。


「今流れてるやつだよ。ビンゴだったろ!ジャケットでは変な格好してるけど、音は彼等の音だ。」


「うん。間違いない。でもなんか…」


「そう…こりゃ『実験』だな。だいぶはっちゃけてる曲もあって、これはメジャーでは出せんな」


「なるほど…」


『わざわざ何でこんな事を?』という疑問を口にしそうになったけれど、和人さんが説明してくれたことが本当だとするなら疑問なんてない。まさにその通りだったのだ。



「『レイニー・バカンス』。考えられている名前だよ。休止を「バカンス」として、たぶん「雨」の後に虹が架かるって事を信じてやった事なんじゃないかな。少なくとも俺は評価するよ」



私はその時あの3人がまた中学生みたいな「ノリ」でこういう事をちゃっかり始めちゃったんだろうなと思うのであった。
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