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もっと前に

マイケル3世:「私の馬鹿丁寧な説明なぞ、誰の役にも立たないでありまして。だからして私は自前の仮説に乗っかって、不親切に漂っていれば良いわけでして。そうなった私はきっと、この世の冬を謳歌しているようにしか見えないわけでして。」


その時伯父は、風鈴を弄りながら背丈が今の2分の3程度しかない僕に微笑みかけた。彼の面白しさは、一切後ろを振向かないところにあった。その理由を訊ねると、優しさに満ちた眼差しで『我が美徳として、そうしているのであ~る。』と答えてくれたが、これは彼の常套句であった。いまでも、この口癖が耳の奥に残っている。



Mr.ケロッグ:「話を、聞いてマスか?ユー!!」


「はっ!!え…。あ、いや…。その。」


Mr.ケロッグ:「困りマスねぇ。ユーはこの支店を任されているのだから、本部の通信にはしっかり応じてもらわないと。50店を同時にモニタリングしている私の身にもなってくだサイよ!」


「はっ…はぁ。すいません。」


Mr.ケロッグ:「監視が厳しいというけれどもさ、これには客の防犯の意味もアルのだよ。そこんところもお忘れなく。じゃ。」


最近チェーン展開し始めた「元祖リベラル屋」。ジェンダー大陸店、支店長に就任した僕でさえ『何か良く分からないもの』ばかりが売られている店だ。ジェンダー大陸とは、数百年も昔から深刻化し始めた地球温暖化現象の為に、ユーラシア大陸が分断されてしまって、ここ数十年のうちに新たな大陸として認められた大陸の一つである。


元祖リベラル屋については「アンティークショップ」に当たるものと思われるが、今となっては利用する手段がなく完全に非実用的となった商品を主に扱っているため、時々歴史マニアか学者が大量の資料と供に現れては、バーチャルな世界の『仮想対象』を購入するか、『実物』を買い取ったりする。もっとも、断っておいたように実用価値の無い商品だからして、基本的に客は実物を買い取って持ち帰る為にこの店を訪れ、僕も商売の原点に立ち返り、その人に手渡すという面倒な動作を行わなければならない。このご時世、仮想対象でない実物は、精々緊急時のバックアップの役割くらいしか果たして居ない。



ただ、仮想空間も普通の空間と同様に、そこに詰め込めるものには容量による限界があり、扱いにくい対象は初めから読み込まれもしないので、こうして実物を保管している『店』にも意義があるのだ。


基本的に全ての実物は仮想対象にして本物同様、時には本物以上に扱えるが、食料やエネルギーについてはそうも行かない。どんな人間も、サイボーグ化を選ぶか、僕のようにジェンダー大陸に移って生身の生を選ぶしかない。要するにエネルギーと効率の問題で、腹が減ったり、トイレに行きたくなったりするたびに仮想空間から抜け出すという行為が馬鹿馬鹿しく思えてくると、いっその事、肉体についての心配をする必要の無い状態にしたくなる。一時期、それなら脳だけを残せばよいという話にもなったようだが仮想空間も案外脆いものなので、点検の為、物理的に移動しなければ困る事もあり、サイボーグ化で落ち着いている。




先程通信があった本部は、ジェンダー大陸には無い。ところが、データを集めて仮想空間としてこの店を再現すれば、サイボーグとして生まれ変わったMr.ケロッグのように、そこから僕を監視する事も可能なのである。ただ僕は未だに、この世界に注意を向けながら仮想世界の通信を受けるという事に不慣れである。やはり、どちらかに集中していたい。



僕達現代人にとって、20~21世紀辺りの歴史には余り興味が無いのが本音である。それはまだ古き人類の歴史であり、生命観、倫理観からして今と非常に喰い違っている為である。それよりは、およそ千年も昔に人体の機械論を唱えたとされるデカルトの方が馴染み深いように思われる。ところで、ここにある奇妙な商品の殆どが、20~21世紀頃のものなのである。


「その頃の人間は、きっと血迷ってたんだろうな。なんだ、これ?」


僕は独りごちた。
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思いもかけない事

 こんにちは。
 仮想空間が生活の大半を占めるとしたら、それはもはや仮想ではなく現実なのですよね。ところが、本文でも指摘されている通り、仮想空間は人がいちいち作らなくちゃならないから、作られていないものはありえない、つまり底の浅い空間になりますね。
 かつてCDが作られた時、耳に聞こえない音域は総てカットされました。そしたら音楽から深みが消えたと不評でした。聞こえないもの、見えないもの、知らないものが実は重要な位置を占めていたって話ですね。
 作られたものは飽くまでも人の想像の範囲内です。どんな想像力の豊かな人でも限界があります。ですが、現実世界は予想外の連続です。まあ、仮想現実に取って代わられる事はないでしょう。
 と、携帯電話なんて夢でしかなかった時代を知っている人間がのたまっております。血迷っているのは否定しようがありませんな(笑い。

Re: 思いもかけない事

こんにちは。

大分前に書いたものなのですが、本文で本来的に「扱いにくいもの」である現実の対象、事象に対して開き直って自分すらサイボーグ化して接するようになった場合には、多分価値観が全然変わってしまうんでしょうけど、『サイボーグ化を選ぶ』というところで結構な決心が必要になります。主人公はたぶん、その中で揺れ動いていて、人間らしさを持っているおじさんの事を思い出してみたり、過去の人々の事を血迷っていると表現したり、何だか苦労しそうだなと思いました。


現実の面倒くささに、開き直って仮想に入り込んでいる人がいたとしても、結局誰かが現実の方で管理しなきゃいけない。


自分でもよく分からない作品ですね。でも確かに、仮想空間の方に力を入れているのか、現実を見つめているのか、その両方があり得る今って、未来からしたら相当血迷っているのかも知れません。
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