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ステテコ・カウボーイ⑪

10時を少し過ぎた頃、早川さんと「そろそろかな」と待ち構えていたちょうどその時にピンポーンというチャイムが鳴る。すぐに、

『ごめんくださーい。わたしよ』


と先ほど電話口で聞いたのと同じ声が玄関に響く。早川さんはちょっとした用意があったようで対応を頼まれ、少し緊張気味に玄関に向かう。玄関でロックを解除してドアを開くと僕は目の前にいた女性の姿を前にとある理由でしばらく硬直してしまった。女性は不思議そうに僕を見ていたが、たぶん僕が慣れないことに戸惑っていると解釈したものと見え空気を読むように破顔して、


「初めまして。春日と言います。真紀は中にいますよね?」


と親しげに語り掛けてくれた。僕もここでさすがに我に返って、


「あ、はい。いまちょっと用意しているみたいなのでリビングに案内しますね」


と対応した。この女性、春日さんは子持ちとは思えないほど若々しく、服装も早川さんと比べると明るめのコーディネイトでより洗練された様子に見えた。慣れていない僕には異様に高級感を感じさせる真っ赤なブランド物のバッグが、どこか住む世界が違うという事を意識させるが、他方で玄関から移動する際にも妙に距離感が近く気取ったところがまるでない様子なので親近感も感じるという不思議な感覚を味わうことになった。



リビングで早川さんが出迎えてくれる。久しぶりの再会を喜び合う二人。僕はさっそく立ち位置を見失いそうになるがすぐに早川さんが僕のことを春日さんに紹介してくれてそのままの流れで一同はテーブルに着席する。そこには早川さんが用意していたお菓子とコーヒーが置かれていた。


「本当に久しぶりね。元気してた?」


「元気にしてたよ。咲枝も元気そうだね」


春日さんは僕のいることを特に気にすることなく会話を始め、懸念していたような気まずい思いをすることなく自然に三人での雑談になる。主に早川さんの日常について僕が証言するように話して、逆に春日さんの事は時々早川さんが僕に解説してくれるので話に取り残されるという事はない。全然困ることはないはずなのだが、女性が二人で話していると休むことなく会話が続くのでその情報量で僕の頭はパンクしそうになる。


「へぇ~そうなんですか…」


話がなぜか春日さんの姑に対する愚痴になりかけて『結婚しない早川さんは賢い』という結論になりかけた時には僕もさすがになんといったものか分からなくなった。さすがに早川さんも表情をうかがうに面倒くさくなってきたのか、


「それよりさ、咲枝はこの金成くんについて何か思うことはないの?」


と話を強引に僕のことに持っていこうとする。



「え…?何かって何?」



春日さんは不思議そうに僕を見つめる。じっと見つめられたので、やはり恥ずかしくなってしまうが僕はなるべく穏便に済ますために


「あの早川さんの紹介にあった通り、僕はその…アシスタントのようなものです…」


と彼女をフォローする。しかしながら春日さんは驚くべき発言をした。


「え…?アシスタントという体で同棲してるんじゃないの?」


「は?」


「は?」


絶句してしまう僕と早川さん。その様子から何かを感じたのか春日さんもきょとんとしている。場に訪れる沈黙。僕はそれを打ち破るように、


「えっと、僕と早川さんはそういう関係ではありません」


と訂正する。だがそこで早川さんが、


「わたしとしては主夫のような働きをしてもらいたいと思っているけど、同棲ではないな」


と本音だろうけれどややこしい話をするので春日さんが疑るような眼で僕を見始める。このままでは埒が開かないと思い、僕は早川さんに出会った日のことをなるべく丁寧に説明し始めた。こうやって誰かにあの日のことを直接説明するのは地味に初めてかも知れない。早川さんもそれを神妙な表情で聞いている。


「…というわけです。僕は絶望したあの日、早川さんに拾われたんです」



亡くなった女優『川相那津子』のことは話しづらい理由があったのでぼかしたけれど、なるべく詳しく説明したため、聞いている二人は時々うんうんと親身になってうなづいてくれているようだった。僕の説明が終わって春日さんが言う。


「なるほどね…まあ若いから、どうしたらいいのか分からなくなくなっちゃうことってあるよね…」


それに対して早川さんは、


「この金成くんという人を甘やかすわけではないんだが、虚無感というのは根が深い場合がある。独りで抱えてしまう人ほど、どうしたらいいのか分からなくなる。最後は自分で決めなければならないとしても、どうしようもないときはどうしようもないものさ」


とどこか穏やかな表情で僕を見つめながら語る。早川さんの理解に少し感じ入って胸が熱くなってくるけれど、僕はそれだけではなく春日さんの視線に何かを貫かれているような気がした。もちろんそれは不純なものではない。むしろ春日さんが…似ているせいで、そう感じてしまうだけなのだという事は僕が一番よく知っていた。



そう春日咲枝という女性は『川相那津子』という女優に似ているのだ。年齢も違うはずなのに、何かがダブらせて見せている。




2時間ほど滞在した春日さん。天気がいいのもあって早川さんは春日さんと近くで食事をすることになった。春日さんにしてみれば、


「こういう機会でもなければ、お昼に外食なんてあんまり出来ないから」


という理由があるらしく、かなりお洒落な店でランチとのこと。さすがにそこは場違いな感じがして僕は遠慮することにした。玄関で見送っていると、


「金成さん。真紀のことをお願いします」


と最後に春日さんに頼まれた。どういうニュアンスなのかはよく分からないけれど、


「分かりました」


と僕は了承する。


「真紀も金成さんの事、お願いね」


春日さんが早川さんに念押しするようにそう言ったことは、僕を不思議な気持ちにさせた。
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