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ナンセンスとそれから

物語を書くつもりです。リンクフリーです。

よく分からない絆

Posted by なんとかさん on   0  0

とって付けたような文句が壁面に並んでいる。


『洒落たバー』、『イカス天国』、『ほろ酔い三昧』、『たらふくおじさん』


店主が何を考えているかは分からないが、とにかくこの居酒屋『まんべんなく』という屋号に相応しいセンスの張り紙がそこら中に広がっている異様な空間である。ネット上のそこそこ親しい知り合いから、


『とにかく酒が旨いんだ』


と紹介されたので初めて来店したのだが、入った瞬間異空間過ぎて本当に「ここ」なのかと疑ってしまった。困惑しながらも仕事終わりでとにかく腹がすいていたので主に声を掛けて適当な所に座る。異様な壁際よりはと思いカウンターの隅にしたのだが、意外と客は居る様子。皆、全く「あれ」を気にせずに美味しそうに酒を飲み、つまみを召し上がっている。


「マスター!ビールお代わり!!」


照明が明るくてテレビで野球中継を流しているような雰囲気の店なので、自然とお客さんの声も元気である。若い女性客も居て、軽い愚痴を言い合ったり、『分かるわー』と相槌を打ったりしている様子を見ているうちに、<ああいい店なんだな>という気分になってくる。喉が渇いていたので私もとにかくビールを注文し、そこでふうと息をついた。


「マスター、こっちに串焼きお願い」



中年の男性の店主が一人で切り盛りしているらしいこの店で、注文がひっきりなしに来ているが店主はニコニコ上機嫌で、手際よく作業をし続けている。忙しそうだからという理由で壁面の文字の事を尋ねづらいが、実際気になってしょうがない。手渡されたビールをぐいっとやってから、タイミングを見計らって訊いてみる。


「マスター、あの壁の文字は何なの?」


「お兄さんも書いてみるかい?」


「へ?」


意外過ぎる返事に言葉を失ってしまった。理性的に解釈すると、どうやら私も「あれ」を書く事が出来るらしい。


「え、っと…客が書いていいんですか?」


困惑しながら確認したのだが、書いていいというかそもそも書きたいとも言っていないから話がややこしくなる。案の定、


「ここに居る人、みんな書いたと思うよ」


「みんな…ですか…」


かなりの驚愕である。一番離れたところに座っているらしいあの真面目そうな人とか、近くにいる女の子も、本当に「あれ」を書いたのだろうか?何故「あれ」を書くのだろうか?疑問は尽きない。


「そう。みんなで書いて貼ってるよ」


店主が言うと他のお客さんも「そうだよ。お兄さんも書きなよ」と口々に同意している。どうやら店主の話は本当らしいが、そうなるとそれはそれで宗教みたいで怖い…



「まてよ…という事はここを紹介してくれた知り合いも書いたのだろうか…」


気になってその場でメッセージを送ってみる。すると、


『はい。『極めつけ爆弾』って手前側にありませんか?』



という返事。そして、普通にあった。というか何故『極めつけ爆弾』なのかもよく分からない。


「えっと、書いてもいいという事でしたが何を書けばいいんですか?」


書くとは言っていないが書くとしたら何を書けばいいのかは当然常識人として気になる。


「それっぽいのでいいよ」


「それっぽいとは…」


だから「あれ」が何なのか分からないのに、「それ」っぽいという事は論理的に考えるととてつもなく曖昧なものである。眼がくらくらしてきたのは酒のせいではあるまい。それはそれとして先ほど注文した厚焼き玉子が異様に旨いし、非常に和気あいあいとした雰囲気なのでヘンな気持ちになってゆくのを感じる。


「わかりました」


「はい、じゃこれ用紙とマッキー」


普通にマジックペンで書かれていたのは分かっていたが、いざ「あれ」を書くとなると悩む。だが考えてみたら悩むほどのものでもないだろうと思って、


『はんぺんパラダイス』


と書いておいた。理由はその時はんぺんが食べたかったからだ。居酒屋で夜は更けてゆき、何事もなく腹が満たされたところで自宅に戻る。私は寝る前に知り合いに再びメッセージを送った。


『『はんぺんパラダイス』っていいと思う?』


すると返事は。



『いいと思います。あそこおでんも旨いですよね』



だった。よく分からない絆が産まれたような気がする。

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なんとかさん

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