何処かに何かを
『何処かにある何かを探して』、そんな気分でさすらう。分かり切っている事は今日も変わりなく順調で、リアルタイムで更新されてゆくトレンドは今日という日を歴史に刻み付けようとしているようにも見えてくる。雲がそこそこ薄く掛かる空の青はどこか透明な色にも思える。
どこからか風が流れてくるようなイメージの曲をBGMに車を走らせる。出来るだけ遠くに行こうとしても、多分目的地を僅かに越えるくらいだろう。やっぱりルートは決まっていて、穏やかな休日の時間を気にせずに過ごせる、ちょっとの『時』を景色と一緒に吸収する。
語り部のいない世界はこういうものなのかも知れない。流れてゆく時と景色、移り変わり、気付けば『ここ』までやってきてしまっている。『ここ』で隣に乗っていた人が、指さした。その人にとって思い入れのある場所だという事で、僕は記憶させられた。その記憶が妙に主張してくるけれど、それ以上に何かを感じるという事もない建物は、それでも目印になっているかのよう。
こんな風に坦々と過ごしているうちに秋は曖昧になってゆく。秋というよりは早い冬。冷え冷えする朝に、からっと晴れる日。情緒を感じている自分をまた遠くで見ているような自分があって、たぶんそれが何かを探しているんだろうなと、そう解釈するのが正しいと感じる。親しい人の言葉から今の心境に相応しいものを取り出してくるようにちょっとだけはっきりしたものが過る。
全てがこの世界にあるとは思わない。けれどこの世界はすべてである。無茶苦茶なようであって、結構まともな意見だろう。少なくとも可能性が広がっているように感じられる今という時、それが忘れていた何かを取り戻させる。
朝僕はこう思ったのだ。
『帽子を買いに行こう』
いつか誰かと一緒にその店を訪れた時、帽子を買いそびれてしまった事があった。『似合わない』と言われたからだけれど、今ならもしかして似合うようになっているかも知れない。少し大きな頭に合う帽子は意外と少ない。
思い付きのようでいて、ずっと欲しかったものを買いに行くようで。
少なくとも僕の中の何かは変わり始めている。今の僕にはそれが頼もしく思えている。そのあと、もしかして上機嫌な僕は何処かに何かを探しに行くかもしれない。