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楽しく踊る

世界を少しはマシにしたい気持ちは退屈さのなかでふつふつと湧いてきて、暇つぶしで世の中をよくしてゆこうと思いかける頃に、大抵げんなりさせるような出来事がこの身に降りかかる。常に同じ味が期待されるカップ焼きそばを咀嚼している間に次にしたい事が見つかって、ついさっき考えていた事はどこかに消えてしまう。消えてしまったことに気付いているけれど、消えるのも仕方ないなぁと当たり前のように思う。


結論から言えば踊らされているのだろう。そして踊らされているのを承知でなるべく自分らしく踊るのだろう。



なんという名言だろうか。<これ以上の名言はないぞ>と心の中で訴えている主人公気質の誰それが別なテンションで、


『いい加減に水を飲んだ方がいいぞ』


と的確なアドバイスをくれる。そうだった、と麺が詰まりかけた喉に水を流し込み嚥下すると何故だか妙な安心感に包まれる。ふぅと一息ついて上方の円形の時計を見ると針がきりのいいところで止まっている。


「こうなったら予定を変更して昼からも出掛けるのがいいのかな」



なんて誰に確認するわけでもなく言って自分の気持ちを確かめる。遠くには出掛ける気はないけれど出来るだけ遠くに行きたい。高々と聳えるあの山は越えやしないけれど、せめて違う所から山を見てみたい。いやそれは相当捻ったものの言い方で、実際はいつか買おうと思ったものを今日買ってしまおうという、ただそれだけなのである。



食べ終わるや否やそそくさと立ち上がって「こんなところに居ては勿体ない」とさっさと準備を始める。もう夏と言ってよいのか分からない天候に合うコーディネートも難しいので、なるたけ早く無難な服を選んでおきたいところだと少し意識しつつ、自分が欲しいものが何だったか思い出しながら出掛ける。



『欲しいものとは?』



それは非常に難しい問いである。明確に欲しいものが浮かんでいるわけではないが何かを欲している。その気持ちが満たされたら欲しいものが手に入ったという順序で片付いてしまっていることもあるのが実情ではないか?



『欲しい』というココロを見ないようにすれば見ずにいることも出来る。つまりそれは我慢と呼ばれる静かな行為で、見ないように目をどこかに向けさせる事が出来るのなら、もはや『欲しい』という事すら忘れてやしないか。



ふつふつと湧き上がってくるものは、やはりいつかの自分が『欲しい』と思った事の証明で、今日みたいな暇さだと追い払うことも出来ない、という事が真実なのかも知れない。だから何なのだろう。結局欲しいから買いに行くだけではないか。



稀にある「これは買わなきゃダメだ」という感覚。到着した小さな書店にて激しく反応しているその感覚が「2500円」は高いのか安いのかという金銭感覚と正面から衝突している。


<予算を考えろ!給料日まであと何日だ?この間も買ったばかりだろ?>


<ここで買わなきゃ絶対後悔する。買わなきゃ中身は読めない。お前が欲しているのはこの本だ!!>


どっちも勝手な事をぬかしやがって…選ぶのは俺なんだぞ、と対立する両者に文句を言いたくなる。どちらも満足するようには出来ない案件なのだろう。確かに本の中身は知りたい、自分で確かめたい。けれど昼食ですらケチり気味の自分が咄嗟の判断で買うレベルの良書だという確信がない。いや、本当は良書だという事は分かってはいる。でも…でも…



「その本、おススメですよ」


のんびりした性格だと思っている店主がシンプルにそれだけ言って本を薦める。店の中には高校生くらいの女の子が椅子に座って何かの本を読んでいる。いつもそこにいるのでおそらく店主のお子さんなのだろう。静かでいい店だが「静か」な事は店にとっていい事ではない。こういう店は儲け度外視でやっているんだろうなと想像するけれど、ようやく常連っぽくなってきた自分にはあまり深入りしないほうが善いという判断が固定しつつある。


「元来ノンフィクションが好きなんですけど、こういう本格的な小説も悪くないなって最近思えていて、でもどの作家がいいのかちょっと分からなくて…」


やや独り言に近いトーンで店主を意識しながら言うと、


「まあ小説は基本的に作られている話ですからね。読者としては物語の展開に踊らされていて、術中にハマっていられるならその方が楽しいですよ」


店主の発言になんとなくシンクロニシティ的なものを感じつつ、


「やっぱりなんかどんでん返しがあるんですか?」


と素朴に聞いてみる。すると人のよさそうな店主は困り顔で、


「う~ん…」


とだけ言う。こういうタイプの人は誤魔化そうとしても誤魔化せないもんだなとどこか納得して、今回は作家の手に踊らされてもいいかなと思った。


「ありがとうございます」


会計を済ませると、先ほどまで服を買おうと思っていたことがどうでもよくなってきた。いや、書籍を購入した時点で服は今日じゃなくなるだろうなと思ったけれど。ただ何となくこういう自分の行動すら、手の内なのかなぁと思えてしまう。




だとしても、自分はやはり自分らしく踊るのだ。多少はみ出たり、踏み外しそうになりつつそれでも、楽しく。
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